第102話 割れる地面
視界に広がるのは先程までいた神殿の一室ではない。
岩肌の小部屋に先ほどの神殿にあった物と同じ魔道具が置かれた台座。
細部が異なっているので同じものではないようだが。
気温は少し低く肌寒さを感じる。
これは間違いない......あの魔道具は俺が期待した通り、瞬間移動......かどうかは分からないけど、転移ってやつをしたのだろう。
込められた魔法は恐らく妖猫様の空間魔法......。
いいなぁ......凄く便利だ。
「ふむ、驚いておらん様じゃな。つまらんのう。」
声に振り向くとそこにはナレアさんとヘネイさんがいた。
「えぇ、少し予想していたので。ここはあの霊峰ではないですか?」
「驚きました......御推察の通りです。ケイ様。ここはかの霊峰にして応龍様のおわします聖域でございます。」
そう言ってヘネイさんが頭を下げる。
「知っておったのか?」
ナレアさんがこちらに近づいてきながら聞いてきた。
「霊峰に応龍様がいることだけは聞いていました。でも神殿から聖域にいけるということだったので恐らく転移する方法があるんだろうなぁと、期待していました。」
「ほほ、なるほどのう。」
ナレアさんは納得したように頷いている。
しかし、母さんのいた神域とは随分と様子が異なるな......。
肌寒いのは山の上の方だからだろうけど、空気が違うというか......俺が魔力を使えるようになったから受ける感覚が違うのかな?
「ナレア様、ケイ様。こちらに、ご案内いたします。」
引き続きヘネイさんが先導して歩いていく。
今いるのは洞窟の最奥ってところかな?
外の灯りが見える方に進んで行くとすぐに洞窟は終わり広場に出る。
そこにいたのは巨大な灰色のドラゴンだった。
「応龍様。ナレア様、ケイ様をお連れしました。」
『うむ、御苦労。控えておきなさい、巫女よ。』
ヘネイさんは頭を下げると応龍様の傍らに控える。
「久しいな、応龍よ。」
『この度はわざわざ済まぬな、ナレアリスよ。足労をかけた。』
ナレアリス?
ナレアさんの正式な名前かな?
「ほほ、問題ないのじゃ。偶にはお主の頼みを聞いてやらんと釣り合いがとれないのじゃ。」
『感謝する......そしてそちらが......。』
そう言って応龍様がこちらに首を向ける。
大きいなぁ......見上げるほどの巨体はぱっと見で何メートルくらいなのか分からない。
予想と違って西洋龍......ドラゴンって感じだったね。
っと挨拶しないと......。
『ケイ様。お待ちください。先に私に話をさせて頂けませんか?』
ん?
俺の肩から降りて隣にいたシャルがこちらを見上げながら声をかけてきた。
俺は別にいいけど......失礼にならないかな?
とりあえずシャルに頷いておく。
もしかしたら神獣への挨拶の作法があるのかもしれないからね。
シャルが俺の前に歩を進めて元の姿に戻る。
ヘネイさんは表情を変えなかったが少しだけ身じろぎしたように感じる。
応龍様とシャルが目を合わせて念話で会話しているようだ。
応龍様の念話は俺たち全員に聞こえていたが今はシャルと一対一で話をしているようだ。
話を初めてすぐに応龍様の様子が変わる。
目を見開いてこちらを見ているような。
表情は分からないけど、何やら慌てている様な?
『巫女よ、それとナリアリス。済まないがこの者達とだけで話がしたい。再び呼ぶまで一度下がってくれ。』
「承知いたしました。」
「ふむ?妾は構わぬが......長くなるかの?」
『すぐに終わる。戻ってきたら今回の件を話したい。』
「了解じゃ。では向こうで待っておるのじゃ。」
そういってナレアさんとヘネイさんが洞窟へと戻っていく。
やがて洞窟から光が漏れ、二人が転移したことが分かる。
それを確認した応龍様が凄い勢いで地面に顎を叩きつける。
......え?
地面が砕けて辺りに土埃が舞う。
『申し訳ありません!神子様!』
そして大音声......の念話で謝られた。
どゆこと?
