第69話 苦労なき登山



三日ほど街でのんびりした後、俺たちは龍王国に向けて出発した。

滞在期間中は殆どリィリさんの美味しいもの巡りに付き合っていた感じであったがかなり楽しめた。

まぁレギさんだけはギルドでなんか仕事を受けたそうにしていたけど......。

それはそうと、ネズミ君たちの情報収集能力に負けず劣らず、リィリさんの美味しい物センサーはかなりのものだった。

その中で俺が一番気に入ったのはハーブ入りのソーセージ?フランクフルト?

まぁそんな感じの奴だ。

この二つの違いって何だっけ?

いや、それはどうでもいい。

一先ずおいしいもの巡りも一段落したので旅立つことにしたのだがネズミ君たちは引き続き情報収集を続けるそうだ。

その内、世界のどこに行ってもネズミ君たちによる情報収集機構がある日が来るかもしれないな......。

今は先日の打合せ通り左のルートを進み、麓に広がる森を抜け山登りをしている所だが......シャルとグルフのお蔭で山道も何のその、この分だとあっという間に山を越えてしまうだろう。

人が通る道もあることだし、基本的には多少きつい坂がうねうねと続いている。

しかしシャル達はたまに人では進めないようなルートをショートカットしていくので中々スリリングなひと時もある。

中腹程から山の反対側に抜けることが出来るのだが、中々の高さで眼下に広がる景色は筆舌に尽くしがたい。

一言でいうなら、すごい......。

この山はそこまで大きな山ではないがそれでも視界を遮るものがなく、遥か遠くまで見ることが出来る。

基本的に緑が広がる風景だが、右ルートの先にある村が見えた。

そこそこ大きな村のようで、畑も結構広いのだが、見ている感じ材木を切り出すことが主産業なのかな?

暫く眺めているといくつか木が倒れているようだった。

もう少し上に登ったら休憩にしてもいいかもしれないな。

街で昼食用にお持ち帰りできる食事を買い込んであるのだ、折角だから見晴らしのいい場所でのんびりとランチを取るのもいいだろう。


「シャル、もうこの先に開けた場所があったらそこで一度休憩して昼食を取ろう。」


『承知いたしました。』


シャルが速度を緩めることなく返事をして程なく、いい感じに開けた場所があったのでお昼タイムと相成った。




「随分と楽な山越えもあったもんだな。」


レギさんが昼食を取りながらしみじみと呟く。


「そうだねぇ......私、ちょっと街中の移動も自分で歩くのが面倒くさく思う時があるよ。」


「それは怠けすぎだ。」


まぁ、リィリさんの気持ちも分からないでもない。

俺も宿から食事処に移動するのにシャルだったら数秒で辿り着けるのになぁ、みたいなこと考えたりしたからな......。


「まぁ、街中はともかく。馬車移動は億劫になりませんか?」


「あー、それはあるな......。」


「そうだね......ちょっと馬車は嫌かも......。」


二人とも苦笑しながら俺の言葉に同意する。


「だが都会に行けば行くほどグルフ達に乗るのは難しいかもしれないぞ。」


「あぁ、人の往来が激しいとそうかもしれませんね......。」


基本的に街道から離れて移動はしているが人が多くなればそれだけ見つかる危険は高くなる。

シャルはともかくグルフはとっさに身体を小さくしたりできないからな......。

がんばろう......。


「西の魔道王国の王都付近なんかは厳しいだろうなぁ。」


「魔道王国......?」


「おう、西の大国......というか大陸最大の国だな。」


「へぇ......そんな国が。その......魔道王国というからには魔王が治める国とか?」


「ん?そうだぞ?」


レギさんがそれがどうかしたのかと言わんばかりの顔でこちらを見ている。


「えっと......魔王って普通なんですか?」


「どういう意味だ?」


「えーっと......。」


難しいな......邪悪な感じですか?

