第387話 水没遺跡



俺達はナレアさんの案内に従って街の東側になる山の一つを登っていた。

ナレアさんの言う様に、たしかに龍王国にあった山に比べれば小さな山と言えるかもしれないけど、登山道などがあるわけでもなく......相当険しい道のりと言える。


「この山に遺跡があるの?」


「うむ。この辺の山にはいくつか遺跡があるのじゃが、妾が調べきれなかった遺跡はこの山にあるものだけじゃ。」


「この辺は遺跡が多いんだ?」


「そうじゃな。山の中にいくつか点在しておるが、まぁ遺跡がある場所には大抵他の遺跡もあることが多いからのう。ここが特別と言う訳でもないのじゃ。」


リィリさんとナレアさんの会話を聞いていて思い出す。

遺跡って言われると忘れがちになるけど、遺跡は元々昔の人達が生活していく上で使っていた建物なのだ。

用途に合わせて建物を建てるわけで、近くにいくつもの建物があるのは不思議な事じゃない。

寧ろゲームのようにぽつんと古代遺跡として、建造物がぽつんと一つだけあるほうが珍しいだろう。


「確か水没している遺跡はあまり大きくなさそうなのでしたよね?この辺りの他の遺跡はどんな感じだったのですか?」


「そうじゃな......この辺りにあった遺跡は一般住居ではないかと考えられておる。大昔の人々も妾達と大して変わらぬ生活をしておったのじゃろうな。間取りもなんとなく理解できる感じじゃ。」


「ご飯食べたり、お茶飲みながら話したりは変わらずしてたってことだよね?」


「うむ。そういうことじゃな......っとここじゃ。」


ナレアさんが湖を前に足を止める。

思っていたよりも大きな湖だけど、あの大河の始点となる水源の一つだしな。


「なんでこの湖の底に遺跡があると分かったのですか?」


この湖の透明度はあまりいいとは言えない。

覗いたくらいじゃ水底に何があるかなんて分からない。

かと言ってとりあえず潜ってみようとは......あまり思わないと思う。

いや、ナレアさんだったら......あるか?


「......そんなわけないじゃろ。他の遺跡を調べた際にこの辺にも遺跡があるようなことが記されてあったのでな。この辺りを探し回ったが見つからなかったので試しに潜ってみただけじゃ。」


「なるほど......。」


相変わらず口に出していない疑問に答えてくれたけど......潜水装備も無しに潜るのは中々勇気が......水の中に魔物って......いるよね?


「水生の魔物っていますよね?」


「おるのう。」


「危なくないですか?」


「危ないのう。」


「......。」


ナレアさんがあっけらかんと言うが......いや、水生の魔物はかなり危険だと思う。

いや、ナレアさんも危険とは言っているけど......そんな軽い様子で言えるような相手ではないのではないだろうか?


「水生の魔物は危険だが、あまり討伐依頼もでないからな。俺もあまり戦ったことはない。」


俺が湖を見ながら考え込んでいるとレギさんが声を掛けてくる。


「そうなのですか?」


「あぁ、水生の魔物は水辺に近づかない限り無害な奴が多いからな。まぁ、泳ぎながら戦えるような相手じゃないけどな。」


肩をすくめながらレギさんが言う。


「やっぱりそうですよね......。」


水の中で呼吸を出来るようにしたところで機動性が違い過ぎるだろうし......群れを成してこられたら戦えるような相手じゃないだろう。

ナレアさんはこの湖を潜っていったみたいだけど......まぁ......水着は諦めよう。

いや持って来てないけどさ......想像していたような綺麗な湖って感じじゃないし。


「どうやって遺跡を調べますか?」


「潜ればよいのではないかの?天地魔法があれば呼吸は何とかできるじゃろ?」


「そうですね......呼吸は何とかできますが。遺跡を調べるなら泳ぎながらじゃやりにくくないですか?」


「まぁ、そうじゃな。じゃが、どうする?流石に湖の水を抜くことは出来ぬじゃろ?」


「湖の水全部を抜くのは色々と問題がありそうですし......遺跡の周りだけ水を抜くのはどうでしょう?」


「ふむ?どうやるのじゃ?」


「壁で囲った後に水を外に出してしまえば行けると思います。」


「......ふむ。」


「すげぇ力業だな。」


俺が説明するとレギさんが苦笑しながら言う。

まぁ、天地魔法で壁を創ったり水を移動させたり出来るからこその方法だと思います。


「まぁ、どちらも天地魔法で簡単に出来ますからね。」


「ふむ、そうじゃな。では妾が壁で遺跡を覆うのでケイは水の方を頼むのじゃ。」


「了解です。」


ナレアさんと協力して湖の一角から水を完全に抜く。

底までは八メートルほどだろうか?

