第326話 久しぶりの一人仕事(保護者同伴)
俺はカザン君に依頼された魔物の調査の為に、元開拓村にシャル達と一緒に来ていた。
因みにレギさん、リィリさん、ナレアさん、グルフは領都に残っている。
レギさんは別の依頼を受けているし、リィリさん達はノーラちゃんに付きっ切りだ。
俺と一緒にカザン君が来たそうにしていたのだが......流石に何日かかるか分からない調査に領主の仕事を放り出してくることは出来なかった。
まぁ、何かあっても一大事だしね......シャルやファラが居て何かある様ならグラニダは滅びるしかないかもしれないけど......。
「さて、足跡を探そうか。」
『ケイ様。申し訳ありませんが、私は部下を調達してきてもよろしいでしょうか?周辺も調べる必要があると思いますので。』
俺が皆に声を掛けると、ファラが申し訳なさそうにしながら許可を求めて来た。
「うん、そうだね。それはファラじゃないと出来ないしお願いするよ。じゃぁ、シャル、俺達は足跡を探そう。」
『承知いたしました!』
村の入り口でファラと別れ、俺はシャルとマナスを共に村の中へと足を踏み入れる。
巡回の兵が来るかもしれないし、念の為シャルには子犬サイズになってもらっている。
一応カザン君の印章入りの依頼書は作ってもらっているので、兵に見つかったとしても咎められることは無いだろう。
でもシャルを遠目に見られたりしたら、いくらカザン君の印章があってもね......。
それにまぁ、シャルの足跡も村の中にあったら大騒ぎになるのは想像に難くない。
カザン君は理解してくれるだろうけど......兵の方々にいらない混乱を引き起こさせてもね。
そんなことを考えながら周辺を見渡す。
......襲撃された村か......。
建物は壊され、雨風に晒されて殆ど原型は残っていない。
黒土の森に向かった時に見た廃村とはまた違う......なんとも言い難い陰惨なものを感じるのは......アザルの襲撃によって滅ぼされたと聞いているからだろうか?
襲撃の事実を拡散させるために意図的に逃がされた人もいるのだろうけど......ほぼ全滅......一体何人の人がここに暮らしていたのか......。
......既に死んでいる相手とは言え......もう少しぶん殴っておくべきだったかな......非常に......イライラする。
『大丈夫ですか?ケイ様。御気分がすぐれないようでしたらお休みください。調査はファラに任せておけば完璧にやりましょう。』
「大丈夫だよ。まぁ、確かにファラに任せた方が完璧な調査をしてくれるだろうけど......俺も少しは働かないとね。カザン君から依頼を受けたのは俺だしね。」
『我ら眷属の全てはケイ様の物です。我らの力をお使いになられることで十分働いておられます。』
それは流石にちょっと......。
ファラを働からせたのだから俺は仕事をしましたって......とてもじゃないけど言えませんよ?
「そういうのはちょっと俺には向いてないなぁ......まぁ少し思う所があっただけで、調子は悪くないから大丈夫だよ。」
俺は隣を歩いているシャルに言う。
肩に乗っているマナスも俺の様子を窺っている気がする。
俺はマナスをいつも通りむにむにと撫でてから、もう一度村の様子に目を向ける。
道はしっかりと踏み固められているようで、歩くのに不自由するほど雑草は生えていない。
逆に崩れた建物は緑に覆われつつあり、人がいた痕跡を覆い隠そうとしているように見える。
ここから田畑は見えないけど、恐らく荒れ放題なのだろう。
カザン君は一からやるよりは楽って言っていたけど......まぁ、木の根とか石や岩を取り除きながら土地を耕していくよりは楽なのだろうけど、それでもかなり大変そうだ。
早くしない更に大変になっていくのだろうしね......。
まぁ、そのためにも早い所今回の件を片付けないとね。
『あまりご無理はなさらないでください。』
「うん、気を付けるよ。ありがとうね、シャル。」
『......いえ、差し出がましいことを申し上げました。』
そう言ったシャルが俺から視線を外して前方を見る。
『ケイ様。この一帯......魔力の残滓が感じられます。』
「魔力の残滓?」
『はい......この場にこびりつく様な魔力を感じます。』
「それって足跡の魔物の物かな......?」
『確証はありませんが、恐らくは......。』