とか聞けるわけないしな......。


「なんで魔王って呼ばれるんですか......?」


「そりゃ、魔道の国の王様だからだろ?」


「魔族の王様だからってのもあるんじゃないかな?」


魔族......母さんから戦争で絶滅させたって聞いているけど......。


「魔族がいるんですか......母さんから絶滅したって聞いていましたが......。」


『そうですね、過去の大戦で確かに滅ぼしたはずです。』


俺の言葉にシャルも同意する。


「物騒な話だな......それは四千年前の大戦ってやつの話か?」


「えぇ、僕も詳しくは聞いていないのですが。魔族は既に滅び去った種族と......。」


「寧ろ、今一番繁栄しているんじゃねぇか?」


「そうだね、私は行ったことないけど魔道王国は物凄い都会って聞いたことがあるわ。」


「俺は行ったことあるぜ。王都の発展ぶりはちょっと開いた口が塞がらなくなるレベルだ。」


「......魔族と共存しているってことですよね......?魔族って悪魔みたいな見た目でとても残忍と聞いていましたが......。」


「ん?なんだそれ?」


レギさんもリィリさんもキョトンとしている。


「違うんですか?」


「見た目は人族と同じ......って言うか、デリータは魔族だぞ。」


「......え?」


......デリータさんが魔族。

これは、母さんの言っていた魔族と今の魔族は完全に別の種族ってことだね?

あ、さっきの台詞デリータさんの前で言わなくてよかった......。


「すみません、魔族って僕たちと何が違うんですか?」


「基本的に魔力が多くて寿命が長いな。」


「頭のいい人が多いよね。」


「そりゃ人それぞれだと思うが......まぁ知り合いの魔族連中は頭の回転が速い奴が多いな。」


「なるほど......いや、ここで聞いておいてよかったです。人が多い場所で聞いていたら大変な事になる所でした。」


魔族って化け物みたいな感じじゃないんですかって......侮辱にもほどがあるよね。


「そうだな、確かにいいタイミングだったな。他の神獣がどこにいるのか分からんが、西方にいくこともあるだろうし、別に魔道王国にだけ魔族がいるってわけじゃない。いずれ何処かで話をしていただろうからな。」


「気を付けます......因みにこの世界には人族と魔族以外に文明的な生活をしている種族っているんですか?」


「いや、その二種族だけだ。後は動物とか魔物とか......そんな感じだな。」


「なるほど、ありがとうございます。」


「それで、なんで魔族の話になったんだっけ?」


リィリさんが食べ終えた容器なんかを片付けながら元の話題を思い出そうとする。


「えっと、確かシャル達に乗るのは都会の方では難しそうだって所からだったかと......。」


「あぁ、そうだったね......ねぇケイ君。姿を消すような魔法ってないのかな?」


「うーん、今の僕が使える魔法では難しいですね......。」


身体強化......というか身体操作?

体を保護色にするくらいなら出来るかもしれないけれど......シャル達の速度に合わせて変え続けるっていうのはちょっと無理だろう......。

確か仙狐様の加護で使える魔法で幻を操れるって母さんが言っていたな。

加護が貰えたら出来るようになるかもしれないけど......なんとなく母さんが渋い顔......というか雰囲気をしていたのが気になるな......。


「そっか......今後加護がもらえたらって感じかな?」


「恐らく仙狐様の加護で出来ると思います。」


「へぇ、それは楽しみだね。街中も移動できるようになるかな?」


リィリさんどれだけ移動が面倒なんだろう......。


「まぁその為にも今は前に進むとしようぜ。飯も終わったしそろそろ出るか?」


「そうですね。行きましょう。」


手早く後片付けをした俺たちは再度龍王国に向けて移動を開始した。




山の反対側に出ると風景が一変した。

折角見晴らしがいいので少し足を止めて皆でこちら側の風景を楽しむことにした。

都市国家方面は平地続きで遠くまで見えたのだが、どうやら龍王国方面は山が多いらしい。

遠くに聳え立つ霊峰は別格としても、そこに行くまでにもいくつも大小さまざまな山があるようだった。


「山が多そうですね。」


「そうだな。大陸中央は山が多いと聞いてはいたが......どの方角を見ても遠くに山が見えるな。」


レギさんと霊峰の方を眺めながら話をしていると少し離れた位置で景色を眺めていたリィリさんが近づいてきた。


「二人とも、ちょっとアレみて。」


リィリさんが指をさす方向を見るとこれから向かおうとしている村が見えたのだが......。


「煙が上がってますね......。」


「火事か......?かなりでかそうだが......。」


視覚強化をかなり強めに掛けてみる。

辛うじて村の様子が分かるようになったが......魔物に襲われている!?


「魔物に襲われているみたいです!」


「ちっ!いくら何でもここからじゃ間に会わねぇぞ!」


俺はシャルに飛び乗るとレギさんに向かって叫ぶ。


「シャルと二人で先行します!グルフ!二人を連れてなるべく早く追いかけてきて!」


「ケイ!いくらなんでも遠すぎるぞ!」


「シャル、全力でお願い!」


『承知いたしました!お掴まり下さい!』


次の瞬間、シャルは斜面を一直線に駆け下りた!


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