第189話 一体何が......
い、一体何が!?
ナレアさんに接近してナイフを突きつける直前まで行ったと思ったのだが......今俺は宙に舞っている。
強制的に空を飛ばさせられた?
いや、突風で吹き飛ばされたのか!
「っ!?」
俺が状況を把握したのが先か、ナレアさんの追撃が先かは分からないがとにかく巨大な岩の塊が俺目掛けて地上から撃ち出された。
だからナレアさん、直撃したら死ねますって!
「あっぶな!?」
俺は自分の魔法で飛翔して飛んできた岩を躱す。
最初の一撃以降は巨大な岩ではなく、礫が怒涛の勢いで飛来してくる。
正直迫力はあったが巨大な岩が飛んでくる方が避けやすくて助かる......。
散弾のように飛んでくる礫は非常に躱し辛く防ぎにくい。
しかも気流を乱されているようで上手く飛びづらい......これは、完全に嵌められたな。
最初の落とし穴以降ナレアさんは土や石を使った魔法か魔力弾で攻撃して来ていた。
妨害系の魔法も落とし穴や石で作った物ばかりで、地面に注意を向けさせるものばかりだったのもここで決定的な隙を作って一気に決めるつもりだったからだろう。
というかここまで俺いいところが一つもないな......。
何とか立て直さないとナレアさんの狙い通りこのまま押し切られそうだ。
とりあえず、ナレアさんが乱している気流を強引に落ち着かせて動きやすさを確保する。
次いでナレアさんの周りに砂塵を発生させる。
このまま竜巻的なものにも出来るとは思うけど、流石にやりすぎだと思うので嫌がらせの妨害程度に抑えておこう。
その目論見は上手くいったようでナレアさんは目を細めて顔を顰めている。
同時に少し攻撃が緩んだのでその隙に急いで地面へと戻った俺は、牽制程度にナレアさんに向かって礫を撃ち出す。
しかし礫はナレアさんに届くことはなく生み出された土壁に阻まれた。
土壁に阻まれてお互いの姿が見えなくなったことでナレアさんの方も一息ついているのか、仕切りなおす時間が生まれる。
ナレアさんが作り出した土壁は高さ三メートル程、横幅は......五メートルくらいかな?
厚みは分からないが礫を受けても全く揺らぐ気配もなかったし、それなりに厚みがあるはずだ。
上から飛び越えるのは無しだな......ナレアさんから丸見えになるし、飛び越えようとした瞬間石槍が飛び出してくること請け合いだろう。
横から回り込むなら......落とし穴を予め設置してあるかな?
一瞬でも足止めが出来ればそれから迎撃って感じだな。
そこで魔法を使って土壁を正面から突破......これはこの状況で俺が一番選ぶだろう選択肢だ。
ナレアさんならそう読んでくるはずで、罠を大量に仕掛けているだろうね......というわけで、俺が選ぶのは......。
俺は魔法を使って自分の横に土で作った俺と同じサイズの人形を作る。
これはナレアさんにまだ見せていない魔法だ。
ゴーレムのように自由自在とは言えないけど、二足歩行をさせることが出来るだけじゃなくある程度の戦闘をさせることが出来るのだ。
とはいえ、戦闘をさせるとなるとかなりの集中力がいるので俺が棒立ちになってしまう。
並列思考みたいなことが出来る強化魔法ってないかな......思考の高速化は出来るのだけど......。
まぁ、そんな感じで複雑な動きをさせるメリットはないけど、今回は囮役なので問題ない。
「よし、いけ!」
あまり大きな声にならないように土人形に命令を出して土壁を飛び越えさせる。
まぁ......声に出す必要はないのだけど......気分の問題だ。
土人形を先行させる形で土壁を乗り越えさせて......土壁から飛び出した石槍に土人形がズタズタにされる。
「いやいや、ナレアさん容赦なさすぎですよ......。」
槍に貫かれた土人形を飛び越えて土壁を越えたが......ナレアさんの姿がどこにも見えない。
ナレアさんが飛ぶ瞬間は見えなかったがいつの間にかに上を取られていたか?
慌てて空を探すが......やはりナレアさんの姿はどこにも見えない。
ってことは穴を掘って地面に潜った?
