第188話 リベンジマッチ
「さて、今回の依頼の為にはお互いの戦力把握をしっかりする必要があるが......とりあえずは二人に俺達がどんな戦い方をするか見せようと思う。」
レギさんが皆の前で腕を組みながら言う。
カザン君から依頼を受けた翌日、俺達はお互いの能力や出来ることを把握するために模擬戦をすることになった。
ちなみに俺達がカザン君から依頼を受けたのと同様にナレアさん達はノーラちゃんから似たような依頼を受けていたようだ。
昨晩、そのことで意見のすり合わせをしたのだが......。
ノーラちゃんはカザン君の決断を非常に嬉しそうに、カザン君はノーラちゃんの想いを困ったように聞いていた。
ノーラちゃん......というか女性は強いな......。
カザン君が悩みに悩んで出した答えをノーラちゃんは最初から理解していた上で自分の想いを通そうとしていた。
何やら物騒なことを考えていたみたいだけど......その辺は濁された。
濁されたが、そのせいで逆に怖い感じがする。
まぁ、それはカザン君とノーラちゃんの問題だから俺はノータッチで行くと決めた。
それはともかく模擬戦だ。
とりあえずカザン君達に俺達の実力を見てもらうために俺とナレアさん、レギさんとリィリさんでそれぞれ一対一の模擬戦予定だ。
「模擬戦は久しぶりじゃが......あの時とはこちらも大分違うのじゃ。あの時辱められた恨みを今日返すのじゃ。」
「カザン君達もいるのでそういう誤解されるような言い方をするのはやめてもらえませんかね?」
「事実なのじゃ。ケイは酷い男なのじゃ。隙あらば手足の自由を奪い動けなくなった相手を嬲ることを愉悦としておる。ノーラはそのような男に引っかかってはいかぬぞ。」
「はい!ナレア姉様!」
「えー......ノーラちゃん......。」
素直に返事をするノーラちゃんの笑顔はとても好ましい物ではあるけれど......とんでもない風評被害だ。
とりあえず嬲ったつもりはないし......愉悦でもない......。
まぁ変な男に引っかからない様にって言うのは大事だと思うけど......俺はそんなのじゃないって言って欲しかったなぁ。
「よし、じゃぁ模擬戦を始める前に......ケイ、弱体は禁止の方向で頼むのじゃ。妾の強化じゃ対抗しきれないからのう。」
「分かりました、弱体魔法はなしですね。」
まぁ弱体魔法は対人戦だと問答無用って感じだからな......ナレアさんが母さんの魔法と相性が良かったら対抗できたかもしれないけれど......残念ながらあまり相性が良くなくて、回復くらいしか出来なかったからな。
まぁそれでもかなり便利だとは思うのだけど......。
感覚では四肢の欠損くらいなら治せる気がするって言っていたっけな。
ちなみに、当初はカザン君達には隠す予定だった魔法に関しても、全てではないが見せることにしている。
カザン君達との連携も大事だけど、実力を見せて少し安心させてあげるってことらしい。
ナレアさんの意見ではあったけど俺も異論はない。
カザン君達であれば言いふらして変なことにはならなさそうだしね。
とは言え回復魔法や天候操作系の魔法は極力控える方向だ。
どちらも影響が大きすぎるという判断である。
......切った張ったの事態には......ならないとも言い切れないからなぁ。
無いに越したことはないんだけど。
「それじゃぁ、そろそろ始めるのじゃ。ノーラ、ケイをぶっ飛ばすからしっかり見ておくのじゃぞ!」
少し離れた位置でこちらを見学しているノーラちゃんに向かって、ナレアさんが声を掛ける。
「はい!ナレア姉様!がんばってケイ兄様をぶっ飛ばしてください!」
「うむ!」
仲が良くてとても微笑ましいけど、超複雑なんですが......心が痛い。
俺はいつの間にかノーラちゃんに嫌われていたのだろうか?
