第103話 過去を知る者



色々と様変わりしてしまった聖域をクレイドラゴンさんが元の状態に戻したところでナレアさんが本題を切り出す。


「さて、応龍よ。基本的に人の世に口を出さぬお主が今回に限って口を出してきたのじゃ。何か魔物の動きについて心当たりがあるのではないか?」


『......過去に似たような動きをする魔物の群れが発生したことがあった。種族を問わず群れを作り、より大きな集落を狙い、自らの命の危険を感じても逃げ出さない魔物達だ。当時はそれが世界規模で発生していて手が付けられない程であった。』


世界規模で魔物が暴れたのか......それは相当な混乱があったのだろうな。


『当時に比べれば規模も魔物の強さも大したことはないのだが、これが何かの前兆であれば非常に危険なのでな。あの時は魔物の異常行動がきっかけで飢饉が起こり最終的には世界規模での戦乱、文明の崩壊にまで発展したのでな。』


「文明の崩壊じゃと?と言うことは前回起きたのと言うのは......。」


『うむ、およそ二千年程前の事だ。』


「古代文明崩壊の原因というわけじゃな。確かに世界的な飢饉による暴動や戦争が原因とは聞いていたがその前に魔物の異常行動があったのか......。」


ナレアさんが考え込むように呟く。


『今回の件が過去のそれと同じとは限らない......いや、同じである可能性は低いと考えている。当時は魔物の体内から魔力を失った魔晶石が出て来たというようなことはなかったのでな。』


「その時は何が原因だったのですか?」


俺が尋ねるとクレイドラゴンさんが少し身じろぎをする。


『う、うむ。あの時は......その、大気に満ちる魔力に問題がありま......あってだな。』


俺に向かって話かけようとして物凄く挙動不審になっています。

思っていたよりもクレイドラゴンさんが演技出来てない!

わざわざ断りを入れていたにもかかわらず!?


「シャル。」


小声でシャルに呼びかける。

これで念話で落ち着くように伝えくれるはずだ。

クレイドラゴンさんがびくりと怯んだような気がしたが......シャル脅してないよね?


『......た、大気に満ちる魔力が淀んだのが原因だ。』


心なしか尻尾が震えているように見えるけど、きっと気のせいだろう。

力んでいるのかな?


「それはダンジョンの様な......?」


『は......うむ。本来、魔力だまりはダンジョンとなるはずなのだが......あの時期はダンジョンが新たに発生することがなかった。魔力だまり自体がなかった......いや、世界全体が魔力だまりになったと言う方が正しいだろうな。』


そんなことがあったのか......。

ダンジョンが作られる元々の原因は四千年前の事らしいがそれが活性化するようなことがあったってことかな?

今回の件がそれと関係あるとちょっと手に負えなさそうな気がするな......。


『原因はとある国にあったようだが......詳しいことは分かっておらぬ。その国も混乱に飲み込まれて滅んだ。』


中々傍迷惑な国もあったものだ......。

まぁ自分たちの国も滅んでいるってことは何かに失敗してそうなったんだろうな。

その何かが分かれば今回起きていることの糸口になったかもしれないけれど......こればっかりは仕方ないよね......。

でもそうか、ダンジョンか......。


「その時の魔物は倒した時に魔力に還っていたのですか?」


『魔力に還る物と還らない物がいま......いた。だが等しく群れを成して暴れ回っていた。』


こっちから問いかけるとかなりクレイドラゴンさんの言葉遣いが怪しいな......。

いや、それはどうでもいい。

今回の件とは状況が違うのか......?


「確かにお主の言うように、似通っている点もある様じゃが......同じ原因とは考えにくいのう。」


『杞憂であればそれでよい。だがそうでなかった場合を考えると前回が前回だ、放っても置けなくてな。厄介だとは思うが頼めるか?』


「うむ、厄介なことになってしまってはおちおち遺跡に潜ることも出来ぬからな。力にはなるつもりじゃが......何故妾に頼む?自慢ではないが、遺跡以外はからっきしじゃぞ?」


『私の知る限り、ナレアリスが最も優秀な魔術師だ。魔道具が使われている可能性がある以上選択肢は他にない。』


「そもそもお主が知っておる魔術師は妾しかおらぬのではないか?故に選択肢がなかったのじゃな?因みに妾は魔術師としての腕は普通じゃ。魔道具使いとしてならそれなりに自信はあるがのう。」


『......。』


そこで黙っちゃうんですか......?


「ナレア様以上の魔術師はこの国はおろか、世界を見渡しても見つけることはできないと思います。」


あまり間を空けずにヘネイさんがフォローを入れる。


「......まぁいいじゃろう。やることは変わらぬのじゃ。ところで報酬の件じゃが、欲しいものがある。応龍よ、後で相談に乗ってくれるか?」


『ふむ。また遺跡か?いいだろう、まだ教えていない遺跡があったはずだ。』


「うむ、詳しくは依頼の後でいいのじゃ。お主から今回の件で聞けるのはこのくらいかの?」


『そうだな、私から伝えられることは以上だ。巫女よ後は任せる。それと暫く聖域に入ることを禁ずる。』


「畏まりました。」


何となくナレアさんが何か企んでいる気がするのと、クレイドラゴンさんは神域に向かいたがっている気がするな。

色々と含みのある二人だが、まぁとりあえず気にしないでおこう。

それよりも王都に戻ってさっき聞いた話をレギさん達に伝えないとな......。


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