辺りの地面は土がむき出しの部分は殆ど無く......ナレアさんが潜んでいそうな場所はないが......いや、ナレアさんは植物を成長させて風景を偽装することが出来る。
穴を塞いだ後不自然にならない程度に草を生やしている可能性が......。
そこまで考えた俺の後頭部に衝撃が走る!
「がっ!?」
かなりの衝撃に視界がぶれる。
後ろから!?
俺は後ろに振り返ろうとしたのだが、続けざまに襲ってくる衝撃に体勢を崩される。
振り返るのは諦めて一気に離脱しようとしたのだが、地面を蹴り出そうした瞬間足元の地面が消えて足が空を切る。
落とし穴と言うほど深い穴ではなく、動くタイミングだけを殺されたような形でダメージはない。
だが攻撃を受け続けている俺には十分過ぎるほどの妨害だ。
次いで空に飛び上がろうとしたのだが何かに腰を掴まれ地面に引きずり落とされてしまった。
地面にたたきつけられた俺は急いで立ち上がろうとしたのだが、植物が手足に絡みついてきて上手く立ち上がることが出来ない!
そうやって藻掻いている俺の腹の上にナレアさんが馬乗りになり首に手刀を突きつける。
「ほほ、今回は妾の勝ちじゃな。」
「......そうですね、参りました。」
四肢を拘束された状態で俺が降参を宣言すると、ナレアさんが嬉しそうに笑う。
それにしてもナレアさんは一体どこに隠れていたんだ?
「ほほ、前回の借りは返せたのう......しかし失敗したのじゃ、賭けをするのを忘れていたのじゃ。」
「......僕は賭けの戦利品を使うのをずっと忘れていたましたよ。」
「それはそのまま忘れていていいのじゃ。」
俺のお腹の上でナレアさんが目をそらす。
......ところでそろそろ拘束を解いて退いてくれないだろうか?
「ナレアさん......そろそろ解放してくれませんかね?」
「......。」
無言で俺の事を見下ろすナレアさんに非常に嫌な予感を覚える。
俺は急ぎ力を込めて手足に絡みついている植物を千切ろうとしたのだが......。
「まぁ、ケイよ。待つのじゃ。今皆がこちらに向かってきておる。どうせならこのまま総評を聞こうではないか。」
「いやいやいや、総評を聞くならこの状態じゃなくていいじゃないですか。」
「そうかの?妾は非常に気分が良いのじゃが......。」
そう言ってナレアさんは俺の頬に手を添えて撫でるように動かす。
拘束された俺を見下ろしながら撫でるナレアさんの目に怪しい光が宿った気がする......。
ナレアさんの手が俺の頬から首に、そして胸元へと降りていく。
「えっと......ナレアさん?もういいんじゃないですかね?」
俺が解放を訴えるが......ナレアさんは胸元に下ろした手とは反対の手を俺の頬に添えて小首をかしげながら俺の目を見返す。
......う、まじまじと見つめられると......非常に居心地が悪いというか......。
「ケイは......妾に触れられるのは嫌かの?」
「......そ、そんなことは、ない、ですけど......。」
見つめてくるナレアさんの瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。
そのまま、ナレアさんの顔が近づいて来て......。
「その辺にしとけー、っていてぇよ。」
少し離れた位置から聞こえてきたレギさんの声に我に返る。
慌ててレギさんの方に顔を向けるとリィリさんに蹴りを入れられているレギさんの姿があった。
い、意外と近くまで皆着ていたみたいだ。
「なんで邪魔するの!」
「いや、俺も普段であれば止めたりはしないが......今はノーラがいるだろうが。」
「う......そ、それはそうだけど......。」
「どうしたのですか?リィリ姉様。」
「う、ううん?何でもないよノーラちゃん。ほら、頑張った二人労いに行こうよ。」
「はい!」
手を繋いでこちらに向かって駆け出してくるリィリさんとノーラちゃん。
それを見たナレアさんが俺の上から退き、手足を拘束していた植物から解放してくれた。
「「......。」」
なんとなくナレアさんに声を掛けづらく......ナレアさんもこちらから視線をそらしている。
ま、まぁとりあえず総評を聞くとしようかな......今回の模擬戦は正直俺はいい所がなかったと思うけど。
何かもやもやしたものを感じながら俺は立ち上がり皆を迎えることにした。
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