第71話 スラッジリザードとの戦い
「うわあああああああ!!」
腰が抜けたのか悲鳴を上げるだけで逃げようとしない男の人に飛びかかるトカゲ。
横合いから飛び込んだ俺は今度はトカゲを真上に蹴り上げる。
家を壊すのは良くないよね。
さっきよりもその辺を気にする余裕が俺にも生まれているようだ。
ナイフを抜いてトカゲに狙いを定める。
『ケイ様!その魔物の腹を斬るのは避けてください!』
珍しくシャルから戦闘中にアドバイスが飛んでくる。
逆らう意味はない。
落ちて来るトカゲの首をナイフで切り裂くと血が噴き出した。
あ......ダンジョンの魔物じゃないんだから魔力に還らないじゃん......。
血がかからないようにとっさに後ろに逃げる。
首を裂かれ地面に叩きつけられたトカゲは少しの間じたばたと手足を動かしていたがやがて動かなくなる。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「う、あ......あ、あぁ。た、立てる。」
「安全な場所までいけますか?大丈夫なら僕は他の場所を助けに行きますが。」
「あ......あぁ、多分大丈夫だ......。すまない、村の皆を助けてくれ。」
俺は頷くと三度屋根の上に飛び上がる。
それにしてもこの村の人たちは中々勇敢だね......俺が同じ立場だったら縋り付いてでも助けを求めそうだけどな......。
そんなことを考えながら辺りを見渡すがこの付近にトカゲはいないようだ。
村の奥の方で火の手が上がっているのでそちらの方に移動してみよう。
俺は屋根から飛び降りて駆け出した。
「シャル、このトカゲってどんな魔物か分かる?」
『はい、これはスラッジリザードです。体の中で可燃性のガスを生成してそれを吐き出すことが出来ますがスラッジリザード自身は火に強いわけでも無く、火を吹けるわけでもありません。』
「じゃぁあそこが燃えているのは......何かに引火したって感じかな?怪我をしている人がいないといいけど......。」
『スラッジリザードの吐くガスはかなりの異臭がするのでお気をつけください。それだけで獲物を昏倒させるほどです......。』
シャルが少し嫌そうにしている。
恐らく嗅覚が強いから俺には感じ取れないスラッジリザードの匂いを感じているのだろう......。
「大丈夫?シャル。辛かったら離れていていいんだよ?」
『問題ありません!ご心配頂きありがとうございます、ですが御側に控えられないほうが辛くありますので。』
「うん、ありがとうシャル。」
『それと伝えるのが遅れて申し訳ありません。ガスは腹の部分に貯めているのでその部分を斬るのは避けた方がいいと思います。』
「あぁ、それでさっき腹を避けてって......了解。」
俺は基本的に首とか手足を狙うことが多いけど、さっきナイフを構えた時にシャルが慌てて注意してきたのはあの位置でガスを浴びたら大変なことになるからか......。
『ケイ様、その建物の向こうに魔物が二匹います。あと、恐らく死体も......。』
「......了解。」
近づくと血の匂いを感じる。
非常に見たくはないが仕方がない......意を決して陰から飛び出す。
シャルが言うように魔物......スラッジリザードが二匹。
何かを食べるのをやめてこちらに向かってくるトカゲ共......スラッジリザードは口の周りを血で汚しその顔を赤黒く染めている。
特に連携するわけでも無くまっすぐ突っ込んでくるスラッジリザード。
中々好戦的だね......。
俺は構えたナイフに魔力を流し刀身を伸ばし、すれ違うように相手の側面へ走りこむ。
目標を失ったスラッジリザードが追いかけるように首を巡らせ俺の方に向きなおろうとする瞬間、首にナイフを叩きこむ。
相手の体が大きく一撃で首を刎ね飛ばせなかったが、首を半分以上断ち切ることが出来た。
そのままスラッジリザードの頭を蹴りつけると千切れた頭が飛んでいく。
残ったもう一匹に目を向けると喉が異常に膨らんでいるのが見えた。
『ケイ様!ガスです!』
シャルの警告と同時に俺は全力で地面を蹴り相手の側面へと飛び込みそのまま相手の後方へ駆け抜ける。
次の瞬間ガスを吐き出したスラッジリザードの方から物凄い臭いが漂ってくる。
こ......これはきつい!
