第105話 指針を決める



『では、私が集めた情報をお話しいたします。』


リィリさんによるレギさんへの制裁が落ち着いた頃合いを見て、ファラがそう切り出した。

ファラも全く動じないな......グルフなら怯えていそうなものだけど......。


『まず、本日冒険者ギルドへ正式に国から魔物討伐の依頼が出されました。これにより王都から冒険者が地方へと出ることになると思います。また依頼が出たことにより市井の間にも魔物が暴れているという噂が広がり始めました。』


「そうか......街の雰囲気的に混乱は無さそうだが......。」


『はい、レギ様のおっしゃる通りまだ混乱のようなものは発生しておりません。』


「まぁここは王都じゃからな。東の国境にある軍事要塞の次くらいには堅牢じゃろうな。聖域もあるから警護は厳重じゃ。」


「そういえば対外的には聖域は霊峰ではなくあの王城の後ろにある山ってことになっているのでしたっけ。」


「うむ、騎士団もあそこを守るように麓を警備しておるがのう。」


「へぇ、そうなんだー。」


「あぁ、これは秘密じゃぞ?というかうっかり外で聖域は別の場所にあるなぞと言ったら袋叩きにあった後に衛兵に突き出されてその後拷問じゃな。」


「国家機密を軽々しく話すんじゃねぇ!」


しまった......確かに簡単に話していい内容じゃなかった。


「うむ、今回はケイがぽろっと言ってしまったからのう。中途半端に情報を知っていると後々理解に齟齬が生まれる原因となるから仕方あるまい。まぁここにいる者達だけの共通認識にしておくのじゃ。」


そういったナレアさんはこちらを見つめてくる。

その目には今までの様な茶化したような色はなく真剣だ。


「ケイよ。情報の取り扱いには気を付けるのじゃ。勿論今は身内だけということもあって口が滑ったのじゃろうが。国や宗教......政治、思想、利権に関わる事は迂闊に口にするだけで周りにも危険が及ばないとも限らない。取り扱いには十二分に気を付けるのじゃ。」


「はい、すみません。レギさん達もすみませんでした。」


「あぁ、大丈夫だ。気を付けてくれればいい。しかし、こういう風に注意されるケイは久しぶりだな。」


「ほう?ケイは比較的慎重に動くタイプだと思っていたのだがな。」


「最初の頃は酷い物だったぜ?目を話したら一瞬で厄介事に巻き込まれて命を落とすんじゃないかと思っていたもんだ。」


「それは是非とも詳しく聞いてみたいのじゃ。」


「じゃぁ今夜の酒の肴にするか。酒代はケイが出してくれるだろうしな。」


「まぁ、了解しました。」


奢る上にネタにされるのか......いや、まぁ自業自得だけどさ。

でも本当に気を付けないとな。

出来れば今後はこういう秘密には関わりたくないけどね。


「では説教も終わったことだし、ファラから続きを聞くのじゃ。」


「そうですね......ごめんね、ファラ。話を脱線させて、続きをお願いしていいかな?」


『承知いたしました。冒険者を使うことによって今後はより多くの情報を得ることが出来ると同時に被害の方も大きくなるだろうと予測されているようです。』


「情報が増えるのはともかく、被害が増えるの?」


「単純に被害報告が増えるってのもあると思うが、増えるのは魔物を討伐する側の被害ってことだ。」


俺の疑問にレギさんが答えてくれる。

しかし、討伐する側の被害......?


「冒険者に犠牲が出るってことですか?」


「あぁ、今までは軍が対応していたから大した被害は出なかっただろうが、これから冒険者も魔物の群れと戦うことになる。ケイは実感がねぇかもしれないが、本来、人は自分たちよりも多い数の魔物を相手には出来ないんだよ。」


「そうなのですか?」


「魔物は俺達よりも身体能力に優れるからな。複数人で連携してやっと戦えるってなもんだ。」


確かに俺が魔物と戦うようになったのは魔法が使えるようになってからだ。

もし魔法無しで戦わなければならないとなった時、いつものように問題なく戦えるかといったらそれは否だろう。


「自分たちと同数の魔物がいれば犠牲を出さずに勝つ見込みは殆どない、自分たちより多ければ下手したら全滅、何とか逃げられても犠牲は絶対に出る。そういうものだ。」


俺が思っていたよりも遥かに魔物退治は過酷だったようだ......。

母さん、加護をくれてありがとうございます。

加護が無ければここまでたどり着けていなかった自信があります......。


「ふむ、少しは少人数でダンジョンに挑む狂気が理解できたかのう?」


「その件に関しちゃ俺は全く責められねぇな......。」


「とりあえず......話を戻しましょう......ファラ、度々ごめん。続きをお願い。」


どうも俺が言葉を挟むと話が明後日の方向に飛んでいくな......ファラも従順に俺たちが話し出すと黙っちゃうしな......邪魔しないようにしよう。


『いえ、問題ありません。それでは続けさせて頂きます。冒険者ギルドについては今の所これ以上動きはありません。次に騎士団側ですが各地で魔物の群れを排除しているようですが、ここから南方を巡回していた部隊が何匹かの魔物の捕獲に成功したようです。現在は王都に輸送中ですが、到着までは半月から一月程時間がかかる見込みです。』


「ふむ......流石にそれが来るのを待つのは時間がかかりすぎるのう。」


「いる場所か移動経路が分かればこちらから会いに行けませんかね?ファラその部隊の現在地は分かるかな?」


『申し訳ありません、現在位置は正確には把握できておりません。』


「そっか......まぁ街の外の情報だから仕方ないね......その騎士団の情報はあるかな?」


『はい、第五騎士団に所属する部隊で部隊長はハヌエラ=ワイアードです。』


「あぁ、あの時の騎士さんか......。」


「部下の統率もしっかりしているようだったし、腕が立ちそうだとは思ったが、魔物を生け捕りにするとは大したものだな。」


「む?ハヌエラを知っておるのか?」


俺とレギさんがワイアードさんについて話しているとナレアさんが意外だというように聞いてくる。


「えぇ、龍王国に入る直前というか入った時というか......まぁその辺でちょっと知り合うきっかけがあったんですよ。ナレアさんはお知り合いだったのですか?」


「うむ、あやつはヘネイの兄じゃよ。」


「そうなんですか!?」


ヘネイさんのお兄さんだとは意外というか、驚きの繋がりだ。


「うむ、ヘネイは家を出ておるが兄妹であることに違いはないからのう。ハヌエラは面白い奴じゃろ?」


「面白いというか......真面目で凄くいい人そうでしたけど。」


雰囲気のいい人とは思ったけど、面白いというのはちょっと分からないな......。


「ふむ、仕事中はそんな感じなのかのう?」


オンオフの切り替えがはっきりしているのかな?

機会があったらオフの時のワイアードさんとも話してみたいものだ。

まぁ村ではレギさんの横にいただけだから話をしたとはいえないけど......。


「そうじゃな......騎士団の件は明日ヘネイに相談しておこう。国の方から許可を貰わぬと騎士団には相手してもらえんからのう。」


「なるほど......明日僕は魔術師ギルドに用事があるのでそちらはお任せしてもいいですか?」


「うむ、任せるがよい。」


今日は魔術師ギルドにいけなかったので明日辺りに行かないと、あの必死な受付さんに恨まれそうだ。


「じゃぁ俺たちはギルドで依頼の状況を確認してみるか。」


「了解。」


レギさんとリィリさんはギルドに行ってくれるようだ。


「そういえば、魔術師ギルドで何か問題が起きているようなことをヘネイが言っておったな。この依頼の後に相談したいと言っておったが......。」


「ファラ、何か知ってる?」


『魔術師ギルドに関しての情報はいくつか......現在致命的なまでに人員不足に陥っています。ギルドのトップや幹部、中核となるメンバーが半年程前にいなくなったのが原因のようですが、何故いなくなったのかは現在調査中です。また人員不足が原因で賃金の支払いが滞るようになり従業員も軒並み辞めたとのことで現在の状況に至っているようです。』


「ふむ......何故組織が維持できぬ程メンバーがいなくなったのかが気になる所じゃが......。」


『もう少々お待ちいただければ原因まで掴めますが。』


「どうします?ナレアさん。」


少しだけ考え込むようにナレアさんは口元に手を当てたがすぐに決断を下す。


「ヘネイが今回の魔物の件とは関係ないが片付き次第相談したいと言っていたしな......情報だけ集めておいてもらっても良いかの?」


「分かりました。ファラ、優先度は高くしなくていいけど魔術師ギルドの件もお願い。もし情報を集めて魔物の件とかかわりがある様だったら教えてくれるかな?」


『承知いたしました。』


ファラに任せておけば情報はすぐに集めてくれるだろう。

魔物の件が終わればすぐに魔術師ギルドの件も対応できるはずだ......対応できるような内容だといいけど。

まぁ今は魔物の件に集中しないとね。

早ければ明後日には王都を出て騎士団の所に向かうことになりそうだから準備も進めておこう。


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