第484話 目覚め



「さて、そちらも情報の共有はもういいじゃろ?そろそろリィリを起こしてやりたいのじゃが?」


ナレアさんとレギさんから話を聞いた後、俺はファラが調べてくれた情報を二人に伝えた。

まぁ、ナレアさんの反応は、やはり魔道国ではなかったか......と言った程度の物だったけど。


「そうですね。私も話を聞いてみたいですし、是非お願いします。胸元に置いている魔道具を停止すれば目を覚ましますよ。あぁ、普通の人には影響は出ないのでそのまま取り除いてくれて結構です。」


「......まぁ、鵜呑みにするつもりはないがの。少し調べるのじゃ。ケイ、レギ殿後ろを頼むのじゃ。」


「了解です。」


ナレアさんが懐からルーペのようなものを取り出し、リィリさんの胸元に置かれている魔道具を調べ始める。

今はまだ空間固定を解いていないけど、魔術式を確認する分には問題ない。

まぁ、ナレアさんから指示が出たらすぐに解除するけど。


「そんなにあっさりと魔道具を解析されると私の立つ瀬がないですねぇ。」


キオルが肩をすくめながらナレアさんを見る。

しかし、ナレアさんは反応を示さず真剣な面持ちで魔道具を調べている。


「......向こうで寝てる馬鹿はどうする?」


「必要ですか?」


「まぁ、寝ていても問題はないだろうが......話くらいは参加させてやってもいいんじゃないか?」


「ふむ......まぁ、その辺りはそちらの方々に聞くべきですね。私達に決定権はありませんし。」


キオルと話していたクルストさんがナレアさんの傍に立つ俺達に視線を向ける。


「三人目の仲間って奴か?リィリを起こしてからなら別にいいんじゃねぇか?それまでは余計な行動は起こしてほしくない。」


「あー、了解っス。」


レギさんの言葉にクルストさんが頷く。

......やはりクルストさんは普段通りというか......いや、顔はボコボコだけど、態度は普段と何ら変わりがない。

向こうのダンジョンにいた時よりも......なんだかスッキリした様子に見える。

まぁ、クルストさんへの罰はリィリさんがやるだろうし......俺からは特にない。

クルストさんに裏切られた時は、怒りよりも悲しみの方が強かったこともあってか、クルストさんの事情を聞いて......リィリさんにも攫われた以外の被害がないと聞いているので飲み込める気がする。

レギさんからも、殴りまくってもうスッキリしたって感じがしているし......ナレアさんとリィリさんから壮絶なお仕置きをされて終わりだろうか?

