第190話 ドキドキ反省会
「ナレア姉様!すごく凄かったのです!それにケイ兄様は空を飛べるなんて凄いのです!」
リィリさんに連れてこられたノーラちゃんが凄い凄いと褒め囃してくれる。
悪い気分はしないな......。
若干ナレアさんと気まずい感じになっていたのだがノーラちゃんの屈託ない称賛が非常に和む。
「ありがとうノーラちゃん。」
「ケイ兄様、私も空を飛んでみたいです!」
「じゃぁ、後で一緒に飛んでみようか。」
「ありがとうございます!楽しみです!」
ノーラちゃんがとてもはしゃいでいる......普段であればナレアさんが自分も飛べると主張してくるところだが......今は明後日の方向を向いている。
そんなナレアさんの様子を見ていると、リィリさんがなんとも言い難い表情でこちらを見ているのに気付いた。
「......なんですか?」
「んー?なんでもないよー?」
明らかにご不満ですって感じでリィリさんが返事をするが......まぁいいか、レギさんとカザン君も来たことだし総評を聞くとしよう。
「おう、ケイ。おつかれさん。」
「お疲れ様です、ケイさん。」
俺のすぐ近くまで来たレギさんたちが労いの言葉をかけてくれる。
今回の模擬戦は完全にナレアさんにしてやられてしまったので、総評をしっかり聞いて皆だったらどう動いたか、どう動くべきだったかを確認しておく必要がある。
「今回はいいところがなかったな。終始押されっぱなしで動きも完全に読まれていた。」
「......そうですね。」
「ケイは基本的に後の先を取る戦い方をするからな。初手を相手に譲って対応した上でそこから畳み掛けるように動いていく。初手をしっかりと対応出来れば強いんだが、対応できなかった時の仕切り直しが上手くいかないと......今日みたいなことになる。」
「そうなんですよね......今回は対応する暇もなく攻撃に晒され続けましたし、仕切り直そうにも先手を打たれて動きを阻害されました。それでも何とか掻い潜って接近したら......誘い込まれていたみたいで、迎撃されてしまったんですよね。」
「まぁ、あれはケイの事をよく分かっているナレアだからこそ出来た対応ではあるが......初見の相手でも引き込んでから迎撃という手を取ってくる奴はいないわけじゃない。まぁ普通の相手が取れるような対であればはそれを上回ることは出来そうだが......今回は相手も普通じゃなかったからな。」
俺とレギさんがナレアさんの方を見る。
ナレアさんはリィリさんやノーラちゃんと先ほどの模擬戦の話をしているようだ。
......。
っと、まずい、今は反省会の途中だ。
なんとなくナレアさんの事をぼーっと見てしまっていたようだ。
「それにしても、物凄い戦いでした......いえ、私の知る戦いとは全くの別物でした。まるでおとぎ話の中の戦いと言った感じで......。」
「あはは、びっくりさせちゃったかな?」
「びっくり......では済まない衝撃でした。人が空を飛んだり突然壁や槍が出現したり......人よりも大きな岩が撃ちだされたりと......どれも現実感がない光景でした。」
カザン君はどこか熱に浮かされたような表情をしているような気がする。
「冒険者と言う方々は凄いのですね......。」
「あーカザン。冒険者はどちらかと言うと普通の人間だ。さっきみたいな動きが出来る奴は......同じ動きが出来る奴は世界中を探してもいないだろうな。」
母さんと応龍様の魔法を両方使える人間は俺達だけだ。
仙狐様や妖猫様の魔法を使える人はいるかもしれないけど......同じ動きは出来ないだろう。
神獣様の加護によって使える魔法はそれぞれ効果が全然違うからな......。
「そうなのですか?レギさんたちは......。」
「俺はいたって普通の人間だ。まぁその辺は次の模擬戦で見せるがな。ケイ達みたいな派手なものは見せられないが......逆に動きは参考に出来るかもしれないからしっかり見ておいてくれ。」
「わかりました。」
レギさんがカザン君に俺とナレアさんは普通の人間じゃないと言外に言っているな......まぁそれはともかく反省会はまだ終わっていない。
そろそろナレアさん達も交えて意見交換をしないとな。
「......?何を緊張しているんだ?」
「え?緊張ですか?僕がですか?そんなことはないですよ?」
「......いや、ケイさん物凄く緊張というか......動揺していますよ。」
「......。」
レギさんの言葉を否定した俺に何故かカザン君が追撃を仕掛けてくる。
いや、俺はこれ以上ないくらい普通ですよ?
そんなことを考えていると肩にマナスとシャルが飛び乗ってきた。
二人をしっかりと受け止めて、ナレアさんの方を見ようとして......丁度ナレアさんもこちらに顔を向けたところだったようで、思わず視線を明後日の方向にやってしまう。
「......どこも普通じゃねぇよ。」
「普通じゃありませんね。」
いや、違いますよ?
