第192話 失言
俺達の模擬戦をカザン君達にお披露目してから数日、俺達は未だカザン君達を助けた拠点に留まっていた。
ファラが情報を集めて戻ってくるまでの間それぞれが準備を出来る限り整えているのだ。
ナレアさんは魔道具作り、レギさんは保存食やこの場で整えられる装備の作成。
俺とリィリさんはカザン君と稽古をしている。
ノーラちゃんは......グルフやマナスと遊んで......親睦を深めている。
ノーラちゃんの事は二人に任せておけば大丈夫じゃないかな?
ファラもマナスがいれば大抵のことは大丈夫だと太鼓判を押していたしね。
因みにナレアさんに調べてもらった所、カザン君もノーラちゃんも結構魔力を持っているそうなので魔道具をいくつか使ってもらって万が一に備えておくつもりだ。
まぁ......強化魔法もかけるけどね。
カザン君には身体強化をそこそこ、ノーラちゃんには抵抗力や防御力方面をかなり強めにかける感じだ。
カザン君は強化魔法を掛けてあげた時、多少のぎこちなさを見せたもののすぐに強化された身体能力を使いこなして見せた。
俺は歩くことも覚束なかったと言うのに......若干嫉妬の感情を覚えないでも無かったけど、早く慣れてくれることに越したことはないからね。
今そのカザン君はリィリさんと剣を打ち合っている。
カザン君の武器は腰に下げていた剣だが、領主である父親に手ほどきを受けていたらしく......俺が言うのもなんだけど、凄く様になっていると思う。
本当は左手に小型の盾を装備するらしいのだが、流石に盾は持ってきておらず、俺達の中にも盾を使う人がいなかったために今は盾無しで戦っている。
使っている剣もあまり長いものではなく、リィリさんの使っている双剣と同じくらいの物だろうか?
あまり体の大きくないカザン君でも取り回しがしやすそうな剣だ。
「今は盾がないからねー、戦場で常に装備が完璧なんてありえないからこの状況でもしっかり戦えるようにしておかないと危ないよー。」
リィリさんがひょいっといった感じで軽く剣を振るっているのだが、それを自分の剣で受け止めたカザン君は全身が硬直して動きが止まってしまっている。
「戦闘中に動きを止めちゃダメだよー。いい的になるだけだからねー。」
「くっ!は、はい!」
カザン君がすぐに体を動かし始めるのだがそれを押しとどめるようにリィリさんが追撃を放つ。
「剣で相手の攻撃を受け止めちゃダメだよー。盾と一緒、受け止めるより受け流すようにしないと動きがこうして止まっちゃうからねー。」
「はい!」
「うん、いい返事だね。じゃぁ少し早く行くよー。」
「わ、わ、わ、わ!?」
リィリさんが恐らくカザン君の動けるぎりぎりの速度で攻撃を仕掛け、カザン君が必死に防いでいる。
口調は優しいけど非常にスパルタだな......いや、これから先の事を考えるのならとても優しいのか......。
カザン君が矢面に立たなければならないような事態にはしたくはないけど......避けることが出来ない戦いもあるかも知れないからね。
カザン君の悲鳴のような掛け声を聞きながら、これから先、領都でカザン君達を待っているであろう事態について思いを馳せた。
「ナレアさんがケイさんと戦うのはめんどくさいって言う気持ちが本当によく分かりました。」
訓練を終えてキャンプ地に戻るとカザン君がしみじみと呟く。
「......俺ってそんなに面倒......?」
「あ、いえ。いい意味でですよ?」
いい意味で面倒って言われてもなぁ......いや、戦闘においてって意味だから分かるけど......。
「ケイ君と戦うととにかく疲れるからねぇ。息をつく暇もないというか......。」
「それはリィリさんと戦う時でも同じじゃないですか?」
「うーん、確かにリィリさんの攻撃も激しいとは思いますが......種類が違うと言いますか......。」
「私の動きは人間の動きだからねー。」
「いや、僕も人間ですよ。」
「以前ナレアさんが狩りをする獣のようだとおっしゃっていましたが......実際に体験してみたらその言葉の意味がわかりました。迂闊に手を伸ばすと食いちぎられそうというか......あ、勿論ケイさんが噛みついてくるとは思っていませんが。」
流石に噛みつくのはちょっとなぁ......隙があってもやらないと思う。
......多分。
「ケイ君だったら行けそうって思ったら噛みついてくるかもねー。」
......やらないですよ?
