第267話 のんびり過ごす



ナレアさんが部屋を出て行った後、暫くレギさん達と雑談を続けていたらカザン君が部屋に戻ってきた。


「先ほどナレアさんに会ったのですが、龍王国に行かれるとか......。」


「うん。以前話したと思うけど龍王国で起こった事件の事でね。アレも檻の仕業っぽかったからその件を伝えに行ったんだ。」


「なるほど、そういうことでしたか。でも、向こうに戻るのはナレアさんだけで大丈夫なのですか?」


「うん、龍王国についてはナレアさんが一番詳しいし、お偉方にも顔が利くからね。それに飛んで行くらしいから一人の方が身軽なんだよ。」


「飛んで......なるほど、てっきりグルフさんに乗っていくのかと思っていましたが。戻られるのはどのくらいになるのでしょうか?」


「向こうにどのくらい滞在するかにもよると思うけど......二十日くらいじゃないかな?片道は五日もあれば十分だと思うけど、他にも寄りたい所があるみたいだから少し時間はかかるかもね。」


「そうでしたか。ナレアさんが戻るまで皆さんはどうされるのですか?」


「あーそれなんだけど......。」


......いざ、半月ほど家に泊めてって言う段になってみれば......結構切り出しにくいぞ。

かなり図々しいお願いだよね?

言いにくそうにしている俺を見てカザン君が首を傾げている。


「どうしたのですか?」


「あーナレアさんが戻るまでの間、この館に滞在させてもらってもいいかな?」


俺の言葉に一瞬キョトンとしたカザン君だったが、言い淀んでいた俺の心情が理解できたのか少し笑みを浮かべた後嬉しそうに頷く。


「えぇ、勿論。好きなだけ滞在してください。」


「ありがとう。助かるよ。」


「部屋は昨日使ってもらった部屋をそのままお使いください。」


カザン君から許可を貰えたので俺達の滞在場所が決まり、同時にリィリさんが椅子から立ち上がる。


「ありがとー。私はノーラちゃんの所に行ってこの話伝えてくるね。多分ナレアちゃんが出て行って寂しがっているだろうし。」


「ありがとうございます。ノーラの事よろしくお願いします。」


カザン君が軽く頭を下げると、リィリさんは任せてーと言いながら手を振って部屋から出て行った。


「俺はまだ調査が終わっていないからな、書庫の方を調べようと思うが......少しカザンに頼みたいこともあるんだがいいか?」


「えぇ、構いませんが......何ですか?」


レギさんが早速冒険者稼業の売り込みを始めるようだ。

やはり下水掃除を求めるのだろうか......?


「冒険者がやるような仕事......って言ってもわからねぇか。街中の雑用みたいな仕事ってないか?もし何かあれば、少しやりたいんだが。」


「雑用のような仕事ですか......?ちょっと確認してみないと分かりませんが......。」


「すまねぇな。まぁあまり真剣に探さなくてもいいからな。適当に頼むわ。」


「分かりました。」


いきなり下水掃除させて欲しいとはいかないか......まぁ冒険者に頼む慣例が無いってことだし、インフラ整備は公共事業だろうね。


「ケイさんは何か予定があるのですか?」


「少しあるけど、基本的にはここでの調査と......後はやれることがあるなら、カザン君の手伝いでもと思っているけど。」


「それはとても助かります。頼りにさせてください。」


「あはは、微力を尽くすよ。」


手伝いと言っても何が出来るか分からないけど......まぁ、カザン君に上手く使ってもらおう。




ナレアさんが龍王国に向けて出発してから数日。

俺とレギさんはカザン君の細々とした仕事を手伝いながら書庫や隠し部屋の調査を続けていた。

とは言え、特にめぼしい情報もなく、カザン君のお父さんの手記以上の情報は手に入りそうもなかった。

そうこうしている内に約束の期限が過ぎ、ファラが領都に戻ってきたのだが......残念ながらというか案の定というか......牢から逃げ出した檻の構成員を補足することは出来なかったようだ。

