第115話 ふしだらな!



「騎士団には連絡がそれぞれ向かっていますが、まだいくつかの部隊にしか行き渡っていないと思います。既に魔物をとらえているワイアード様の部隊には優先して伝令を向かわせていますが距離的にまだ時間がかかるはずです。」


「まぁ四日程度ではな。仕方なかろう。レギ殿達から何か情報はないかの?」


「レギ殿達からも特には。お知り合いの方から聞いた話も特に目新しいことはなかったとのことです。」


クルストさんからも特に情報は無しか......。


「後は王城、聖域ともに問題は起こっていません。騎士団から送られてくる魔物の情報も今の所変化は無いようです。何もないのは喜ばしいとは思うのですが......気持ち的に消耗してしまいますね。」


「仕方ないのじゃ。人間は緊張状態で長いことはおれぬ。適度に気を抜いて休むようにせねば持たぬぞ。今お主は倒れるわけにはいかぬじゃろ?」


「そうですね......ありがとうございます。休むようにします。」


ここに来てから......いや、恐らくここに来る前からずっと険しい表情をしていただろうヘネイさんの顔が少し緩む。


「お二人はここを守って下さっているのですから私よりもよっぽど疲労していると思います。少し休まれては如何でしょうか?」


「妾達は交代で休んでおるので大丈夫じゃ。息抜きもしておるからな、問題ないのじゃ。」


そう言ってナレアさんが笑みを浮かべながら俺に身体を寄せてくる。


「な、ナレア様!?神殿で一体何を!?」


「ほほ、どうしたのじゃヘネイ?」


ナレアさんが暇つぶしに悪ノリを始めたようだ。

俺はナレアさんから距離を取るように横にずれ......ようとしたがナレアさんが腕を抱き込むようにがっちり掴んで離してくれない。


「ま、まさか......神聖な神殿で......ふ、ふしだらな!?」


顔を真っ赤に下ヘネイさんが両手をばたばたさせながら仰け反る。


「ふしだら?ヘネイは何を言っておるのじゃ?妾は息抜きに魔道具を作っておったのじゃよ?」


「ま、魔道具を使って!?」


「......作っておったのじゃ。」


「お子をですか!?」


ヘネイさんの思考が暴走を始めているな。


「このむっつり娘め。少し落ち着くのじゃ。魔道具を作っておったと言っておるじゃろ。」


「魔道具を作って......っ!?」


理解したらしいヘネイさんは先ほど以上に真っ赤になった顔を両手で隠す。


「ほほ、巫女は存外、助平じゃのう。」


非常に嬉しそうにニヤニヤしているナレアさんと耳まで真っ赤にしてその場に蹲るヘネイさん。

仲が良さそうで何よりだけどもう報告会は終わりでいいのかな?


「違います!私はそういうのはありません!」


「ないってことはないじゃろ?巫女とは言え人間じゃ、好きな相手の一人や二人おらぬのか?」


「いません!」


「なんじゃ......じゃぁあるのは肉欲だけじゃな。」


あんまりな台詞に俺は顔を手で覆う。

なんかもうここにいるのが辛いので外に出ていようかな......?

未だ俺の腕はナレアさんに抱き込まれているけど......振り払うつもりはない。

何がとは言わないけど素敵な感触がするので。

そんなアホな事を考えている俺が出て行くより先にヘネイさんが勢いよく立ち上がる。


「ケイ様、お食事はここに置いておきます!ナレア様の分は忘れたことにするのでケイ様お一人でお食べ下さい!」


そう言ってヘネイさんが持ってきていた包みを置く。


「なんじゃ、ヘネイよ。妾の分持ってこなかったのかの?まぁケイは紳士じゃからな、自分の分を妾に譲ってくれると思うのじゃ。ケイに謝っておくのじゃぞ?」


ニヤニヤしながら告げるナレアさんを物凄い形相で睨んだ後、もう一つ包みを叩きつけるよう......には置かず丁寧に置いたヘネイさんは怒り心頭と言った感じで出口に向かう。


「それでは!また夜に来ます!失礼します!」


そのまま肩を怒らせながら立ち去っていくヘネイさん。

アレだけ怒っていてもちゃんと夜には来てくれるんだな......。

怒りながらも優しいヘネイさんを非常に楽しそうな表情で見送ったナレアさんが包みから食事を取り出す。


「折角二人分あるのじゃ、ゆっくり貰うとしようではないか。」


「あー、ナレアさん。実はファラが来ていまして、何か情報があるのだと思います。食べながらでもいいので話を聞きたいのですけどいいですか?」


「うむ、勿論構わぬぞ。わざわざ来たということは何かしら新しい情報があるということじゃろ?」


「恐らくそうだと思います。ファラ、入ってきていいよ。」


『はい!失礼します。』


ファラが入り口から入ってきて俺たちの前に来る。


「街で何かあったのかな?」


『はい。実は昨日の閉門間際から数名不審な人物が街に入ってきていたので監視をつけておりました。服装は一般人や商人と言った装いなのですが身のこなしがどうも不自然でした。』


そういうのまで見分けているんだ......そんな玄人っぽいこと俺には全く分からないけど......。


『更に今朝、開門から先ほどまでの間に数名似たような雰囲気の者を発見して尾行した所、一度はバラバラの宿を取っていたのですがスラム地区にて集まりました。』


スラムなんてファラ達にとっては一番監視しやすい場所なんだろうなぁ、どこにネズミ君達がいてもおかしくないし。

それにしてもこれだけ綺麗な街でもスラム地区ってあるんだな......。


『会話の内容は襲撃計画の最終確認。狙いはここ、神殿です。決行は明日の夜半。人数は十六ですが、五人は街にて退路の確保。襲撃は指揮官を合わせて十一です。』


「こんな小さい神殿を襲うにはかなりの大人数だね......相手の狙いは分かる?」


『神殿の奥の魔道具、そしてその先の聖域が目的です。』


「聖域が目的......?神殿の魔道具の事もここから聖域に行けることもバレてるのか......。」


思っていたよりも相手の情報が正確だ。

転移の魔道具......いや、アレは魔術式のある現代の魔道具じゃないから普通の人は魔道具であることすら気付けないはず、その効果すら知っている相手......。


「しかし、聖域に行ってどうする?向こうには応龍がいるのじゃぞ?十人程度送り込んだところで応龍をどうこう出来るわけがあるまい。」


『相手の狙いは聖域の調査のようです。聖域内のことまでは把握していないようなので恐らく応龍様に遭遇しないように調査しようとしているのだと。』


「ふむ......そもそも応龍の存在自体眉唾といったところじゃからな。そう言った対応も頷けなくはないが......ここまで事前に調べられている奴らが最後の詰めをそのようなあやふやな予測で進めるじゃろうか?」


「流石に聖域に侵入したことがないので難しいのではないですか?仮に一人二人を送り込んだとしても露見すれば二度目はないかもしれませんし......。」


「それもそうじゃが......何となく投げやりな印象を受けるのう......。」


「引っかかる所がないとは言いませんが......とりあえずどうします?」


腑に落ちてない様子を見せるナレアさんにどう対応するか相談する。


「そうじゃな......相手はもう解散しておるのかの?」


『はい、既に解散してバラバラに動いています。』


「衛兵か近衛に捕えてもらうか?」


「ですが集まっている訳ではないので全員確実にとらえるのは難しそうですね。」


「人数を動員すればなんとかなるじゃろうが......。」


「それだと物々しすぎて気付かれそうですね......。」


恐らくその手の連中はしっかり退路の確保をした上で街の様子に敏感なはずだ、おかしな雰囲気を感じたらすぐに撤退する可能性はある。


「そうじゃな......ファラの方で何とかできないじゃろうか?」


『配下を使えば制圧は出来ますが......生け捕りは難しいです。私が動いて捕獲する場合、同時に制圧するのは不可能なので相手に備えがあれば他の者に逃げられる可能性が高いでしょう。』


流石にネズミ君達じゃ相手を捕らえるのには向いてないだろうな......


「ファラと連携のできるリィリ達に手伝ってもらっても全員は厳しいのう。」


「相手の情報は掴めていますし、襲撃の時に纏めてここで捕らえるのが一番確実かもしれません。街に残る五人はレギさん達に任せましょう。ファラもいけるよね?」


『はい!問題ありません。』


「妾達の方針はそれでいいとして......後はヘネイを説得せねばな。」


「......確かに。」


神殿や魔道具、聖域を囮にして襲撃者を一網打尽にしようとしているのだ。

そう簡単には頷いてくれないだろうな......。

近衛を使って仰々しくここを守るわけにもいかないと思うし......大丈夫かな。


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