「......怖いですね。」
「......やらないよ?」
俺達が喋っていると作業をしていたレギさんが顔を上げる。
少しうるさかっただろうか?
「いい具合に訓練が出来ているみたいだな。因みに俺もケイは場合によっては噛みついてくると思っているぞ。」
「......レギさんまで。」
「そのくらい集中した時のお前は怖いんだよ。」
そう言いながらレギさんはカザン君に作っていたものを手渡す。
「レギさんこれは......盾ですか?」
「あぁ、木になめし皮を張った簡単な物だが、ナレアに頼んで作ってもらった魔道具を内側に着けてある。使う時は魔道具を起動してくれ。それでかなりの硬さになるはずだ。」
「魔道具ですか!?」
カザン君が驚きながら盾をひっくり返す。
そこには確かに魔晶石が嵌め込まれていて、魔術式の光が中に見える。
「こんな高価なものをいただくわけには......。」
「これから荒事になる可能性は高いんだ。装備はなるべくしっかりしたものを使ってくれ。それに材料費はほとんどかかってないから気兼ねする必要は無い。訓練でも魔道具をがんがんつかっていけ、普段から慣れておかないと実践では使い物にならないからな。」
「訓練中に魔道具を起動していいのですか?」
「うん、どんどん使っちゃっていいよ。魔道具を作ってくれるのはナレアさんだけど......魔晶石はいくらでもあるから気にしなくていいからね。」
「本当に良いのでしょうか......?」
俺がレギさんの言葉に追従するとカザン君が恐縮した感じではあるが盾を左腕に装着する。
「うんうん、どんどん使って行こう!少し休憩したら盾の具合を確かめてみようか。相手はー、私がした方がいいかな?」
「......ではお言葉に甘えて。相手は......。」
そう言って一瞬こちらをみたカザン君。
お、ご指名だろうか?
「リィリさんお願いします。」
......いや、いいけどね?
ちょっとだけ視界が滲んだりしてはいない。
「そ、それにしてもナレアさんは凄いですね。こんな短時間で魔道具を作成出来るのですから。」
なんか......カザン君が話題をそらしたんだけど......。
恨みがましい視線をカザン君に送るが......頑なにこちらを見ようとしないな。
「そうだな......俺の知人にも腕のいい魔術師がいたが、ナレアはあいつ以上だと思う。技術的なことは分からないから本当の所は分からないが......まぁ、年季が違うんじゃないか?」
「ほほぅ、レギ殿。随分面白そうな話をしておるのう。」
「......。」
テントで作業をしていたはずのナレアさんだったが、俺達が戻ってきたことで作業を中断して火の傍に来ていたらしい。
「......。」
そして失言に気づいたらしいレギさんの動きが凍り付いたように固まる。
うん、今のは間違いなくレギさんが悪いですね。
俺は気配を殺しながらカザン君に近づき二人で話している風を装う。
「へぇ、そうなんだー。」
「えぇ、そうなんですよー。」
俺の唐突な言葉にカザン君も適当に合わせてくれる。
最後にちらりと見えたレギさんの姿は......真顔のリィリさんと笑顔ながら光を失った目をしたナレアさんに囲まれている姿だった。
......今日の晩御飯は何にしようかな?
俺は背後で湧き上がる異様な雰囲気を気にしない様に晩御飯のメニューを考えることにした。
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