第104話 この感覚は二度目の......



「応龍から聞いた過去の話、妾としては実験か何かに失敗したのが原因ではないかと思うのじゃ。じゃが今回の件は何か意図的なものを感じるのじゃ。」


「......ふむ。」


ナレアさんがそう言うとレギさんは考え込む。

聖域から戻った俺たちは一度宿に引き上げて打合せをしていた。

そして情報を一通り説明したナレアさんが最後に意見を述べる。


「偶然と言うには被害の出ている場所が満遍なさすぎると思うのじゃ。もし何か自然と発生したものや事故であれば、原因の中心から円が広がるように被害が広がると思うのじゃ」


話をしながらナレアさんが一枚の資料を机に置く。

一覧に発生場所と日付、魔物の数が纏められている様だ。

一覧が無いと思っていたけどナレアさんが最初に取っていたんだね。


「龍王国の地名が分からないんですけど、分布的にはどうなっているんですか?」


「そうじゃったな、すまぬ。王都を中心に東西南北満遍なく発生しておるようじゃな。王都近郊では発生していない様じゃが、王都を囲むように発生しているようにも見える。」


「記録に残っているので一番古いものはどこで起きているんですか?」


「これだな......俺たちが通った街の近くで発見されている。」


そういってレギさんが一枚の報告書を机に置いた。


「あれ?ここって僕たちが魔物の群れに遭遇した場所と近いですね?」


確かこの街の次に目指した村の近くでクモの魔物を含む群れと遭遇したはずだ......恐ろしい。


「近いと言っても馬車で数日はかかる距離だぞ?シャル達のお蔭で少し距離感が狂っているがな。」


レギさんが苦笑しながら告げてくる。

そういえばそうか、普通数日かかる距離を近場とは言わない。


「その次に古いのはこれだね。」


「これは龍王国の北の方じゃな。」


リィリさんが手にしている報告書を一覧から見つけ、ナレアさんが補足をする。


「もし人為的に引き起こされているとして一人で行うのは無理な距離ですね。」


シャルが全速力で走ってもたどり着けるかどうか......いや、シャル一人ならいけそうだな。

でも普通は無理だろう。


「いや、不可能ではないかもしれぬ。ケイ、お主は応龍の所に行くときに見たはずじゃ。」


「......あぁ、転移の魔道具ですか。」


「うむ、アレは対となった魔道具のある場所にしか移動できないものじゃが、もしかしたら自由に好きな場所に転移出来る魔道具がないとも言い切れぬ。」


「そんなものを持っているとしたら、とてもじゃないけど犯人を捕まえるのは無理ですね......。」


「普通に考えるなら、複数犯ってことじゃないかな?」


「そうだな。そんな国宝どころか国同士で使用を監視しそうなレベルの代物を疑うよりは複数の犯人......組織的な動きを疑った方がいいだろうな。」


「うむ、その通りじゃな。詮無い事を言ったかもしれぬ。じゃが、転移の魔道具は現実に存在しておるから可能性の一つとして頭の片隅にでも置いておいて欲しいのじゃ。実際、魔物の行動をおかしくする未知の魔道具が使われている可能性が高いしのう。」


「そうですね、分かりました。」


「おう、すまねぇ。ナレアの言う通りだな。」


ナレアさんの言葉に俺たちは頷く。

可能性が否定できない以上あらゆるパターンを想定しておくべきだ。

知っているのと知らないのでは咄嗟の動きが変わってくるし、その一瞬が命取りにならないとも限らない。

まぁ現実はこっちの予想を簡単に上回ってくることも多いのだけどね......。


『ケイ様。ファラから連絡がありました。魔物の件に関してお話したいことがあると。』


「ファラが?外にいるなら入ってもらって。今ここにいるのは信頼できる人達だけだからファラも会っておいた方がいいと思うんだ。」


『畏まりました。すぐに伝えます。』


「ファラが何か情報を掴んだようなので今から話に来てくれるそうです。」


「ファラちゃんが来るんだ?やっと会えるなー。」


リィリさんはファラに会えることを喜んでいる。

ファラは体を清潔にして変な病気も持っていないから触っても大丈夫だろう。


「ファラというと以前話しておったネズミのボスじゃったか?」


「えぇ。情報収集をやってくれているのであまり僕たちの所にいることはないんですけど、とても頼りになる子です。」


「ケイの周りは規格外ばかりじゃな。普通ネズミは情報収集なぞせんのじゃ。」


まぁ普通はしませんね、でも元々ファラに情報収集させようとしたのはシャルだからな......。

俺のせいではないと思う。


『失礼します。』


どうでもいい事を考えているとファラが窓から部屋に入ってきた。

どうやらすぐ外にいたようだ。

それにしても今、部屋にいた全員が同時にファラの声に反応したな......もしかして念話を同時にみんなに出来るのかな?


『ケイ様の命にて情報収集を担当させていただいております、ファラと申します。リィリ様、ナレア様におかれましては御初にお目にかかります。レギ様、以前はご挨拶することが出来ずに大変失礼いたしました。当時は未熟故、言葉を伝えることが出来ませんでした。』


「お、おぉ。ファラも話せるようになったんだな。改めてよろしく頼むぜ。」


ファラの挨拶にレギさんが少し驚きながら返事をする。

少しあっけに取られていたリィリさん達も続けて挨拶をしていた。

やっぱりみんなに聞こえるように念話出来ているな......。

もしかしてシャルも出来るのだろうか......?


「ファラちゃんのお蔭で道中色々助かったよ!ありがとうね!」


『いえ、王都までの道すがらは全て配下に任せていたので、私自身は何も。リィリ様は情報収集能力が非常に高いと配下から聞いております。なんでも欲しい情報を一瞬で手に入れるとか。』


「あはは、私が集められるのはご飯の情報だけだよー、恥ずかしながら。」


「本当にな......もう少し普通の話も集めてくれればこっちも助かるのによ。」


リィリさんが早速ファラを手に乗せて話をしている。

横でレギさんも覗き込みながらボヤいているようだが。


『いえ、リィリ様のお蔭でケイ様も道中で食事を楽しむことが出来たと思われます。私たちが集めて報告する内容にはそういったものは含まれておりませんので。非常に助かりました。ありがとうございます。』


ファラは中々言葉が上手いな。

会話で情報収集したりはしていないと思うけど......情報を集める過程で色々な人の話を聞いて言い回しを覚えたって所かな?


「ふぅむ、思っていた以上に頼りになりそうな奴じゃな。しかし、ストレンジラットか、珍しい種じゃのう。」


......え?

俺の体がビクリと跳ね、額に冷や汗が浮かぶ。

今ナレアさんは何と言った?


「......ナレアさん、ファラはファットラットでは?ストレンジラットと言うのは......その、何でしょうか?」


「うん?何を言っておるのじゃ。ファットラットのはずがなかろう。ファラはストレンジラットじゃよ。」


確かに、久しぶりに会ったファラはちょっと痩せたなぁと思っていたよ。

でも、あの街から龍王国まで必死に走ってきただろうし、色々大変だったから痩せちゃったのだと思っていたのだよ。

だから栄養価の高いチーズをあげて労ったのだけど......まさか、そう来るとは......。

レギさんの方を見ると酸っぱい物でも食べたかの様な顔をしている。

マナスの時の顔よりはマシだが......。


「どうしたの?レギにぃ?顔が不細工だよ?」


「......いや、なんでも、ぶほぉっ。」


「汚い!」


耐えきれずに噴出したレギさんの横っ面に張り手を入れるリィリさん。

いいぞもっとやれ!

綺麗に入った一撃に思わず心の中で喝采を上げてしまった。

とりあえず、レギさんへの制裁はリィリさんに任せるとしよう。


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