第410話 血族



「ところで、これからどうするって話でしたよね?」


「ほほ、そう言えばそうじゃったな。リィリ達が合流するまでは適当に王都見物でもいいのではないかの?」


「結構深刻な話をしていたと思いましたが......。」


先程まで檻の事を話していたにも拘らず、次に俺達がやるのは観光だと言う。


「ほほ、何も奴らの仕業と確定したわけでもないじゃろ?それに妾達が走り回って情報を集めてもたかが知れておるじゃろ?」


「まぁ......それはそうですけど......。」


「情報はルルが集めてくれておるし、もう数日もすれば頼りになる者が来るじゃろ?任せるのが最善じゃ。」


......まぁ、ナレアさんはともかく、俺が情報収集しても碌な情報は得られないだろう。

そもそも情報収集ってやったことないからね。

美味しい御飯処すら見つけることが出来ないかもしれない。

いやそんな言い方をしたらリィリさんに怒られるな......リィリさんはその道の専門家だし。


「まぁ、確かに得意な人がやったほうがいいですよね......。」


「ほほ。全くしないと言う訳でもないのじゃ。少し気になる場所もあるのでついでに回ってもいいかの?」


「それは別に構いませんが、何処に行くのですか?」


「大した場所ではないのじゃ、明日道すがらにでも説明するのじゃ。基本的には観光でいいじゃろ。」


「分かりました。でも、僕達だけで先に楽しんでもいいものですかね......?」


美味しい物巡りをしたとか言ったら......。


「ほほ。あやつらは、先に楽しんだからといって気分を悪くする程狭量ではあるまい。」


「......それはそうですね。じゃぁ、皆が来るまで暫くのんびり過ごしますか。」


「うむ。案内するのじゃ。そこそこ詳しいからのう。」


そう言ってナレアさんが笑う。

先代魔王様に観光案内させるのって、かなり贅沢だよね?

俺達は明日の予定を決めて早々に部屋へと戻る。

勿論、部屋は別々だ。

当然だ。

ただ......ベッドに入った後、昼間の事を思い出して色々と悶え、中々寝付けなかった。




「ん?なんか眠そうじゃな?大丈夫かの?」


翌日ナレアさんと街を歩いていた所あくびが漏れてしまう。


「え、えぇ、すみません、大丈夫です......昨日少し眠れなかっただけなので。」


「ふむ?珍しいのう。なんぞあったかの?」


「えっと......まぁ、昼間の事を思い出したといいますか......。」


「昼間?......っ!?」


俺がボソッと伝えると、ナレアさんが思い至ったのか一気に顔を赤く染める。


「......。」


「......。」


「「......。」」


会話が途切れてしまった......いや、まぁ、俺のせいなんだけどさ......。

そのまま無言で暫く道なりに並んで歩いていく。

なんか、いつものようにのんびりとした感じではなく非常に緊張感のある時間だ......。


「......あー、今は何処に向かっているのですか?」


「あ、うむ......今は......ど、どこか行きたい所はあるかの!?」


「えっと......すみません。どんなところがあるのかも知らない物で......。」


「そ、そうじゃな!それはそうじゃ!うむ......では......あー。」


「昨日話していたナレアさんの気になる所に先に行くのはどうですか?」


「あー妾が行きたい所は、正直つまらぬと思うのじゃが。か、観光より先にそっちでいいのかの?」


「それで構いませんよ。さ、先に用事を済ませてから遊びましょう。」


「う......うむ、そうじゃな。では......どちらもちょっと面倒な場所なんじゃが......冒険者ギルドと魔術研究所じゃな。」


咳払いをした後、ナレアさんが気持ち雰囲気を変えて二つの場所を上げる。


「ギルドと......魔術研究所ですか?」


「うむ。魔道国の冒険者ギルドは遺跡の情報が頻繁にやり取りされておるからの。妾がここを離れている間に新たに発見された遺跡がないか調べたいのじゃ。魔術研究所は国の機関ではあるが、妾はそこそこ偉いからの。いくつか旅の間に作った魔道具を提供して、今どんなことを研究しておるか聞いておこうとな。」


「なるほど......うん、どちらも結構面白そうですけど、魔道具の研究所は僕も行って大丈夫なのですか?」


そこそこ偉いってところに引っかかりを覚えないでもないけど......もとトップですよね?

......今はトップじゃないからそこそこなのだろうか......?


