第191話 レギ対リィリ
俺とナレアさんの模擬戦の反省会が終わり、次はレギさんとリィリさんの模擬戦が始まる。
俺達のように距離を二十メートルも取ることはなく、お互いの距離は精々五メートルほどだろうか?
「レギさんは斧、リィリさんは双剣を使われるのですね。」
「うん、二人とも凄い強いから見応えがあると思うよ。」
レギさんは使っている武器や見た目のわりに巧みな戦い方をするし、リィリさんの双剣は舞うように戦ってとてもかっこいい。
ノーラちゃんが大興奮するのは確実だろうね。
「それではー始めです!」
俺達の模擬戦の時と同じようにノーラちゃんが開始の合図を出す。
始まりは俺達の時とは違い静かなものだった。
武器を構えたまま腰を落としゆっくりと近づいていくレギさんに対して斜に構えている。
少しづつ距離を詰めていく二人を見ていると......中々緊張感があるな。
カザン君もノーラちゃんも息をのんで二人の動きを見守っている。
レギさんが次の一歩を進めようと足を浮かした瞬間、リィリさんが突然動き出した。
一息にレギさんに接近すると首を狙って一閃、しかしレギさんはリィリさんの突然の動きに慌てることなく自分の獲物でそれを弾く。
そのままリィリさんは流れるように、舞うように連続で攻撃を仕掛けるがその全てをレギさんが打ち払う。
辺りに剣戟の音が響き渡る。
リィリさんの舞うような攻撃にふさわしく、とてもリズミカルに心地良さを覚えるような響きだ。
「わーリィリ姉様綺麗です。」
ノーラちゃんが感想を漏らすが、確かにリィリさんの攻撃は剣舞というか......本当に魅せられる戦い方だ。
「確かにリィリさんの攻撃も凄いですが......あの連撃を大型の武器で全て捌いているレギさんも物凄いですね。」
「そうだね、リィリさんの攻撃は遠目で見れば、まだどう動いているか分かるけど......近くで攻撃されるとどこから攻撃されるか分からないんだよね。」
「そうなのですか?」
「リィリさんの舞うような動きに釣られたら......死角から攻撃が飛んでくるからね。隙だと思って攻撃に転じようとしたら絡めとられると言うか......。」
「なるほど......流れに沿ってもリィリさんの手の内、逆らおうとすれば手痛い反撃を受けると。」
カザン君が二人の剣戟から目をそらすことなく考えている。
自分だったらどう対応するかをシミュレートしているのだろうか?
「リィリの相手も大変じゃが、接近戦のうっとおしさならケイが一番なのじゃ。妾はケイが一番接近戦でやり合いたくないのじゃ。」
「どのような感じなのですか?」
「まとわりついてくる感じなのじゃが......とにかく死角に移動を続けながら手足を削っていくのじゃ。リィリのように死角から攻撃が飛んでくると言うのも少し違ってのう......逃げようとしても攻めようとしても死角からこちらを削っていき......決定的な隙が出来るまで執拗にまとわりついてくるのじゃ。」
カザン君の問いにナレアさんが答える。
「想像するのが難しいですね。」
「人間と言うよりも狩りの得意な獣と言った感じじゃな。本当に厭らしい奴なのじゃ。」
まぁ、戦闘において嫌がられるって言うのは誉め言葉だよね?
