第325話 魔物の影
俺達が領都に戻って来た翌日、カザン君に昨夜の件で話があると呼び出された。
ノーラちゃん達が話しかけて来たのですっかり忘れていたけど、何か頼みたいことがあるって言っていたっけ?
「昨夜の件って、何か魔物関係の依頼があるんだっけ?」
カザン君の執務室にある応接用のソファに腰掛けながら俺が切り出す。
向かいに座るカザン君が真剣な表情で頷き話を始めた。
「えぇ。実は領内で大型の魔物の痕跡が見つかりまして......。」
「それは随分穏やかじゃないな......。」
大型の魔物と聞きレギさんが唸る。
大型の魔物か......グルフくらいだろうか?
あるいはクレイドラゴンさんサイズ?
「はい......ただ、今のところ被害は出ていないと考えられています。」
「ほう?被害が出ていないのに魔物に気付けたのか?」
「はい。ただ被害が出ていないと言うのは憶測に過ぎないのですが......少なくともどこかの集落が滅ぼされたとか、住人や家畜、農作物に被害が出たという届け出は受けていません。」
「それでよく大型の魔物に......あぁ、痕跡があったって言っていたか。」
「はい。アザルの謀略によって、開拓民の村が襲撃されたことは皆さんも覚えていらっしゃるかと思いますが......住人の大半が殺害されてしまったとは言え、開墾した土地は残っています。まぁ、半年以上放置されていたので荒れ放題ではありましたが......一から開墾するよりは楽なので......いわくつきの土地ではありますが状態を調べさせていたのです。」
確かに......縁起は悪いかもしれないけど......グラニダ領外の様子を見る限り、縁起が悪かろうとグラニダ領内に住みたいって考える難民は少なくなさそうだ。
まぁ、開拓民が虐殺されたって噂が広まっていなければだけど......。
「その中で領都の北西方面に位置する元開拓村で巨大な足跡が発見されました。」
「北西と言うと......治安が悪化しておった地域かの?」
「はい、ナレアさんのおっしゃる通り......件の地方軍が治めていた地域にある開拓村です。」
「一概にもそいつらのせいとは言えねぇが......。」
「でも......気持ち的にはそいつらのせいって感じですよね。」
レギさんの後を継いで俺が言うと、苦笑しながらまぁなと同意するレギさん。
「足跡が見つかったのは一か所の村だけ?」
リィリさんが尋ねるとカザン君が頷いた。
「ただ、不思議なのが村の外には一切足跡が残っていないことです。部隊を巡回させているのですが魔物自体を見つけることは出来ておりません。ですが、その村に行くと以前は無かった足跡が増えていると報告があがっています。」
「その足跡って言うのはどのくらいの大きさなんだ?」
「調べた兵の靴の三足より多少大きい程度だったそうです。」
二十五センチくらいとして七十五センチ以上......グルフでさえ、俺の足二個分より小さかったはずだから......かなり......いや、めちゃくちゃ大きい。
その計った人が大柄か小柄かで多少変わってくるけど......まぁ誤差十センチってところだろうか?
これはクレイドラゴンさんサイズあり得るのでは......。
レギさん達も黙り込んでしまっている。
「心当たりはありますか......?」
「「......。」」
カザン君の問いに誰もが言葉を返せないでいると、リィリさんが顔を上げて意見を言う。
「......足跡だけじゃはっきり分からないけど、グルフちゃんより二回り以上大きな魔物って感じがするよね?」
「......そうだな。」
「すぐに思いつく魔物だと......ドラゴンじゃろうか?」
この世界のドラゴンは応龍様の眷属しか知らないけど......眷属以外のドラゴンも空を飛べるのだろうか?
もし飛べるのであれば村の外に足跡が無くても不思議ではないけど......。
「流石にドラゴンが飛んでいたら誰か気付くんじゃないか?」
「まぁ、そうじゃろうな......騒ぎにならない方がおかしいのじゃ。」
「あ、すみません。言い忘れていましたが、獣のような足跡ではなく人の足跡のような感じだったそうです。」
......それは結構重要なヒントだと思うけど......。
そう思ったのは俺だけじゃ無いようで、全員がジト目でカザン君を見ている。
「す、すみません。」
「まぁ良いのじゃ。しかし人型でその大きさとなると......巨大ゴーレムとかかのう?その辺りに遺跡があったりせぬか?」
恐縮するカザン君を見ながら、ナレアさんが質問をする。
「遺跡を発見したという報告は聞いたことがないですね......開墾を進めている平地なので見落としは無いと思いますが。」
「ふむ......丘や森があれば地下遺跡も考えられたが......平地という事から考えるに、そんな大きさのゴーレムが出入りできるような遺跡があれば、例え地下遺跡だとしても発見くらいは出来てそうじゃな......。」
若干残念そうにナレアさんが言う。
いや、流石のナレアさんでも今は遺跡を優先したりはしないだろう......。
多分、あったら良かったのに......程度の想いのはず。
「村の外に足跡がないのでしたら、村の真下に遺跡があるかも知れませんよ?井戸とかから繋がっているみたいな感じで。」
「井戸が何らかの横穴に繋がる可能性はあるかも知れぬが......流石にそんな巨大なゴーレムや魔物が井戸を通って出てくるのは無理じゃろうな。」
「確かにそうですね......。」
「まぁ、妾達の知識にない相手じゃからな......ここで話していても埒が明かぬのう。」
「そうだな。正直そんな巨大な魔物が現れたなんてなったら、ギルドで討伐隊が組まれるのは当然、戦力評価次第で大規模な軍が出動することになる。」
以前、灰王と呼ばれたグルフのお爺さんが都市国家近くの森にいた時、何度か冒険者ギルドで討伐隊が組まれたって言ってたよね。
軍が起こる寸前で灰王が姿を消したからそこまではいかなかったらしいけど......足跡だけで考えるなら今回の魔物はグルフよりも大きい。
「黒土の森にいた蛇の魔物くらいですかねぇ?」
「あぁ、あいつか......全長で比べるならあいつの方がでかいんじゃないか?」
「蛇の魔物って......レギさんの人形でありましたね。あの蛇はそんなに大きかったのですか?」
「レギにぃ五人分くらい?」
「......とんでもない大きさですね......あんな可愛い人形になっていたのに......。」
レギさんは多分百八十センチ以上あると思う......あの蛇は全長十メートルくらいあったと思うし、大体そんな感じかな?
人型の足のサイズであることから考えて十メートルはないか......精々三メートル半から四メートルくらいかな?
「大きかったけど......いい子だったよ。あの子のお陰で探索が一気に進んだからね。」
「......いい子ですか......。」
リィリさんが蛇の魔物について感想を言うと、カザン君が戦慄したように呟く。
「まぁ、強さ的にはグルフと同じくらいみたいだし、戦闘にならずに話を聞かせてもらっただけだからね。」
「なるほど......こうして話を聞くと......やっぱりケイさん達は物凄いですね。」
「「そう?」」
俺とリィリさんが首を傾げると、カザン君が、あははと渇いた笑い声を上げる。
「俺も重々自覚しているつもりだが......普通はカザンの反応が正しいからな?」
「うむ。ケイと居ると色々マヒしてしまうがのう。正直簡単にあしらっておったが、爪牙の奴等も神域の外では化け物じゃぞ?」
更にレギさんとナレアさんが言葉を続ける。
それにしても爪牙の三人が化け物......あの子達が......化け物......。
まぁ......今頃中庭でノーラちゃんと遊んでいるグルフでさえ、街が滅びるとか滅びないとか......すぐに甘え鳴きをして頭を擦り付けてくるグルフが......?
「まぁ、言いたいことは分かるのじゃ。爪牙の奴等もグルフも、ちょっとアレじゃからな。」
「......まぁ、あいつらの事はおいておけ。それより今はカザンの方だ。」
「そうですね......とりあえず俺達でその魔物の調査、問題がある様なら討伐すればいいかな?」
「......大丈夫でしょうか?」
俺が確認するようにカザン君に問いかけると、申し訳なさそうにカザン君が確認してくる。
「......まぁ、余程の事が無ければ大丈夫だと思うが......最悪でも逃げることくらいは出来るだろう。」
不安そうなカザン君にレギさんが返す。
「......わかりました。ケイさん、よろしくお願いします。それとレギさん、こういう場合の依頼料について教えて頂いてもいいでしょうか?」
「あぁ、まず調査対象地域、期間、予測される危険度を元にだな......。」
レギさんがカザン君に契約についての話を始める。
その辺の話はさっぱりだからレギさんに任せるとして、調査に向かうのはレギさん以外かな?
もしくは、俺とシャル、ファラ、マナスでもいいかな?
ノーラちゃんとしてはグルフとリィリさん、ナレアさんが残った方が嬉しいだろうしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます