第327話 分からなければ聞けばいい



『ケイ様。お待たせいたしました、情報収集をしてまいりました。それと件の魔物をこの者が目撃していたようなので連れてきました。』


俺達が足跡の傍で他にも何か痕跡がないか調べていると、ファラが一匹のネズミを連れてやってきた。

目撃者がいたのか......それはかなり助かるな。


『話によるとその魔物は朧気な姿で、夜になると現れるそうです。何をするでもなく、ただ立ち尽くしていて気づいたら消えているそうです。』


「へぇ......。」


蜃気楼みたいな感じってことかな......?


「スライムみたいな感じではないのかな?」


『......スライムではないようです。人型の巨大な魔物だそうですが......その姿がはっきりしないのでそれ以上は分からないとのことで。』


「......なるほど......今聞いた話で心当たりはある?」


『申し訳ございません。私には心当たりはありません。』


『聞いた限りでは私も分かりかねます。力及ばず不甲斐ない限りです......。』


俺が問いかけるとシャルとファラが謝ってくる。

いや、怒ってないからね?

大丈夫だよ?

俺は肩にいるマナスの方を見るけど、マナスも心当たりが無いようで横向きに小さく震えている。


「気にしなくて大丈夫だよ。これから調べて行けばいいのだからね。でも、皆が知らないってなると相当珍しいのかな......ナレアさん達にも聞いてみないとな。」


俺は懐から通信用の魔道具を取り出して話しかける。


「誰か聞こえますか?先ほど目的地に着いて、情報を少し集めたので相談したいのですが......。」


『ケイか?どんな様子だ?』


「レギさんですか?こちらは今の所、特に問題はありません。少し魔物の情報が手に入ったのですが......。」


『聞かせてくれ。』


レギさん以外からは返事が聞こえてこない......というか、レギさん返事がめちゃくちゃ早かったな。

傍に魔道具を置いて、いつでも連絡が付くようにしてくれていたのだろうな。


「まず足跡ですが、先日聞いた通り人型の巨大な魔物の物でした。その魔物の様子を見ていたネズミ君から話を聞けたので、心当たりがあったら教えてください。」


俺はネズミ君から聞いた情報とシャルが感じた魔力の事、シャル達の誰もその魔物について心当たりが案かったこと等を伝えた。


『......なるほどな。すまねぇ、俺もその魔物について心当たりはないな。リィリ達にも聞いておくが、あいつら今街に出ているからな。戻ってきたら聞いておく。』


「ありがとうございます。」


なるほど......二人はノーラちゃんと一緒にお出かけって感じか。

グルフは連れて行ってないよね......?


『シャルが気になった覚えのある魔力って奴が気になるな。』


「そうですね......その線から何か分かるかも知れませんが......もう少し情報を集めて、後は実際にその魔物を見てみたいですね。」


『待っていれば、その内会えそうなのか?』


『......数日に一度、夜に現れるそうです。』


レギさんの質問にファラが情報を教えてくれる。


「時間はかかるかも知れませんが、数日の内に会えそうです。」


『そうか。俺の方もまだ当分は動けないしな。魔物を見つけたとしても無茶だけはするなよ?』


「分かりました。定時連絡は入れるのでまた夕暮れ頃に連絡します。」


『了解だ。何かあったらすぐに連絡しろよ?』


「えぇ、レギさんも頑張ってください。」


『おう。』


俺達は通信を終える。

レギさんの方は問題なさそうだけど......レギさんも心当たりの無い魔物か。

相当でかい魔物だし、特徴は結構あるから......知っていればすぐに思い出すだろうし、新種の魔物かなぁ?

ネズミ君の話では突然現れて、気づいたら消えているってことだけど......まぁ実際に会ってみれば分かるか?


「周辺の調査は進めてくれているのだよね?」


『はい!配下にした者たちによって調べさせています。今の所怪しい物は発見出来ておりませんが......。』


「うん、引き続きお願いするよ。まぁ、巡回している人達も、村の中の足跡以外には不審な物を見つけられてないみたいだし、何もない可能性は高いけどね。」


『承知いたしました。』


「......あ、そういえばナレアさんが遺跡の可能性も考えていたっけ。その可能性も調査してくれるかな?」


「はい。ケイ様のおっしゃられていた井戸の先等も調べさせておきます。」


「うん、よろしくお願いね。シャル、俺達はどうする?」


ファラが俺の返事を聞き駆け出したので、俺はシャルに今後の方針を相談する。


『そうですね......私は先程レギが言っていたように、魔力の事が気になっています。その辺をもう少し探ってみたいと思っています。』


「なるほど。うん、それが良さそうだね。マナスも魔力には敏感だし手伝ってね。」


俺が話しかけるとマナスが大きく弾む。

うん......まぁ、魔力について調べると言っても......完全に二人任せだけどね......俺、そういったこと出来ないし......。

俺の肩から飛び降りたマナスが足跡に近づき、シャルはその周囲を何やら調べる。

流石に役に立たないからと言って、俺がここから離れるわけにはいかない。

俺がこの場を離れようとすれば、必ず二人は俺についてくる。

だから俺に出来ることは、二人の邪魔にならない様に周囲を見渡して、何か偶然発見出来ないか期待するくらいだ。

まぁ、ファラやネズミ君が調べているだろうから、俺が何か発見出来ることはないだろうけどね......。

しかし......どこから歩いて来たわけでもなく、どこに向かうでもない......突然この場に現れて気づいた時には消えている......ね。

......まさか、この村で殺された人たちの怨念が魔物として現れた......とかじゃないよね?

そういえば、魔物の体が霞んで見えるってことだったし......アンデッドの中でも霊体系だろうか?

そう言うタイプの魔物がいるって聞いたことはないけど......レギさんに聞いてみるか?

あれ?

でも足跡があるな......じゃぁ霊体系ではないのだろうか?

実体がなければ足跡は付かないだろうし......まぁいいか、聞いてみよう。


「シャル、少しレギさんと話をしているから何かあったら教えて。」


『承知いたしました。』


シャルに聞いてもいい気はするけど、何やら考え込んでいるようだし今はそっとしておいた方がよさそうだ。

俺は片付けたばかりの魔道具を取り出して呼びかける。


「レギさん、さっきの今で申し訳ないのですが、今いいですか?」


『どうした?何か分かったか?』


「いえ、そう言うわけでは無いのですが、少し聞きたいことが。アンデッド系の魔物についてなのですが......。」


『アンデッド系の魔物?別に構わないぜ?』


「ありがとうございます。アンデッド系の魔物で肉体を持っていない類の魔物っていますか?」


『肉体を?アースの様なスケルトンみたいなやつの事か?』


「あ、いえ肉が無いと言う意味ではなく......実体がないと言いますか霊体といいますか......。」


『......?いや、すまん。どういうことだ?体そのものが無い魔物ってことか?霊体ってのはなんだ?』


逆にレギさんに質問されて思考が止まる。

そもそも霊ってなんだ......?

どう説明すれば......。

魂的な......いや、魂もそもそもよく分からない。


「えーっと何と言いますか......存在していないといいますか......漂っているといいますか......。」


『......すまん。よく分からんが......アンデッドって言っていたな?何かの死体ってことか?』


「いや、死体ではなくてですね......うーん。」


まずい......自分から聞いておいて、何を質問しているのかを説明できないぞ。

しかし、本当にどう説明したら......霊魂とかって概念がないみたいだし......そもそもこの世界のアンデッドって存在が......リィリさんという例外を除けば、死体に魔力が宿って動かされている物って感じだからな......。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る