「ケイ兄様は厭らしいのですか?」
「そんなことはないよ、ノーラちゃん。でもまぁ、レギさんみたいにどっしりと構えて戦う感じではないけどね。ちょろちょろしている自覚はあるかな?」
ノーラちゃんの純真な瞳で厭らしいのですか?って言われるのは......ダメージがデカいが......戦い方を教えてくれたのは母さんだし獣のような戦い方と言われるのは......嫌な気分はしないな。
母さんに教えてもらったことを実践出来ているってことだろうからね。
「狩りをする獣のような動きですか......一度体験してみたいですね。」
「ほほ、一度経験したらきっと二度は嫌だと言うこと請け合いじゃ。とは言え、先ほどはその動きを見せる暇もなかったからのう。」
「う......それはまぁ......ナレアさんが上手かったということで......。」
「先ほどの戦いでは、ケイさんを本当に完封されていたのですね。」
カザン君の感心するような声に、ナレアさんが得意気になっていくのが分かる。
「ま、まぁそれはそうとレギさん達も凄いことになっていますよ。」
リィリさんの速度がどんどん上がっていきリズミカルに聞こえていた剣戟の音は、今や途切れることなく武器を撃ち合わせ続ける一音のようになっている。
そんな猛攻に晒されながら一歩も下がることなく受け続けているレギさんが凄いのか、途切れない猛攻ながらも技の精彩さを欠かないリィリさんが凄いのか......まぁどちらも凄いってことだと思うけど。
「......お二人の動きを遠目で見ていても動きが追えなくなってきたのですが......いえ、体捌きはともかく、手の動きは殆ど見えません。」
「わー。」
カザン君とノーラちゃんは目を丸くして二人の撃ち合いを見ている。
二人とも身体強化は掛けているということもあり、もはや人間技とは思えない速度に達しているのだが......二人の表情にはまだ余裕が感じられる。
リィリさんの剣舞が永遠に終わらないんじゃないかと思った次の瞬間、レギさんの体が少しだけ沈みこみリィリさんが空中に跳ね上げられた。
「あっ!?」
リィリさんの驚いた声がここまで届いた。
リィリさんが自分で跳んだわけでは無く、レギさんに足元を掬い上げられたってことだと思うけど......正直レギさんがどうやってリィリさんを宙に浮かせたのかは分からなかったけど......少しリィリさんが油断していたのかな?
びっくりしたみたいな声上げていたし。
レギさんは宙に浮かせたリィリさんに一気呵成に攻撃を仕掛ける。
リィリさんも上手く打たれた反動などを使い上手く対応しようとしたのだが、そこはレギさんがきっちりとリィリさんの動きを抑え込んで勝利を収めた。
「くっそー油断したー。」
仰向けに倒された状態でリィリさんが悔しそうに呻いている。
レギさんは突きつけていた斧を退けるとため息をつく。
「身体強化だけに頼らず早くて重い連撃を繰り出せるようになったのはいい。」
俺達が傍に行く前にレギさんが反省会を始めてしまった......少し御立腹だろうか?
俺達はレギさんの邪魔をしない様に静かに近づいていく。
「攻撃が単調にならない様にリズムに変化を付けるのも前より多彩になっていると思う。だがそれらを上半身だけに頼り過ぎだ。もっと下半身を使え。ケイみたい......な動きは無理かもしれないが足捌き辺りを参考にしてみろ。」
「はーい。うーん、足、足捌きかぁ......。」
「リィリさんは踊るように戦いますからね。踊り子とかの動きを参考にするのもいいかもしれませんね。」
レギさんの話がひと段落したようなので思いついたことを言ってみる。
「あー、そういえば昔見た人踊り子さんの動きを参考にしたことがあったなぁ。カザン君、そう言うのって心当たりあるかな?」
「......そうですね。昔領都には楽士の一団が訪れて催し物を行っていたこともありましたが......その時に、二人組で行う激しい踊りを見た記憶がありますね。」
「へぇ、それは是非一度見てみたいなぁ。」
「妾は魔道国でみたことがあるのう。」
ナレアさんが何かを思い出す様に、顎に指を添えながらリィリさんに言う。
「なるほど......魔道国かー、最西方だねぇ。」
魔道国か、リィリさんの為にも今度行ってみるのもいいかもしれないな。
仙狐様から妖猫様の聖域の位置を教えてもらって......先にどちらに行った方がいいかを考えてからだな。
......仙狐様が妖猫様の聖域の位置を知らなかったらどうしよう。
手がかり零で聖域を探す......?
いや、いくらなんでも無理でしょう。
どんなにファラが頑張ってくれても......普通のネズミ君達は神域に気づけるのだろうか?
いや......もし神域に気づけるのなら応龍様や仙狐様の神域をファラが見つけられたはずだろう。
あ、全然関係ないこと考えていたのに物凄く心配になってきた......どうか仙狐様が妖猫様の神域の場所を大まかでもいいから知っていますように......。
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