第386話 遊覧
カヌーのようなタイプの舟に揺られながら大きめの水路を進んでいく。
漕ぎ手である船頭さんを除けば二人乗りらしいこの船に、俺とナレアさん、レギさんとリィリさんといった組み合わせで別れた。
まぁ、なんとなく。
非常になんとなくではあるけど、レギさんと二人で乗ることにならなくて良かったと思っている。
......まぁ、ボートに乗る時のように向き合わず、二人とも進行方向を見ながら乗っているからレギさんでも良かったかもしれないけど......。
閑話休題。
舟の速度はそこまで早いものではなく、歩くより多少早いといったところだろうか?
まぁ、視線が低いせいか結構速く感じるけど、歩道を歩いている人を見ればそこまで早くないのが分かる。
でもそんなゆったりとした速度のわりに涼しい風が当たって結構心地良い。
ふと、すぐ傍を進んでいたはずのレギさん達の舟が居ないことに気付き辺りを見渡すと、かなり後方でレギさんの乗った船が接岸していた。
そしてリィリさんは舟を離れて、何やら出店で買い物をしている。
「......あー、ナレアさん。レギさん達がはぐれてしまったみたいです。」
「ふむ?......あぁ、なるほど。リィリが釣られたんじゃな。レギ殿が文句を言っておるようじゃが......やはりリィリには甘いのう。」
俺の前方に座っているナレアさんが首を巡らせて、レギさん達を発見し苦笑している。
舟は細長くナレアさんが動いた際に多少揺れたが、船頭さんが手にしている棒でしっかりと支えてくれたのでひっくり返るほどではない。
「まぁ、リィリさんですし仕方ないかと......それよりはぐれてしまって大丈夫でしょうか?」
舟は速度制限されているそうなのでこの距離から追いつくのはほぼ無理だろう。
というか道すがら他に店があったらリィリさんはまた寄るに違いないし、距離は開く一方だ。
「何、問題はなかろう。向こうの船頭にも向かいたい場所は伝えておる。まぁ、到着までかなり時間はかかると思うがのう。向こうの船頭にはいい儲けになるじゃろう。」
そう言って笑うナレアさん。
「確かにそうですね。でもそうすると一緒に乗り込んだのにこちらの船頭さんには悪い気がしますが......。」
「ほほ、では妾達も少し寄り道でもするかの?」
「どこか行きたい所とかありますか?」
「ふむ......そうじゃな......では、船頭殿。南北境の大水路に向かってくれるかの?そこを軽く流してほしい。」
「おう、了解だ。どこか見たい所はあるのかい?」
「いや、適当に流してくれればよい。それと、すまぬが体の向きを変えてもいいじゃろうか?」
「おう、かまわないぜ。俺の事は石像とでも思ってくんな!」
ナレアさんは船頭さんに断りを入れた後俺と向き合う形に座り直す。
......間にテーブルも何も無いから、妙に近く感じるな。
「ほほ、折角じゃからな、実際に見ながら案内するのじゃ。まぁ、そこまで詳しいわけでは無いが......間違っておったら訂正してくれるじゃろ。」
そういって俺の後方にいる船頭さんに向かって微笑むナレアさん。
俺が振り返ると船頭さんが笑顔で頷く。
中々ナイスガイなスマイルだ。
「今向かっておるのは街の中央に位置する大水路じゃ。街の東西、そして北の大河を繋ぐ水路になっておる。」
「南には行けないのですか?」
「南は住宅街や小規模な店舗があるだけじゃからな。街の中心というか主な施設は街の北側じゃ。港に近い方が便利じゃからな。因みに北にあるのは、工業、倉庫街、歓楽街、学区、行政区、そして今から向かう大水路沿いが商店街じゃ。ふらふらするには一番いい場所じゃな。」
「大水路に向かって欲しいと頼んだということは、宿は南側にあるのですか?」
街の北側にあるのならわざわざ大水路に行って欲しいとは言わないだろうしね。
「うむ、大水路のすぐ手前といったところじゃ。因みに冒険者ギルドは南側と北側両方にある。北側にあるのは支部じゃがどちらもそれなりに大きいのじゃ。南側は主に一般人による依頼が、北側は商会や行政からの仕事が多いという話じゃ。まぁ、妾は行ったことがないので、そんな分け方をしておるらしいという事しか知らぬがの。」
「なるほど......ナレアさんはこの街にいたことがあるのですか?」
「そうじゃな、いつの頃かは覚えておらぬが、この付近の遺跡を調べておった際に拠点にしておったのじゃ。遺跡はいくつかあったのじゃが、その中の一つが水没した遺跡でのう探索は中々大変だったのじゃ。」
先程までよりも若干テンションの上がったナレアさんが遺跡の話を始める。
「へぇ......水浸しって感じですか?」
「いや......完全に水没しておったのじゃ。東に山があるじゃろ?そこにある遺跡なのじゃが、湖の底に沈んでおってのう。いや......辿り着くのも大変じゃったが......中に入るのも苦労してのう。」
「水の中で呼吸出来たのですか?」
「なんとか魔道具を駆使してのう。じゃが、やはりあまり長い事活動できなかったのでな......調べつくすことは出来なかったのじゃ。小さそうな遺跡じゃったが......息が持たぬし、視界も悪くてのう。」
不満げに頬を膨らませるナレアさん。
「ここに居る間にその遺跡に行ってみますか?」
「ふむ?良いのかの?」
「えぇ、急ぐ理由はありませんしね。寧ろ皆のやりたいことがあるならそちらを優先したいくらいですよ。」
ナレアさんは頬に指を当てて少し考え込むようなそぶりを見せた後、晴れやかな笑みを浮かべる。
「では、お言葉に甘えるとするかのう。」
「えぇ、今度は隅々まで調べましょう!」
「うむ!」
「まぁ、調べるのはナレアさんですけどね。」
「ほほ、実に楽しみじゃ。」
とりあえず、次の予定は遺跡探索だね。
しかも水中探索......天地魔法を使えば何とでも出来ると思うけど......。
水を動かすのも呼吸できるようにするのもありだな......。
......。
呼吸できるようにする場合......水着が必要なのではないだろうか?
これは水着必要だな......。
そんなことを考えていると大水路に出た。
「ひっろ......。」
思わず出た感想がかなりしょうも無かったけど......目の前の光景に圧倒されたのも無理はないのではないだろうか?
水路というか、かなり大きな河口付近の川の様な幅がある。
流石に帆船が浮いている事はないけれど、大小さまざまな舟が行きかっているようだ。
「荷物の輸送なんかもしているのですね。」
「うむ。馬車に比べると輸送できる量が多いからの。」
「馬車はよく積載量を越えて車軸が折れたりしていますよね。」
「陸上輸送は多少無理してしまう部分があるからのう。水上輸送は万が一が起こると荷物を全て失う分、無理をあまりせぬのじゃ。」
「沈むと容易に回収はできないでしょうからね......無理はしないっていうか、行きかっている舟も物凄く丁寧というか整理された交通だと思います。」
少なくとも他の街のように適当に馬車を走らせて、危うく事故になりそうって雰囲気は見当たらない。
衝突して水路に落ちたりしたら大変だしな......かなりしっかり交通ルールが決められているのだろう。
なんというか龍王国の王都みたいに整頓された感じなのに、都市国家のようなにぎやかな活気を感じるな。
そんな街の様子を見ながら、ナレアさんが商店街となっている大水路沿いの街並みに紹介していってくれる。
魔道国と言うだけあって、大小様々な魔道具のお店が立ち並び、お土産用の魔道具なんて他の国では見かけない様なものまで置いてあったのが印象的だった。
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