第92話 新しい同行者
翌朝、宿の食堂でナレアさんが来るのを三人で待っていた。
「今回の話はケイが受けたようなもんだからな。報酬の話なんかは全部任せるぜ?」
「う......やらなきゃだめですか......?」
「ケイ君に任せるから、好きにすればいいってことだよ。」
「......なるほど。わかりました、やってみます。」
条件や依頼料に関しては俺の好きにしていいと。
まぁナレアさんの知り合いに会うまでは内容も分からないんだから会ってからだね。
交渉は得意じゃないし最低限でいいよね?
幸いダンジョン攻略のお蔭で懐は十分すぎるほどに温かいし。
「おはよう!ナレアちゃん!」
リィリさんの声で現実に引き戻される。
報酬について考えている間にナレアさんが食堂に来たようだ。
「ケイ、リィリ、レギ殿。おはよう、いい朝じゃな。」
「おはようございます、ナレアさん。」
「よう、ゆっくり休めたか?」
「うむ、返事を保留されてヤキモキしておったが意外と気持ちのいい朝を迎えることができたのじゃ。」
さわやかにチクチクしてきますね......。
昨日引き上げる時の殊勝な態度が嘘のようだ。
「......実は昨日の夜、一瞬で答えが出たんですよね。今朝まで待ってもらう必要はありませんでした。」
「......まぁ、それは仕方ないのじゃ......では、答えを聞かせてもらえるかの?」
一瞬何かを堪える様な表情を見せたナレアさんだったが表情を引き締めるとじっとこちらを見つめる。
「はい。今回のお話ですが......お手伝いさせてもらおうと思います。」
「良いのかの!?条件どころか内容もまだわからぬのじゃぞ!?」
「依頼主の方は分かりませんが、僕たちはナレアさんの事を信用していますので。力になりたいと思います。でも条件なんかは正確に依頼内容が分かってからでお願いします。」
「うむ、それはもちろんじゃ!」
「では、この先の話は王都のお知り合いの方の所に行ってからということで。」
「うむ......しかし頼んでおいてなんじゃが、本当によかったのかの?内容すらわかってないような状態じゃというのに。」
「えぇ、流石に非合法なことはやるつもりありませんが、ナレアさんのお知り合いの方の依頼だったらその辺も大丈夫だと思いますしね。であれば後は僕たちがナレアさんのお手伝いをしたいかどうかだけです。」
「そ......そうか。」
少しだけ照れたように返事をするナレアさん。
「まぁ、政治絡みとかだとお力になれるか微妙ですけど......条件が腕の立つってことだったので。それなら僕たちで何とかなるんじゃないかな、と。」
「そうじゃな......お主らの強さで足りない様な事態であれば呑気に手を貸して欲しいなぞ言ってきてはおるまいて。」
「というわけで、それなりにちゃんと考えたので大丈夫ですよ。」
「そうじゃな、うむ。感謝するのじゃ!レギ殿、リィリよろしく頼む!」
「おう、よろしくな。」
「よろしくね!」
まだ何をするかもわからないけれど、俺たちはナレアさんの手伝いをすることになった。
とりあえず王都に向かって依頼人に会わないとね。
「依頼人の方は王都にいるのですよね?」
「うむ、まずは王都まで行かねばならぬが......普通に向かえば一月以上はかかる道のりじゃが......まぁ、そこまで時間はかかるまい。」
「そうですね......普通の方々でそのくらいであればもっと早く着けると思います。移動の際は野営を避けて街や村の宿泊施設を使って無理をせずに進むつもりですけどそれでいいですか?」
「うむ、それで構わぬ。じゃが妾はフロートボードに使う魔力に限界があるのじゃ。速度的にも付いて行くのは難しいじゃろうな......。」
「あー、この街に来た時の事は気にしないでください。かなり無茶な速度でここまで来たので。普段はもっとゆっくり移動していますよ。」
「そうだな......あれをゆっくりと言っていいかは疑問だが......馬車で三日の距離なら半日はかからないくらいだな。」
「この街に来た時は妾も結構急いで来たからのう......まぁその辺りは実際移動して試すのがいいのじゃ。」
「分かりました。こちらはいつ出発しても大丈夫ですけど、今日これから出ますか?」
「うむ、妾もこれから出発で問題ないのじゃ。ここからじゃと次に向かうのは村じゃが、恐らく夕方になる前にはたどり着けるじゃろう。」
「では朝食をとってから出発しましょう。それと僕たちは街道から少し離れた位置を移動するのですが大丈夫ですか?」
「妾も街道から離れた位置を移動しておる。移動手段が手段なだけに、人目は基本避けておきたいのでな。」
「では街道を外れて隠れるように行きましょう。」
とりあえずこんな感じでいいかな?