「問題ないのじゃ。ケイは研究内容を見ても理解出来ぬじゃろ?」


ナレアさんはにやりと笑いながら言ってくる。


「まぁ、それもそうですね。辛うじて魔道具を一種類作ることが出来るだけですし。でも内容は全く理解していません。」


「ほほ。そう言えばデルナレスから、ケイが望むなら魔術の指導をして欲しいと言われておったな」


「デルナレス......さん?というと......。」


「あぁ、都市国家に居ったデリータの事じゃ。」


「デリータさんはデルナレスってお名前だったのですね。」


「うむ。デルナレス=ナルスス。ルルの娘じゃ。」


「......ん?」


誰の娘だって?


「どうかしたかの?」


「今誰の娘って?」


「ルルの娘じゃ。」


「誰が?」


「デルナレスがじゃ。」


「デルナレスって......。」


「デリータの事じゃ。」


「......えぇ!?デリータさんがルーシエルさんの娘さん!?」


「うむ。気ままな家出娘じゃな。」


「その家出娘さん、一城の主なのですが......。」


自分一人でお店経営しているもんな......俺の想像する家出娘像とデリータさんは全く合わない。

うん......デリータさんは完全に自立した女性だよね。

ルーシエルさんは物凄く心配していた感じだけど......ナレアさんがルーシエルさんに娘さんの事を伝えなかったのもなんとなく分かるな。

家出娘というより、もう家を出た方って感じだ。

いや、魔王の娘さんとしては駄目なのだろうか?


「まぁ、昔から逞しい奴じゃったからな。妾も久しぶりに会ったが立派にやっておったのう。あの街で会うまでケイ達の知り合いとは思わなんだがの。」


「驚きました......世間は狭いってやつですね......。」


「うむ。妾が店に行った時相当慌てておったがの。まぁ、ケイ達と一緒に魔道国に行くことは伝えて、その時にルルの奴には言わない様にとしっかり口止めされたのじゃ。」


「そういう事だったのですね......あれ?デリータさんがルーシエルさんの娘さんという事は......。」


確か血縁はルーシエルさんとその娘だけって言っていたけど......。


「うむ。デルナレスが次代の魔王じゃな。」


「うわぁ......。」


デリータさんが次の魔王......物凄く似合うような......物凄く危険な様な......。


「まぁ、あやつは妾と同じで研究者肌だからのう......早々に次代に引き継ぎそうじゃが......あやつ結婚出来るのかのう?」


「結婚がひつようなのですか?」


「他に血族が居らぬからのう......妾のように養子をとると言うのも出来ぬのじゃ。」


「それって結構マズいのでは......。」


「まぁ、ルルもまだ若いからのう。その内もう一人か二人くらい子供が出来てもおかしくは無かろう。」


「ルーシエルさんっておいくつくらいなのですか?」


「百は越えておったはずじゃが......まだ数十年くらいは子供が出来るじゃろ。」


百歳は越えているのか......それでも数十年は子供が出来てもおかしくないと......。

魔族ってやっぱりすごいな......。

寿命とかは......あまり聞きたくないけど......。


「へぇ......デリータさんを呼び戻すよりは、新しい世継ぎの方が現実的な気がしますね。」


「ほほ、伝えておくのじゃ。」


「いや、やめて下さい。絶対自分でも同意しつつ、何かしら攻撃はしてきますよ。」


「自分で言うのはいいのじゃ、人に言われるのは嫌なのじゃ。」


「うん......今間違いなくお二人は家族だと確信出来ました。」


「それは何よりじゃ。さて、どちらに行くかのう。」


「両方とも行くなら近い方からでいいかと。」


「それもそうじゃな。」


そう言って俺達は歩き出したのだが......なんか隣を歩くナレアさんと妙にぶつかる。

何故だろうか......?

俺は半歩だけナレアさんから離れてみたのだが、すぐにまたぶつかり出す。

不思議に思い、俺はナレアさんの方を見たのだが......ナレアさんはぶつかっているにも拘らずまっすぐ前を向いていて気にする素振りを見せない。

もう一度ナレアさんから半歩離れてみるが、やはりすぐにぶつかり出す。

......解せぬ。

しかも、何故か頑なにナレアさんは前方だけを見ていて、俺の方を見ようとしない。

うーん......これはもしかして......もしかするのだろうか......?

俺はぶつかってくるナレアさんの手をそっと握ってみる。

ナレアさんは小柄ということもあり、その手もやはり小さく感じる......。

物凄く手汗を掻きそうな程緊張していると、ナレアさんが小さく、だが嬉しそうに仕方ないのうと呟き俺の手を握り返してきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る