「ケイ兄様もがんばってください!」
あ、ちょっとやる気出たかも。
ノーラちゃんに向かって大きく手を振るとノーラちゃんも振り返してくれた。
和むなぁ......と思っていたら隣のナレアさんが不機嫌そうというか、面白くなさそうな顔をしている。
そして徐にリィリさんもノーラちゃんに向かって手を振りだす。
手を振られたノーラちゃんはぴょんぴょん跳ねながら両手を大きく振り返して......何故かナレアさんに勝ち誇られた。
まぁ間違いなく俺に手を振り返してくれた時よりもテンションが高かったけどさ......ここ数日一緒に行動をとっていた差だな、間違いない。
「......早く始めろよ。」
レギさんの呟きが聞こえてきたので俺とナレアさんは距離を取る。
微妙にナレアさんが上機嫌だが......さてどうしようかな。
前回模擬戦をした時、ナレアさんは遠距離では魔力弾を撃ってきて、接近したら地面を操作しながらの格闘戦だったけど......魔法を使えるようになっているし、あの時とはかなり違うからな......。
魔法だけで模擬戦っていうのは練習がてら何度もやっているけど何でもありのルールでやるのは久しぶりだ。
まぁ弱体魔法は禁止されたけど。
ナレアさんまでの距離は二十メートル程、遠距離の攻撃手段はあの時とは違い俺にもある。
でも恐らく天地魔法の撃ち合いになると俺の方が分が悪いと思う。
模擬戦が始まったらとりあえず動こう。
ナレアさんがどう動いてくるか......正直予想は出来ないが......いきなり何かを仕掛けてくる気がする。
いや......初手だけはなんとなく予想出来る気がするかな?
「それじゃー始めです!」
ノーラちゃんの掛け声で模擬戦がスタートする。
同時に思いっきり掛けた身体強化で地面を......蹴ろうとして落とし穴に落とされた。
やっぱりか!
俺は穴に落とされた後、敢えて宙に浮かばずに壁を蹴りさらに横穴を掘り飛び込む。
飛んでも、穴の中に残っても先手を取られている以上ナレアさんのペースで進みそうだ。
まぁ、横穴に飛び込むところまで読まれていたら......どうしようもないけど......方向とか距離まではいくらなんでも予想出来るはずがない。
ある程度横穴を進んでから上方向に穴を十個程開けて地上まで飛び出す。
「ちっ!対応が早いのじゃ!大人しく落とし穴に落ちていればいいものを!」
「落ちる前に移動するつもりだったんですけどね!?少し合図より早くありませんでしたか!?」
「気のせいなのじゃ!」
勢いよく飛び出し過ぎて五メートル程地面から離れてしまった俺は、聞こえてきたナレアさんの声に言い返す。
眼下には俺の空けた穴がぽっかりと口を開いているが......残念ながらナレアさんは落とせなかったようだな。
それにしても......穴から飛び出したのは俺自身だけど......もぐら叩きみたいな感じになっていたな俺。
ハンマーで叩かれなくてよかった......。
まぁ......それはさておき、どうやらナレアさんはまだ空を飛ばないようだな。
空中戦はナレアさんの方が巧みだから、俺にとってはその方がありがたいけれど......何を企んでいるのか。
いや、元から遠距離戦はナレアさんの土俵だ。
遠距離での攻撃手段を手に入れたとは言え、もう少し習熟訓練が必要だ。
俺は地面に降りてから自分で開けた穴を全て埋め、ナレアさんに向かって構える。
同じようにナレアさんもこちらに両手を突き出して構えた。
ナレアさん目を見開くと同時に、俺目掛けて何本もの石柱が飛来してくる。
しかしそれよりも少し早く俺はナレアさんに向かって回り込むように一気に移動を開始している。
俺がいた場所に何本もの石柱が突き立ち......いや、あんなのが当たったら死んじゃいますよ!?
あんな巨大な石柱に手加減もなにもあった物じゃない......。
俺は動きを読まれにくいように細かいステップを挟みながらナレアさんとの距離を詰めていく。
飛んでくる石弾や魔力弾、それから偶にに地面に開く落とし穴を避けていくが......ナレアさんの魔法の発動速度が相当早い......。
これは撃ち合いをやってみようとしなくて良かったな......足を止めたら確実にそのままやられていただろう魔法の発動速度だ。
飛んでくる弾だけなら回避は難しくないのだが落とし穴や唐突にせり上がる壁、槍衾のようにこちらに向かって構える石槍。
非常に多彩な攻撃方法だけど......さっきからかなり殺傷能力が高いと思うんですけどね!?
顔目掛けて飛んできた石弾を最小限の動きで躱して、思いっきり踏み込んだ俺はナレアさんに一気に接近する。
弱体魔法を禁止されている以上、素手ではナレアさんに勝てないと思う。
俺は模擬戦用の刃を潰したナイフを腰から抜いてさらに一歩近づく。
ナレアさんの放った掌底打ちを躱してさらに一歩......踏み出したはずの俺の視界が一変した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます