第70話 村がやばい



View of レギ


目の前に居たはずのケイとシャルは一瞬で見えなくなった。

ちっ!速すぎるだろ!

ここまで移動してきた速度がほんのお遊びだと言わんばかりの速度だ。


「レギにぃ!呆けてる場合じゃないよ!急いで追いかけないと!」


リィリに怒鳴られて意識が現実に戻る。


「すまん!グルフ!出来る限り急いであいつらを追いかけてくれ!」


俺がグルフに飛び乗りながら指示を伝えるとグルフは一声鳴き、今までとは比べ物にならない速度で山を駆け下り始めた。

とても俺では出せないような物凄い速度だが、先ほど見たシャルの速度には遠く及ばないように感じる。


「追いつくのは無理か......。」


「しょうがないよ、グルフちゃんの方が体は大きいけど二人も乗せてくれているんだし。」


「それもそうだな......すまねぇなグルフ。」


俺はグルフの背中を撫でる。

こいつの毛皮ふわふわしてて手触りがすごくいいよな......ケイがブラシとかを丁寧にかけてるからか?

必死に走ってくれているグルフには悪いがそんなどうでもいい事を考えてしまう。


「さっきのケイ君。随分と焦ってたね。」


「そうだな......あいつは普段ぼーっとしている様だが、意外と慎重に動くタイプだ。特に戦闘や目に見える危険に対してはな。」


「魔法を使って何か見ちゃったんじゃないかな......?」


「......なるほどな......慎重以上に優しいと言うかお人よしと言うか......そっちが刺激されちまったか?」


「......子供じゃないといいけどね。」


「そうだな。」


あの村でがきんちょ共がダンジョンに行っちまった時、俺は余裕をなくして慌てふためいちまったが、そんな時でもあいつは慌てながら冷静に対処して見せた。

先程の様子はかなり冷静さを欠いているように見えた......走っているうちに頭を冷やしてくれているといいが......まぁシャルもいるし問題はそこまでないか?

あまり目立たないようにだけ気を付けてくれればいいが......。

落ち着いて考えてみれば、ケイに関してはそこまで心配するようなこともないか。

村が無事だといいが。

それによるショックとかの方が心配だな......。

......いや、まてよ?


「あいつ......大怪我してる人がいたら回復魔法使うよな......?」


「あー、絶対使っちゃうだろうね......。」


「まずいな......そっちの方が心配になってきたぞ......。」


上手いことやってくれるといいんだが......。


「グルフすまん。今も全力出してくれていると思うんだが......ケイがちょっと心配だ、出来る限り頼む!」


俺の焦りが届いたのか、心なしグルフの走る速度が上がった気がした。

慎重に動いてくれよと思うものの、多分無理だろうなぁと心のどこかで冷静に考える俺がいた。




View of ケイ


視覚強化によって見えた光景に思わず飛び出してしまった。

シャルは未だかつてない速度で走ってくれている。

この分なら後数分もすれば村に到着できると思うけど......。

あの時、俺の視界に飛び込んできたのはトカゲの様な魔物に襲われそうになっている親子の姿だった。

この数分、あの親子が無事でいられるだろうか?

何とか時間を稼いで欲しい、生きてさえいてくれればなんとか助けるから!

ぱっと見た感じトカゲの魔物は何匹もいるようだった......。

あぁ、嫌だ、人死になんか見たくない。

この世界では日本よりも死が身近にあるのだろうけど......それでも全力で拒否したい。

人が死ぬのも、それを悲しんでいるのも......見るのはごめんだ。


『ケイ様、間もなく村に到着しますが......この辺りで姿を変えたほうがいいかと思います。』


「......ギリギリまで近づいて。パニックになりそうだから村に着いてから直ぐに姿を変えてくれるかな?」


『よろしいのですか?視認される恐れがありますが。』


「......あまりよくないけど......パニックで見間違えたってことにさせてもらおう。今は速さを優先したい。ごめんねシャル、俺がもう少しちゃんと魔法が使えたら良かったんだけど。」


シャルと同じような速度で動けるならもっと手前で降りてから俺が走れば何も問題ないのだが、今の俺ではこの速度で走るのは無理だ。


『いえ、ケイ様は素晴らしい早さで魔法を習熟されていっております。慌てる必要はありません、私がお手伝いさせていただきますので、どうかこのまま研鑽を積まれていってください。』


「うん、がんばるよ。」


シャルと話すことで少しだけ落ち着いた気がする。

シャルの姿を見られることは不味いと思うが出来れば見て見ぬふりしてくれると嬉しいなぁ......。

そこまで考えたところで村の柵が目に映る。

何カ所か壊されているのは恐らくトカゲの魔物のせいだろう。

流石にこの状況であってもシャルが村の中を走ればえらいことになるのは理解できる。


「シャル、ありがとう。ここまででいいよ。」


そう言ってシャルから飛び降りながら身体強化を強めにかける。

シャルが停止する前に飛び降りたので身体強化を掛けていてもバランスを崩しそうになるが、上昇した身体能力にあかせて強引に立て直す。

柵を飛び越え、近くの建物の屋根に飛び上がる。

辺りを見渡すと先ほど見た親子がいた。

地面に倒れた母親らしき人とその人に縋り付きながら声も上げられない子供。

そして近くにいて今にも襲い掛からんとする二メートル程の巨大トカゲ。

それを確認した瞬間一気に屋根を蹴りトカゲへと飛びかかる。

屋根が凄い音を立てて壊れた気がするがそこは勘弁してもらいたい......。

急速に接近した俺にトカゲは気づく様子もない。

腰の短剣を抜くのももどかしくそのままの速度でトカゲの胴体を蹴り飛ばした。

以前、交通事故になった時を上回る速度でありながらもちゃんと攻撃することが出来たのは成長の証だろうか?

家の壁に穴をあけながらその向こうに消えたトカゲはとりあえず捨て置き、倒れている母親らしき人に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


我ながら間抜けなことを言っているとは思う。

血まみれで倒れている人が大丈夫なわけがない。

側にいる子の両手は血まみれだが本人に怪我はないようだ。

ただ恐怖に淀んだ目は何も映していないように見えるし半開きの口からは何も聞こえてこない。

倒れている人は......まだ脈がある!

大丈夫、大丈夫だ。

治せるはずだ!


「大丈夫、大丈夫だよ。俺が助けるからね!」


そう言って回復魔法を母親に掛ける。

すぐに傷は塞がり、血の気のなくなっていた顔色もよくなった。

レギさんの時と同じだ、回復魔法は失った血液も補充されているはず......。

意識は戻っていないが、多分もう大丈夫だろう。


「うん、これでもう大丈夫だよ。」


俺は側にいた子の頭を撫でる。


「ここにいてくれるかな?さっき蹴り飛ばしたやつを逃がさないようにしないといけないから。」


そう言って立ち上がろうとしたが、呆けていた子が俺の服をぎゅっと掴んで離してくれない。

反応があるのは良かったが、今そうされるのはちょっと困る。


「えっと......ごめんね?すぐに戻ってくるから離してくれないかな?」


なるべく優しく話しかけるがその子は怯えた顔で顔を横に振るだけで手を放してくれそうにない。

困ったな......さっきぱっと見えただけでも後三、四匹はトカゲがいたはずだ。

レギさん達もまだ村には到着していないだろうし......。


「おい!あんた!何をしている!」


そんなことを考えていると道の向こうから村の人らしき男の人から怒鳴られる。

丁度いい、この子達はあの人に任せよう。


「すみせん、僕は冒険者です!今襲われていたこの子達を助けたのですが......手当はしてあります!ほかにも魔物が入り込んでいる様なのでそちらに向かいたいのですが、後をお願いしてもいいですか!?」


「っ!?そうか!すまねぇ!そいつらは任せてくれ!」


そういって駆け寄ってくる男の人。

今はこの人を信じるしかないよね。


「サラ!?こんな血まみれで......大丈夫なのか!?」


「手当は済んでいるので大丈夫だと思います。安全なところまで運んでもらえたら助かります。ごめんね?この人と一緒に安全なところにいってもらえるかな?お兄ちゃんはちょっと他の魔物やっつけてくるからね。」


悪いとは思ったけど、俺の服を掴んでいる子の手を外して立ち上がる。


『ケイ様、先ほどのトカゲは既に死んでいます。』


「ありがとうシャル。」


壁に空いた穴から家の中を覗き込むと先ほど蹴り飛ばしたトカゲがひっくり返っていた。

この家の人が戻った時にこんなのがいたらびっくりするだろうから家の外に放り出して仰向けにしておく。

これなら死んでいるって分かるよね?

再び屋根に飛び上がって辺りを見渡す、一瞬驚いた表情でこちらを見るさっきの男の人が視界に入ったがここはスルー。

少し離れた位置にトカゲを発見したのでそちらに急行する。

後何匹くらいいるんだ......?


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