「なるほど......。」
シャルと話しながら歩いていると肩に乗っていたマナスが何かに反応した。
『向こうに魔力が色濃く残っているようです。どうしますか?』
マナスと同様にシャルも気づいたらしくマナスが反応した方向と同じ方に顔を向ける。
「うん、行ってみよう。そこに足跡があれば魔物の魔力ってことでほぼ間違いなさそうだし。」
「承知いたしました、こちらです。」
シャルの先導に従って少し道から外れる。
証拠をしっかり掴むまでは、シャルの言う魔力の残滓が件の魔物の物であると決めつけたりはしない。
まぁ、頭の隅では十中八九間違いないだろうなぁとは思っているけど......他の可能性も残しておかないと、いざ予想が外れた時に次の行動に移るテンポが若干遅れる可能性があるからね。
警戒しておいて損はしない。
シャル達が一緒に居るとは言え、普段であればこういった危険が予想される調査に俺一人で来るなんてことはないだろう。
そう言った意味では今回のこの調査はかなり珍しい......いや、こういった仕事を、レギさんと組むようになってから一人でやるのは初めてじゃないだろうか?
レギさんとしては万全の体勢を整えるべきだって考えだと思うけど......特に未知の部分が大きいしね。
先にカザン君から依頼を受けていなかったら是が非でも同行してくれたと思う......。
因みにナレアさん達はシャル達もいるし大丈夫だと言って送り出してくれた。
レギさんは相当渋い顔をしていたけど......カザン君......いやグラニダの為にも早めに調査した方が良いという俺の意見を聞いてくれたのだ。
ナレアさん達に何度も付いていくように言ってくれていたけど......散々過保護だなんだと言われて諦めたみたいだった。
まぁ、俺も一応下級冒険者だ。
初級冒険者を卒業できる程度には一人で依頼を受けていたし......レギさんから見たら頼りなくはあるのだろうけど......少しは安心してもらえるようになりたいね。
そんなことを考えながらシャルについて歩いていると......巨大な足跡を発見した。
大きさは......片足三個よりちょっと大きいな、まぁ調べた人が俺より大きかったのだろうね。
「魔力はどうかな?」
『はい。この一帯に残っている魔力は足跡の主の物だと思います。』
シャルの言葉を肯定するように肩でマナスが跳ねる。
二人が言うなら間違いないだろうね。
『しかし......どことなく覚えのある魔力のような......。』
「知っている人の魔力ってこと?」
『......懐かしさを覚えると言った感じではないのですが......混乱させるようなことを言って申し訳ありません、何か思いついたら報告いたします。』
「うん、よろしくね。」
心当たりを探るように思考に埋没するシャル。
邪魔するのも悪いと思うけど......疑問については話しておこう......インプットが増えたら何か思い至るかも知れないしね。
「......あからさまにこの足跡おかしいよね。」
『はい......どこからかこの場に降り立ったかのような......歩いてここまで来た痕跡はありません。』
「うん......。」
直立って感じではないけど、足跡は足を開いて立っているだけのような......両足の物がならんであるだけで、ここまで歩いて着た痕跡も、ここからどこかに向かったような痕跡も残されていないのだ。
『足跡にこのように魔力が残っているという事は......恐らくこの足跡の主はマナスのように体の大半が魔力で構成されているのだと思われます。』
「なるほど......。」
......マナスの体の大半ま魔力で構成されているのか......いや、今重要なのはそこじゃない。
相手は巨大なスライム......?
もしそうだとしたら......下水掃除のスライムみたいにマナスの配下にするみたいなことが可能かもしれないな。
まぁ......明らかに足跡は人型って感じだけど......スライムなら変形できるしね。
可能性は零じゃない。
でも、そんなサイズのスライムが這ったような跡もない......いやマナスみたいに体の大きさを変化させられるタイプかもしれないね。
わざわざ足跡をつける意味はわからないけど......そういう生態かもしれないよね?
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