第116話 神殿での戦い



襲撃当日、なんとかヘネイさんを納得させることが出来た俺たちは神殿で相手が来るのを待っていた。

まぁファラの配下達が襲撃犯全員に張り付いているから来るタイミングはばっちり把握しているのだけれど。


「なんというか情報が筒抜けと言うのは恐ろしいのう。」


「そうですね。相手がどこにいるか、どこから忍び込んでくるかまで把握できていますから。集合地点が森の中だったのでギリギリまで手を出せないのが厄介でしたけど。」


「まぁ全てが思い通りになるわけではないからのう。現時点の状況でも贅沢と言うものじゃ。」


近衛とか衛兵の方々に任せてしまいたいところだけど、大捕り物になるのは間違いないしその場合全員を捕まえられるとは限らない。

ヘネイさんの予想では二、三人捕まえられればいい方で、後は逃げられるか抵抗されて殺してしまうかが関の山らしい。

まぁ相手の強さは分からないが、訓練された動きをしているように思う。

そんな相手を一人残らず捕まえると言うのは......いや、それをやろうとしている俺が言うのもなんだけど......。


「突然相手が現れたので色々と実感がわきませんが、彼らを捕まえたら一気に今回の件が解決するといいですね。」


「色々と予想はしておったから突然と言うほどでもなかろう。とは言え、ケイの言うように解決してくれれば嬉しいがのう......そう上手くいくものでもないじゃろうな。」


「まぁそうですよねぇ。」


これですべてが解決するなんて簡単な話ではないだろうね......まぁ、解決への糸口になればいいのだけれど。


『ケイ様、森に侵入者です。数は三。ファラの配下も一緒なので襲撃者で間違いないです。』


シャルが侵入者が来たことを伝えてくれる。

後八人か......ファラが聞いた計画では森の中で全員が集合してから神殿に来るはずだ。


「ナレアさん。来たみたいです。とりあえず三人。」


「ふむ、どうするのじゃ?先にその三人を捕縛するか?」


「いえ、予定通り全員揃って神殿まで来てからにしましょう。相手の動きは分かっていますけど引き込んでからの方が処理しやすいです。」


「了解じゃ。」


『ケイ様、後続が来たようです。後二人で揃います。』


「後二人だそうです。じゃぁそろそろ僕は移動しますね。マナス、ナレアさんの所に。」


俺が指示すると同時にマナスが分裂して片方がナレアさんの肩に飛び乗る。


「マナスよ、よろしく頼むのじゃ。」


肩に乗ったマナスをナレアさんが撫でている。

さて、ここから先は打合せ通りするだけだ。

俺達四人で十一人を捕縛するのだ、それなりに作戦は立ててある。

とは言え、身も蓋もないことを言ってしまえば......シャルにお願いすれば全員一瞬で捕まえてくれると思うけどね。




View of ナレア


さて、ケイが神殿から離れたのを見届けたので中に戻るとするかの。

今回立てた作戦は単純じゃ。

襲撃犯を神殿の中まで引きこんだ後、妾とケイで挟み撃ちにするだけ。

まぁ一応通路の天井にマナスが張り付いていたり、万が一ケイが抜かれて敵が外に逃げた時の為にシャルが後備えしていたりするがその程度じゃ。

しかしケイも不思議なやつじゃな。

ケイの能力であれば多少手練れがいようとも簡単に全員捕らえることが出来ると思うのじゃが......。

万全を期すために相手の退路を断つというのは理解できる。

じゃがその為に神殿に賊を引き込むのは流石の妾もどうかと思ったのじゃ。

色々と人に気を使う癖に妙なところでドライというか......信仰を軽んじておるのかのう?

いや軽んじているというよりは理解できていないと言った方が正しいのじゃろうか?

本人は嘘か誠か分からぬが天狼を母と言っておるしな、それが本当じゃったらケイは神の子と言うことになるのじゃが......そのことをちゃんと理解しておらぬようであったしな。

まぁそのことは良い。

色々と抜けておる癖に臆病とも思えるほど慎重、他人に気を使う割に人の気持ちに大雑把。

物凄い能力を持っているにも拘らず自信がなく、しかし戦闘が始まると能力を十全に生かして大胆。

冒険者と言う割に粗野なところがなく、世間知らずのようでありながら思慮深い所もある。

何とも単純で、実に複雑なやつじゃ。

それとからかうと非常にいい反応をするのもいいのじゃが、反撃を試みてあっさりやり込められるところがまたいいのじゃ。

本当に飽きない奴じゃ。

っと余計なことを考えておったら相手が動き始めたようじゃな、マナスが跳ねておる。


「了解じゃ、マナス。後は天井に上がっておってくれ。」


妾がそういうとマナスが天井へと登っていく。

マナスにシャル、それにファラか。

この三体もとんでもないのう、初めて見た時は驚いたものじゃ。

特にシャルは......ケイには気付かれないようにしておる様じゃが、たまに物凄い殺気を向けてくるからのう......。

ケイ自身が自分で物事に取り組みたいという姿勢でおるから後ろに下がっておるようじゃが、もしケイが全て任せると言ったら一瞬で全てを終わらせそうじゃな......色々な意味で。

まぁケイがいるからこその危険ではあるが、ケイがいれば問題はなかろう......仮にケイが命を落とすようなことがあったとしたら、人は滅ぶかもしれぬがのう。

......さて、客が来たようじゃな。

接待は得意ではないのでな、手早く終わらせるとしよう。




View of ケイ


襲撃犯が神殿の中に入ったのを確認してから、出来るだけ音を立てないように神殿の入り口に向かう。

扉について数秒程待ったところで肩にいたマナスが跳ねる。

今神殿の中でナレアさんが襲撃犯に声をかけたのだ。

同時に俺は扉を勢いよく開き目の前に立っている奴に向けて弱体魔法を掛ける。

突然開いた扉に対して振り返ろうとしたそいつはそのまま力を失くし崩れ落ちる。

まずは一人!

崩れ落ちた襲撃犯の左右にいた仲間が武器を構え俺に向かって来る。

反応が早いね!

でもこちらも魔法を発動させている!

俺の所までたどり着くことなく崩れ落ちる二人......これで三人!

しかし俺の魔法はこれで打ち止め。

俺は今、俺とレギさんとナレアさんに強化魔法を。

リィリさんに治癒力向上を。

更に三人の襲撃者に弱体魔法を掛けている。

七人に同時に魔法を掛けている状態なのでこれ以上増やしてしまうと制御が怪しくなってしまうのだ。

ここから先は物理的に制圧していかないといけないのだけど......。


「ほほ、予想よりいい反応じゃな!」


神殿の奥からナレアさんの声が聞こえる。

襲撃者に阻まれてその姿は見えないがご機嫌なようだ。


「くっ!挟撃ださごぼっ!?」


そして指揮官を目掛けて天井から奇襲を仕掛けるマナス。

更に俺の肩に乗っていたマナスも別の襲撃犯に飛びかかり無力化する。

これで五人。

俺は腰に差してあった愛用のナイフを構える。

魔力は込めない。

神殿内は狭くナイフの状態の方が取り回しがしやすいのだ。

右手側から武器も何も持たずに倒れた仲間を飛び越えて伸し掛かってこようとする奴が一人。

その陰に隠れるように短剣を構えて仕掛けてくる奴が一人。

その手に持っている短剣はなんか妙にてかてかしている。

油でも塗ってるのか......あ、もしかして毒!?

とりあえず伸し掛かってこようとした相手を避けてそのこめかみにナイフの柄を叩きこんで気絶させる。

陰に隠れていた毒短剣が飛び出し、俺に突き立てようとする。

毒は怖いので距離を空けるか弱体魔法を叩きこみたいところだけど、後ろに下がると神殿の外に出てしまうし、弱体魔法は品切れ......でもないか。

倒れている内の一人にかけている弱体魔法を解除して、毒短剣持ちに弱体魔法のターゲットを変更して行動不能にする。

体が動くことに気づき起き上がろうとした奴の顎を蹴り上げて仰向けにした後、鳩尾を踵で踏み抜く。

悶絶した相手が白目を剥いたのを確認してこれで七人。


「なんじゃ......もう終わりか?ケイ張り切り過ぎではないかの?」


ナレアさんの声が聞こえ神殿の奥の方に目を向けると、そこには倒れ伏した四人の襲撃者と怪我一つない様子で立っているナレアさんの姿が見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る