ちょっと向こうが気になったのですよ?
そんな心の中の言い訳は届かなかったのか、レギさんがナレアさん達に声を掛ける。
「おい、そろそろ反省会をしないか?それが終われば次は俺とリィリの番だ。」
「そうだねー、じゃぁナレアちゃん行こうか。」
「う、うむ、今行くのじゃ。」
リィリさんとノーラちゃんが手を繋いで、そして少しぎこちない様子のナレアさんがこちらに来る。
リィリさんの機嫌がものすごくいいのは何故だろうか?
「丁度いいから頭からカザン達に解説を含めて振り返ってみるか。まずは開始直後のナレアの落とし穴だな。」
「......あれ、少しタイミング早くなかったですかね?」
「......言いがかりなのじゃ。」
「辛うじて合図と同時って感じだったと思うぞ。」
「そうだねー、ノーラちゃんの合図とほぼ同時だったと思うよ。」
......ノーラちゃんのすぐ横にいたレギさん達が合図と同時だったって言うってことは、少し離れた位置にいた俺達にとっては少しフライング気味だったんじゃ......。
「......音にも移動速度があって距離が離れれば少し遅れて聞こえるんですよ?」
「そうなのですか?」
俺がボソッと呟くとカザン君が反応する。
「うん、後で実験してみようか。すぐにわかる方法があるから......とりあえずそれはいいとして、ナレアさんの落とし穴でしたね。発動速度がかなり早くなりましたよね。」
「そうだね。かなり離れた位置に正確に出せていたし、上手になったよね。」
「うむ、練習は欠かしておらぬからのう。かなり複雑なことも出来るようになってきたのじゃ。」
そう言ってナレアさんが得意げに笑う。
「じゃが、落とした後はケイに上手いこと逃げられたのう。」
「そのまま飛び出すとナレアさんの思う壺って気がしましたからね。」
「うむ、待ち構えていたのじゃ。しかし出てくる時は失敗したのう。」
「失敗ですか?」
穴を多く開けてどこから出るか分かりにくくしたことだよね?
「すべての穴が妾の前方に出ておったからのう。どこから出てくるか分からなくても一望出来る位置に全ての穴が開いておってはな。」
「......なるほど。」
あの時は慌てていたし、ある程度距離を開けて開かせるくらいしか出来なかったからな......移動しながら地上の様子を調べて、ナレアさんの位置を把握してからその位置を囲むように穴を開ければ、ナレアさんの次の対応を遅らせることが出来たか。
俺は空中戦を警戒してすぐに地面に降りてしまったが、ナレアさんの隙を付けていたら空中から一気に接近できたかもしれないな。
「その後は......見事に誘い込まれたケイが吹っ飛ばされる流れだな。」
「あの時、攻撃を躱しながらナレアさんに接近するケイさんの動きは見事なものでしたが......。」
「ケイ君ならそのくらいの動きはしてくるってナレアちゃんにはバレてたからねぇ。攻撃の手を緩めなくても誘い込むのは問題なかっただろうね。」
カザン君の感想を聞いて、リィリさんがあははと笑う。
確かにそれは完全に読まれていたんだよね......いや、攻撃はどう見ても殺る気満々って感じの規模ではあったけど......絶対に避けながら距離を詰めてくると思ったからこその攻撃か......。
「意識を地面や石系の攻撃に向けさせたのもナレアの罠だな。おかげで見事なまでに吹き飛んだからな。」
「あれはやられた瞬間、訳が分からなかったですよ。気づいたら空が見えていましたからね......。」
「本当はあそこでけりをつけるつもりだったのじゃ。しかしあの砂ぼこりは地味じゃったが一瞬の隙を作るにはいい手じゃったな。それに、その後に出した土人形は面白い案じゃな。」
「あぁ、あの人形はとっておきだったのですよ。皆を驚かそうと思って密かに練習していたんですが......少し出し方が勿体なかったですかね。」
囮として使ったのだけど......まぁ目的はちゃんと果たせたからよかったのかな?
「使い方は良かったんじゃないかな?お互いが視認できない位置から飛び出させる囮としては十分役に立っていたし。」
「まぁそれを準備している間にナレアの方は勝ち筋への準備を整えていたけどな。」
状況への対応を優先した者と状況を利用して策を練った者の差が結果に出たってことか......。
「......そういえばナレアさんは最後どこにいたのですか?完全に見失っていたのですが......。」
「土壁の中じゃ。おそらくケイはなんとかして罠のある方を突破してくると考えたからのう。今回は正面突破をしてこないと踏んだのじゃ。」
......ナレアさんの行動を読んだつもりでさらにその上を行かれたのか......ナレアさんなら俺の行動をこう読むはずだ、ってドヤってたのが恥ずかしい......。
その後は背後を取られた俺がぼっこぼこにされておしまい、と。
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