だがキオルに関しては......まだ決着をつけなければならないことがある。

......母さんの神域にアザルを差し向けたのはキオルの仕業だ。

神域を襲ったこと......それについてきっちりと、オトシマエを着けねばならない。

それに母さんの魔力を......返してもらう件については......少しナレアさんに相談させてもらおう。

本当は問答無用で取り返すつもりだったけど......クルストさんの事を思うと......少し思う所がある。

甘い考えかもしれないけど......それでも、俺はクルストさんの事を友人と考えている。

勿論、リィリさんを攫ったことはそう簡単に許すことは出来ないことではある......それでも、クルストさんの事を憎むことは出来ない。

そんな風に今後の事に頭を悩ませていると魔道具を調べていたナレアさんが顔を上げた。


「ふむ。大体分かったのじゃ。アンデッド専用の拘束用魔道具といったところじゃな。これならば言っていたように、魔道具を停止すれば程なくリィリは目覚めるじゃろう。」


「御納得いただけたようで何よりです。魔道具の解析が早すぎて正直鳥肌が立っているところですが、今はそれよりも早く話が聞きたいですね。」


ナレアさんの解析結果を聞き、キオルが目を輝かせながら身を乗り出す。

流石にリィリさんを攫った手前、本人から詳しい話を聞くことは諦めていたようなので、色々と聞くチャンスが出来た今テンションがあがっているのだろう。


「ケイ、少し手伝ってくれるかの?」


「了解です。」


ナレアさんに声を掛けられ、俺は周辺警戒をレギさんに任せリィリさんの傍に行く。

勿論俺がナレアさんを何か手伝うわけでは無く、固定化を解くだけなのだが......やはり、大っぴらに魔法を使えないと色々と迂遠な感じがするね。

俺がすぐさま空間固定を解除すると、ナレアさんがリィリさんの胸元に置かれていた魔道具を外す。

安全ピンみたいなもので服に縫い留めていたみたいだが、ナレアさんが外すと同時に魔道具は動きを止めた。

ナレアさんが確認しているのだから問題はないのだろうけど......リィリさんが目を開けてくれないと物凄く不安になってくる。

しかし、そんな心配も杞憂だったようで、ほんの数秒後リィリさんがゆっくりと目を開いていく。


「あれ?ナレアちゃん......と、ケイ君?なんで......?あれ?私寝てた......?」


今更ながら......女性の寝顔を見るのはまずかったんじゃないだろうかという気がしてくる。

いや、別にリィリさんは寝ていたわけじゃないけど......後で何か言われるかもしれない。

俺のそんな懸念を他所に、ナレアさんがリィリさんに声を掛ける。


「うむ。どこか体に違和感のあるところはないかの?」


「......違和感......?うーん?特にないけど......あれ?ここは......どこだろう?私なんでこんなところに?」


意識が無かったのだから当然ではあるけど、まだ状況の掴めていないリィリさんがきょろきょろと辺りを見渡す。


「体に違和感が無いようじゃったら、起きてくれるかの?とりあえずこの場から少し離れたいのじゃ。」


「ん?うん、分かったよ。あれ?レギにぃもいるんだ?」


リィリさんが寝かされていた台から降りて周囲を見渡す。


「うむ。ところでリィリ、寝る前の事は覚えておるかの?」


「えっと......寝る前は......あれ?クルスト君と一緒にご飯屋さんに向かっていたような......。」


リィリさんが口元に手を当て、思い出す様にしながら言う。

......やっぱり御飯処に誘われたのか。


「それでえっと......クルスト君が何かを落として......あれ?それを拾ってから何も覚えてないな。」


恐らくその時拾った物がさっきまで胸元にあった魔道具なのだろう。


「リィリ大丈夫か?」


周辺警戒をしていたレギさんが近づいてきてリィリさんに声を掛ける。

どうやらシャル達が代わりに警戒してくれているようだ。


「うん、大丈夫だけど......あれ?レギにぃ......なんか、雰囲気が......。」


「あぁ、その辺は後でな。とりあえず、問題ないならそれでいい。」


「う、うん。」


レギさんが漸く安心した様子を見せ、その様子をみたリィリさんは少し驚いているようだ。


「えっと......ナレアちゃん、何があったか説明してもらっていいかな?」


「うむ。勿論じゃ。」


ナレアさんがリィリさんに説明するのを聞きながら、俺は二人から少し離れる。


「シャル、この部屋に誰かが近づいて来ている様子はあるかな?」


俺がクルストさん達には聞こえない様に問いかけるとシャルはかぶりを振る。


『現時点でこの部屋に近づく者はいません。ファラの言っていた巡回している者も、暫くはこちらに来る様子はなさそうですね。』


「ありがとう、助かるよ。」


この部屋に向かってくる相手が居ないのなら必要ないかもしれないけど......出入口を空間固定してしまおうかな?

リィリさんを守る空間固定を解除したから今なら扉を封鎖するのは問題ない。

一応クルストさん達はもう抵抗するつもりはないみたいだけど、今気を失っている人達が逃げ出さないとも限らないし......唐突に誰かが入ってこないとも限らないからな。

まぁ、シャルやファラが警戒している以上どちらもそう簡単には出来ないだろうけど、出入り出来ない様にしておくに越した事は無いだろう。

そう決めた俺は空間魔法を発動して部屋の出口を固定する。

これで壁を突き破ったりしない限りこの部屋には入ってこられない。

一先ずゆっくり話が出来るかな?


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