素潜りするにはかなり深いと思うけど......まぁこの世界の人なら問題ないのかな?


「ほほ、随分と簡単に辿り着けそうじゃな。以前は遺跡に辿り着くだけで一苦労だったものじゃが。」


「これで思う存分調査できますね。」


「うむ!では早速行くとするかのう!」


そう言って螺旋階段を作って降りていくナレアさん。

うん、行動が早いね。


「そう言えば水生の魔物ってどんなのがいるのですか?」


「魚やトカゲみたいなやつらと......虫もそこそこいるか?」


「私は戦ったことないけど、魚は結構おいしいよね。」


......リィリさん、文脈がおかしくないですか?


「......以前戦ったスラッジリザードみたいなやつとか......噂では人でも丸呑みにするような魚とかもいるらしいぞ。」


「それは凄そうですね......。」


水生生物は大きくなりやすいって聞くけど......人を丸呑みか......クジラとかかな?

見てみたい気はするけど、お会いしたくはない......。

やっぱりそういう危険そうな奴は水族館とかの安全な場所から見たいと思う。


「おーい、早く来るのじゃー!」


既に階段を一番下まで降りてしまっているナレアさんが下から声を掛けてくる。

その様子はなんというか......完全におもちゃ屋に駆け込む直前の子供というか......おやつを前に待てをされているわんこみたいというか......。

まぁ、なんというか飛び出す三秒前って感じだ。

俺達は顔を見合わせると階段を降りてナレアさんと合流する。

底まで降りると水は殆ど残っていないものの、地面はぬめっとした感じの泥に覆われていて......あまり気持ちのいい感じではない。

まぁ大部分は水草に覆われているけど......どちらにしても心地いいとは言えない。

水を移動させた際に泳いでいた生物も纏めて移動させたから魚がぴちぴちと跳ねているようなことはないけど......遺跡の中にはひっかかったりして残っている可能性はあるかな?

遺跡は一部分を除き、土と言うか泥に埋もれてしまっているけど、アースさんのいた遺跡よりは剥き出しだな。

あの遺跡みたいに地下五階とか六階とかなければいいけど......。


「ふむ......やはり泳ぎながらではあまりちゃんと調査出来ていなかったようじゃな。」


遺跡の壁を触りながらナレアさんが呟く。

どうやら水を抜いて正解だったみたいだね。

ナレアさんは偶に宙に浮いたりしながら遺跡の外周を調べている。

俺達の事を急かしていたけど......もう暫くは遺跡の中に入ることは無さそうだね。


「あまり広そうじゃないし、斧は厳しそうだな。」


遺跡の入り口を見ながらレギさんが言う。


「ゴーレムとかいないといいですね......。」


「以前潜って調べた時はゴーレムはいなかったがのう。」


俺達の話が聞こえていたのか、遺跡の屋根を調べながらナレアさんが教えてくれる。


「それは助かりますね......ゴーレムは弱体魔法も効かないし、硬いですし......めんどうですよね。」


「あぁ、疲れる相手なのは間違いないな。」


「そうだねぇ......私もちょっと苦手かなぁ......攻撃は避けやすいんだけどね。」


レギさんとリィリさんが眉をハの字にしながら言う。

アースさんの所にいたゴーレムは整備もばっちりだったからきつかったけど......本来はあまりきれいな状態で動いているゴーレムって多くは無いのだっけ?

......そういえばアンデッドがみっちり詰まっている遺跡があったとかいう話を聞いたな......入り口を見た感じこの遺跡はそんなことは無さそうだけど......。

どうでもいいけど、アンデッドって魚の餌になり易そう......その場合スケルトンになるのだろうか?

俺の脳裏に朗らかに笑うスケルトンと、自称美白の美少女スケルトンが去来する。

いや、二人とも今は見た目は骨じゃないけどね。


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