リィリさんはもう朝食の注文を始めちゃっているしね。
食べずに出発っていう選択肢はない......。
朝食を食べた後、リィリさんが抜かりなく宿の人に頼んでいた昼食を受け取り全員で街の外へ移動してきた。
「昨日の場所とは違うようじゃが大丈夫なのかの?」
恐らくナレアさんはグルフとの合流の事を言っているのだろう。
「えぇ、すぐにこちらに来てくれますよ。」
「ふむ......では妾も準備をしておくとするかの。」
「あ、ナレアさん。荷物はこちらで預かりましょうか?」
「良いのか?」
「えぇ、シャルはまだ余裕があるので大丈夫です。」
「では頼むのじゃ。軽くなればそれだけ魔力を消費しなくて済むのじゃ。」
ナレアさんから荷物を預かりこの先のルート等について話をしていたらグルフがやってきた。
シャルとグルフの背に荷物を載せて出発の準備を整え、俺はシャルの背に乗る。
「シャル、ナレアさんがどのくらいの速度が出せるか分からないから合わせる感じでお願いね。」
『承知いたしました。』
「ナレアさんこちらは準備完了です。とりあえずナレアさんの無理のない速度で移動してみて下さい。」
「了解なのじゃ。」
フロートボードが浮き上がり前に向かって進みだす。
併走するようにシャルが動き出し、グルフが後ろに続く。
徐々にスピードが上がっていき、ある程度の速度になった所でナレアさんが声をかけてくる。
「やはり簡単について来れるようじゃのう。馬の全力疾走くらいの速度は出ていると思うのじゃが。」
「えぇ。このくらいであれば問題ありません。」
風が強いので併走して喋っても声が大きくなるな......。
でも移動中にシャル以外と会話をするのは新鮮な感じだ。
何故かグルフはシャルの横に並ばないからな......。
「休憩が必要な時は言って欲しいのじゃ。この速度であれば妾は村まで休憩なしでもたどりつけるのでの。」
「分かりました。昼食を買ってきているのでお昼頃まではこのまま進みましょう。どこかいい場所があればそこで昼食を取りたいですね。」
「了解したのじゃ。」
今日は天気も良く風が気持ちいい。
次の村までは森や川なんかが途中にある様だが俺達にはあまり関係ない。
あれ?そう言えばナレアさんは山を越えてこっちのルートに来たはずだけど、フロートボードじゃ山越えは難しいよね......?
二メートル近い長さの板だし......動きにくいはずだ。
「ナレアさん。この先山越えもありますよね?」
「うむ、王都までは何カ所か山を越える必要があるのう。」
「フロートボードでは山は進めませんよね?」
「そうじゃな、山道が整備されていればいけるが、流石にこの先の山は険しい所が多くてフロートボードでは無理じゃのう。」
「もしかして他にも移動手段があるのですか?」
「ほほ、山登り用の物が一応あるのじゃ。じゃがフロートボードのように早いわけじゃないから少し手伝ってくれるかのう?」
「何をすればいいんですか?」
「ロープか何かで引っ張ってくれると助かるのじゃ。フロートボードのように少し浮きながら移動できるので重さとかはあまりないはずじゃ。」
「分かりました。山越えの時に一番やりやすい方法でやってみましょう。」
「そうじゃな。何分誰かと一緒に旅をすると言うのが初めてでのう。中々新鮮な感じじゃ。」
「折角ですから色々と楽しんでいきましょう。」
「うむ!」
ナレアさんがとても嬉しそうに笑顔をこちらに向ける。
釣られて俺も笑顔になっちゃう感じの晴れやかな笑顔だった。
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