ファラは物凄く気にして......落ち込んでいたけど、そこまで気にしなくてもいいのだけどな。

沢山ねぎらったつもりではあるけど......まだ浮かない感じは否めない。

とりあえず今日はそんなファラの慰安も込めてシャルやマナスも一緒に森に遊びに来ている。


「んー風が柔らかい感じがして気持ちがいいな。」


『最近はあまり外に出ることがありませんでしたしね。少し羽を伸ばされるのがよろしいかと。』


俺が背筋を伸ばしながら声を出すと少し機嫌の良さそうな声音でシャルが返事をする。

久しぶりに俺達だけで遊びに出たのを喜んでもらえているようだ。


「あはは、今日はみんなのお手入れの道具を持ってきたからね。終わったら久しぶりにみんなで遊ぼうか。グルフも外でずっと一人で寂しかったでしょ。」


きゅーんと甘え鳴きをしながらグルフが顔を擦り付けてくる。

その大きな頭を俺は両手で抱えるように撫でてあげると、グルフは嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振りながら目を細める。

街中に入れる他の子達と違ってグルフはいつも外で一人だからな......シャルみたいに体を小さくする魔法が使えたらいいのだけど......体を小さくする魔法ってどういう仕組みなのか想像が出来なくて未だに魔道具を作ってあげられてないんだよね......。

シャルは......ちょっとグルフに厳しいから魔道具に魔法を込めてくれないしな......。

グルフがもう少し成長したら俺の眷属にするって言っていたけど......まだ許しがでないみたいだしね。

俺の眷属になったらグルフが自力で体を小さくする魔法を使えるようになるかもしれないけど......俺の眷属ってどういう物なのだろう?

母さんみたいに加護を与えられるわけでは無いと思うのだけど......魔法って使えるのかな?

そんなことを考えながら手早く持ってきた道具を用意していく。

まずはシャルからだね。

身体を元のサイズに戻したシャルにブラシを入れていく。

子犬サイズのシャルはとても可愛いけど、元のサイズに戻ったシャルは凄く格好いいよね。

紫にも見える深い黒は、光沢を帯びているようで本当に綺麗だ。

艶やか毛並みはさらさらしていて手触りも非常にいいのだが、場所によってはとてもふわふわしていて体の大きさも相まって抱き着くと非常に気持ちがいい。

ブラシを入れている今は抱き着いたりは出来ないけど......。


『......。』


でも、身体のサイズに関係なく、ブラッシングをされているシャルはとても気持ちよさそうでやっているこっちも嬉しくなる。

まぁシャルに限らず、うちの子達は皆ブラッシングとかのお手入れをすると本当に嬉しそうにしてくれるからこちらとしても非常に楽しめるのだけどね。


「重点的にやってほしい所とかないかな?」


『......だ、大丈夫です!そ、そのまま、お願いします!』


皆の前だからか、いつもブラッシングしている時みたいにふにゃふにゃな感じではないけど、気持ちよさそうで何よりだ。

身体が大きいから時間はかかるけど丁寧にブラッシングを続けていく。

背中側から尻尾までのブラシ掛けを終えた後、シャルに仰向けになってもらい胸からお腹に掛けてブラシを入れていく。

お腹側のブラシを始めると、先ほどまではキリっとしていたシャルの様子が、とろんとした感じに変わる。

威厳を保とうとしているシャルには悪いけど......この感じがやっぱり可愛いなぁ。

最後にもう一度背中側を綺麗にして、シャルのお手入れはおしまいだ。

全身を隈なく手入れをされて少しぼーっとした感じのシャルを尻目に、次はグルフのお手入れを始める。

グルフは野外で生活しているので、手入れを怠るとすぐに毛がごわごわしちゃうんだよね。

シャルの時とは違い、まずは軽くブラシをした後にシャンプー......石鹸で全身を洗っていく。

天地魔法のお陰でグルフを洗うのも簡単になったな。

お湯をシャワーにして掛けられるし、ドライヤー風の温風も出せる。

グルフは体が大きいから、以前は川から水を汲んで掛けるのも大変だったからな。

泡はあまり立たないけど丁寧に洗っていき、最後に水で洗い流す。

グルフが身体を震わせて辺り一面に水が飛び散り、なんか虹が見えた気がする。

グルフの体のサイズでこれをやるとスコールと言うか......結構威力のある水が飛んでくる。

初めて体を洗ってあげた時、俺が水をかけている最中にグルフが身震いをしたから俺もずぶぬれになったんだよね。

その時のシャルが......物凄かった。

俺は反射みたいなものだから気にしなくていいって言ったのだけど......今ではグルフは俺が離れるまで、身体を洗っている時はピクリとも動かないからな......。


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