第10話 ビーカーの中からこんにちは
右手の親指に強めの魔力、人差し指に弱め、中指に強め、薬指にやや弱め、小指にやや強めの魔力を込めながら手のひらに強めの魔力を込めてみる。
さらにそこから手を合わせて左手に魔力を移し替える。
うん、悪くない感じだ。
『素晴らしいです。ケイ様。もう魔力操作を完全にものにしましたね!』
「あはは、言いすぎだよシャル。もっと細かく色んなことが出来そうなんだ。これは練習あるのみだね。今までなかった感覚だからすっごい面白いや。」
まだ魔力を動かしたりしかしていないけど面白い、魔力を漲らせるだけで身体能力が向上しているのが分かる。
母さんから使い方だけ教わっている魔法も試したい......けど、ここじゃまずいしまた今度だね。
一息ついて顔を上げると丁度デリータさんが戻ってきたところだった。
「お待たせ。これは魔力操作が苦手な人用の魔道具なのだけど。」
そういうとデリータさんは2個の魔道具とビーカーのようなものを持ってきていた。
「この魔道具は魔力操作の訓練に使うものよ。まぁ子供向けのおもちゃみたいなものだけど練習には最適よ。右から左に向かって魔力を流して中に入っている球を左から右へ動かすの。それが出来たら今度は逆ね。」
魔力は右から左に流しながら中に入っている球を逆に動かす......?
子供向けのおもちゃ難易度高いな!?
「中々複雑な操作が必要そうですね......。出来るかな......?」
ゆっくり右手から魔力を流し込みながら球をかき出すイメージで操作していく。
左側にある魔晶石が青く光り魔力がそこまで届いているのが分かる、後は球を右側に......。
ゆっくりと球が動いていく。
3分程時間をかけて球を右側へ移動させることに成功した。
「......ふぅ。これは難しいですね。これで子供のおもちゃですか......。」
さっきまで悪くない感じだ、とかドヤっていた自分が恥ずかしい。
シャルのお世辞に乗せられていたのか......。
次は逆か......がんばろう......。
「結構時間がかかったわねぇ。魔晶石はすぐに光っていたから一瞬で終わるかと思っていたのだけれど。魔晶石を割らないように出力を調整するのが難しかったのかしら?」
結局反対方向に動かすのも3分くらいかかってしまった。
「いえ、魔晶石を光らせながら球を魔力の流れとは逆方向に動かすのが難しくて。子供のころからこういうことをしているんですね......。」
もっと自由に素早く魔力を動かせるようになる必要があるってことだね。
普段から意識して魔力を動かすようにしよう。
このままだと魔法も使えるかどうか......。
「魔晶石に魔力を流し込めば球は動くはずだけど......?まぁゆっくりとはいえ出来たなら問題ないわね。次の魔道具も似たようなものよ。少し難易度は上がるけど。並んで配置してある3個の魔晶石にそれぞれ魔力を流し込むの。2個以上に流さないようにするのよ。魔力を流し込めば光るからそれで判断出来るわ。」
なるほど、さっきのやつより簡単じゃないかな?
熊手のようなイメージで魔力を集中させればいけるかな......。
試しにやってみると簡単にできた。
「あら、それは随分あっさりできるのね。さっきのものよりかなり難易度は高いと思うのだけれど。不思議な子ね。」
これは魔力を動かすことはあまり得意じゃないけどイメージ通りに形作ることは得意ってことかな?
デリータさんの評価と少しずれているような気がしなくもないけど。
「魔力操作も出力調整も問題なさそうね。魔力操作は自分で色々練習を続けておくといいわ。後これは興味本位だから拒否してくれてもいいのだけれど......。」
そういいながらデリータさんはビーカーに入った液体......にしては随分の固めな感じが......ゼリーかな?
まぁ兎に角そんな感じの物を渡してくる。
「これは?」
「これはね、スライムっていう魔物の一種でマナスライムって子よ。」
「これがスライムなんですか?」
「えぇ、その子を手に取ってもらえるかしら?あ、粘液がついたりとか汚かったりはしないから安心して。」
ビーカーをひっくり返して手の上にスライムを載せてみる。
どろっとした感じかと思ったけどプルプルして張りがあった。
プリンより少し硬い、グミよりは柔らかそうな感じがするかな......。
「......想像してたより弾力があるのと、ひんやりしていて結構気持ちいいですね......。」
「あら、気に入ってもらえたかしら?」
「ええ、悪くないです。この子に自分の意思はあるんですか?」
「自意識というほどのものかは分からないけれど、呼べば近づいてくるくらいには躾けられるわね。」
「へぇ、結構賢いんですねぇ。」
手の中でプルプルしているスライムを撫でてみる。
中々気持ちいい感触をしているな。
「スライムは街の色々な場所で使われているわ。有名なところだと清掃やゴミの処理、珍しい所だと怪我の治療なんかにも使われているわね。」
「そんなこともできるんですか?すごいな......。」
「まぁその子は治療用スライムじゃないけどね。スライムはその性質によって色々な種類に分けられているの。その子はマナスライム。今は透き通った青色だけど、マナスライムに魔力を流し込んでいくと吸収した魔力に応じて色が変わっていくのよ。それで大体の魔力量が測れるってわけ。」
「へぇ、面白そうですね!では、やってみます。」
魔晶石みたいに弾けたりしたら大惨事なので、ゆっくりと慎重にスライムに魔力を流し込んでいく。
青から緑になり黄色になり橙になり赤になりといった感じにどんどん色が変わっていく。
透明度もどんどん下がっていき初めのうちは透けて見えていた俺の手も見えなくなっていく。
完全に向こう側が見えなくなった頃にはスライムの色は濃い青になっていた。
そのまま魔力を流し続けるが色は変わらなくなったがスライムがぷるぷる震えだした。
「......なんか雰囲気変わってきましたけど大丈夫ですか......?」
「ちょっと魔力を止めてもらえるかしら?」
魔力を流すのをやめると手の上でスライムが飛び跳ね始めた。
「スライムがジャンプするのは初めて見るわね......。」
「大丈夫でしょうか?」
どことなく嬉しそうに弾んでいるけどスライムの感情は分からない。
もしかしたら苦しんでいるのかもしれないしな......。
「ちょっと貸してもらえる?」
デリータさんがスライムを掴もうと手を伸ばすと、その手から逃げるように俺の腕をスライムが昇ってくる。
「......今私から逃げたかしら?」
デリータさんが手を引っ込めるとスライムは俺の手のひらに戻る。
そしてまたポムポム跳ねている。
しかしデリータさんが手を伸ばす素振りを見せると跳ねるのをやめ、捕まえようと手を伸ばすと俺の腕を登って逃げようとする。
「間違いなく私から逃げてるわね。興味深いわ。」
デリータさんが手を引くとまた手のひらの上で飛び跳ねる。
「でも少しむかつくわ!」
スライムが跳ねた瞬間デリータさんが勢いよくスライムを両手で捕まえた。
「私から逃げようなんてっ......!?」
台詞を最後まで言わせることはなく、スライムはデリータさんの手からにゅるっと抜け出すとそのまま俺の手の上に戻ってきた。
想像以上に機敏だ。
そして膝の上にいるシャルがスライムを睨んでいる気がする。
とりあえず空いているほうの手でシャルの頭を撫でておく。
「そんな速さで動ける子じゃないはずなんだけど......。あなたの魔力量を調べるつもりが予想外に面白いことになったわね......。」
魔力量を測れるなら測ってもらいたかったけどスライムが予想外の動きをしたおかげで計測は出来なさそうだ。
一応俺の魔力量はかなり多いと母さんからは聞いてはいるのだけれど。
「魔力量は測るのは失敗でしたか?」
「あ、ごめんなさい。結果を伝えていなかったわね。途中で魔力を流すのを止めてしまったから中途半端だけど......少なくとも中級の魔術師の平均値は余裕で超えてるってことくらいまでは分かったわ。」
中の中よりは多いって感じか。
いや魔術師ってことは一般人よりは多いのかな?
「途中でその子がそんな状態になったから正確なところは分からなくてごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。面白い物も見れましたし。」
「調べてあげるつもりが面白い研究素材を提供してもらった感じになってしまったわね。」
スライムを見つめるデリータさんの瞳が爛々と輝いている気がする。
研究素材って言われるとちょっとかわいそうかなと思わないでもないのだけれど......。
なんかなついてくれてる感じがするし。
相変わらずスライムは俺の手の上で跳ねている。
左手を差し出すと右手と左手を交互に飛び跳ね始める。
うーん、可愛いな。
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