下水を煮詰めているような......むわっとした臭いの塊のようなものを感じる......下水を煮詰めたことないけど......下水道に掃除に行ったときの数倍は酷い臭いだ。
『......ぅぐ......。』
シャルがうめき声を漏らす。
俺でさえこれだけきついのだ、シャルの受けた衝撃はこんなものじゃないだろう......。
「シャル!離れて!」
俺は風上に移動しながらシャルに下がるように言う。
あぁ、今初めて遠距離攻撃が欲しいと思っている。
そういえば前にレギさんからパチンコ......スリングショットを進められたっけ......。
でも俺が普通に強化掛けて引っ張ったら千切れそうだよね......威力も普通の武器としてしか出ないだろうし......投げナイフとか練習してみようかな......。
とにかくスラッジリザードに近寄りたくない俺は何か遠距離で攻撃する方法を考えるが、今の所いい手段は持ち合わせていない......。
石を投げるという手もあるけど......その辺の石で魔物にダメージを与えられるかな......?
逡巡しているとスラッジリザードがこちらに向きなおる。
体内で生成されるガスならそんな連発は出来ないと思うけど......いや、魔力的なよく分からない何かですぐに生成される可能性もあるか......。
でもさっきと同じ回避の仕方は無理だ。
今は風上にいるから感じないがスラッジリザードに近づけば先ほど吐いた悪臭にやられる。
......うーん、今までで一番やりにくい戦闘だ......。
でもこいつにあまり時間をかけるのもよくない......後どのくらい魔物がこの村に入り込んでいるか分からないけどまだ村の半分も確認出来ていないと思う。
山から見た時、結構広い範囲で煙が上がっていた。
その付近に魔物がいるのだとすれば、まだ少なくない数の魔物がいてもおかしくはないだろう。
......悩むより先にとりあえず石をぶつけてみるか......。
落ちていた石を拾いスラッジリザードに向かってサイドスローで投げつける。
右手にナイフを持っているから左手で投げることになったが、俺は右利きだ。
ぎこちないフォームから投げた石は相手の右目に命中。
身体強化の恩恵だね......目に当たった割にあまりダメージは無さそうだが、片目を潰すことには成功したようだ。
もう少し大きな石を全力で投げたらいいダメージになりそうだけど近くには見当たらない......覚悟を決めよう。
息を止めてスラッジリザードの正面に一気に接近......って痛っ!
目に何か突き刺さるような刺激が!
予想外の痛みに驚いたものの予定通り相手の攻撃を誘発することに成功する。
首を伸ばして俺の足にかみつこうとするスラッジリザードの攻撃を相手の右側に回り込むことで回避、相手の目は潰しているから完全に死角になっているだろう。
先程の一匹と同じように首目掛けて斬りつけてから頭を蹴り飛ばす。
スラッジリザードを仕留めることは出来たが思考を加速しているせいか、とにかく目の痛みが耐えがたい。
踏み込んだ時以上の速度で離脱すると目に手を当てる。
こういう時ってこするとまずいのかな?
「っうぅ!いったぃ......。」
『ケイ様!大丈夫ですか!?』
シャルが慌てて近づいてくるのがわかるけど、目が開けられない。
回復魔法を掛けてみるがよくなる感じがしない、異物が目に入っているからか......?
『水を探してきます!少しだけ辛抱ください!』
シャルが遠ざかるのを感じる。
神域の外に出て最大のダメージだ......やっぱり最近ちょっと油断しすぎなのかな......。
あぁ、痛い......。
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