『ケイ様。この者は応龍様ではありません。』
「え?応龍様じゃない?」
『はい、この者は応龍様を騙っているだけの偽物。ただの眷属です。』
そう言ったシャルの足元の地面に罅が入る。
おぅ......過去最高にシャルが怒ってらっしゃる。
『申し訳ございません!神子様を騙そうなどという意図は微塵もなく!』
大きな体を縮こまらせつつ全力で謝ってくる眷属さん。
あちこちがぷるぷると震えているが......。
「何か事情があったのだとは思いますが、お話を聞かせて頂いてもいいですか?」
『はい!ご説明させていただきます!ですがその前に、私ごときにその様な言葉遣いは不要です!なんでしたら罵って頂ければと!』
えぇ......ちょっとこの眷属さん色々問題ありそうな発言を......。
シャルの怒気が膨れ上がり、さらに眷属さんが縮こまる。
多分何かを念話で伝えているはずだ。
「えっと、応龍様の眷属さんでいいかな?とりあえず事情を聞かせてください。そうでないとこちらも何も言えないので。」
『承知いたしました!お話しいたします!』
そういいながらも姿勢を戻そうとしない眷属さん。
シャルは物凄い睨んでいるし無理はないかもしれない。
『私は応龍様の眷属のクレイドラゴンです。ここで応龍様の名を騙っているのは応龍様の指示でして......。』
「応龍様の?」
『はい、龍王国は今から二千年程前に応龍様を信仰する者たちが興した国です。その殆どがかつて応龍様の加護を受けた者達の子孫でした。私たち眷属も霊峰に住んでいたのでその営みを見ていたのですが、ある時彼らを助けることがありまして......その時、応龍様と間違われてしまいました。必死に訂正したのですがその甲斐もなく......応龍様に報告した所、過度の干渉はせずに見守るようにと......その時に応龍様の名前を使う許可を頂きました。』
「そうだったのですね......では本物の応龍様は......。」
『今も神域におわします。』
「分かりました、では母からの手紙は神域まで運ばせてもらいます。」
『神域へは私が案内させていただきます。』
「聖域を離れても大丈夫なのですか?」
『巫女に伝えておけば問題ありません。基本的に私はここにいるだけですので。』
そう言ってクレイドラゴンさんは地面にめり込ませていた顔を上げる
今すぐにでも向かいそうな雰囲気だ。
「では今回の問題の解決後にお願いします。」
『お待ちください!神子様のお手を煩わせるわけには!?』
「私はナレアさんの友人、仲間として今回龍王国で起きている問題に関わることにしています。神子としての私ではありません。」
『しかし......。』
「御迷惑でなければ手伝わせてください。」
『そんな、迷惑などとは!......畏まりました、申し訳ありませんがお力をお貸しください。』
「微力を尽くします。内容に関してはナレアさんと一緒に聞きたいと思います。」
『宜しくお願いします。では今から巫女を呼び戻しますが......申し訳ありません、言葉等を......。』
「えぇ、ただの使いとして扱ってもらって大丈夫です。クレイドラゴンさんの立場は理解していますので。」
『恐れ入ります!』
そう言ったクレイドラゴンさんは顎を地面に叩きつける。
再び地面が割れて土埃が舞い上がる。
この三つの地割れ......二人が戻ってきた時に何事?ってなるんじゃないでしょうか?
暫くして洞窟から光が見えて二人が戻ってきた。
クレイドラゴンさんの念話はここから王都まで届くのだろうか?
相当な距離だと思うけど......。
「ただいま戻りました。」
少しだけ割れた地面に反応したような気がするがヘネイさんは何も言わずに応龍様の側に控えた。
「何があったのじゃ?」
割れた地面を見ながらナレアさんが問いかけてくる。
まぁ、ナレアさんがスルーしてくれるはずないよね......。
まさかクレイドラゴンさんがめり込むほど謝ったとは言えないしな。
『......。』
クレイドラゴンさんは固まっているな。
とは言え俺もいい言い訳が思いつかない......。
「......。」
『......す......少し我の魔法を見せてやったのだ。』
「......なるほどのう、応龍の魔法か......。」
『うむ。』
クレイドラゴンさんがそう言った次の瞬間割れていた地面が鳴動して元の状態に戻った。
なるほど......これが応龍様の加護で使える魔法か。
顎で地面を割る魔法じゃなくて良かった。
いや、母さんから応龍様の魔法のことは聞いているけどね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます