第114話 これからどうする?



「魔物の行動がおかしくなっていたのは魔道具の効果で確定ですか......。」


俺達の報告を受けたヘネイさんが呟くように独り言つ。

相手の狙いについても俺達の推察を話しているのでその辺も含めて考えているのだろう。


「魔道具によっておかしくなった魔物を引き付ける何かはきっとあるはずじゃ。ハヌエラの部隊で捕らえた魔物を逃がしてみれば分かるかもしれぬな。」


「そうですね。ナレア様の案を国に提案させてもらいたいと思います。監視と避難をしっかりやる必要があるので、いくつかの部隊にワイアード様の部隊と合流してもらいましょう。」


「相変わらず他人行儀じゃのう。」


「私は既に家を出た身。他人と言っても差し支えないかと。」


「他人のう。家を出たからと言って縁が切れた訳ではあるまい。ハヌエラが泣くぞ。」


「好きなだけ泣けばよろしいかと。」


ヘネイさん......ワイアードさんにキツイな。

兄妹仲悪いのかな......?


「まぁワイアードの事はどうでもいいのじゃ。」


「はい、どうでもいいですね。」


ちょっと悲しくなってきた......。

俺はワイアードさんの味方でいよう......心の中では。


「魔物への対処は一先ず捕らえた魔物を使って調べる、次に魔物を見つけた時に敢えて数匹逃がすとかじゃな。」


「騎馬であれば魔物の進行ルート上の避難誘導は出来ると思いますし。遭遇場所と部隊の規模で判断してそちらの策も取っていきたいですね。」


「魔物に関してはこのくらいじゃな。具体的な解決方法が提示できなくてすまぬが。」


「いえ、依頼して数日でここまでの成果を出して頂けたら十分以上です。ここからは人数を使っての調査や魔物への対処が主となります。もし魔物を引き寄せる何かが魔道具であった場合ナレア様に確認してもらってもいいですか?」


「うむ、その場合は任せてくれ。それと今回の件を引き起こしたやつの思惑じゃが。」


「......狙いを絞るのは難しいですね。まだその影も掴めていません。魔物の動きからして複数犯だと思いますが......集落の外とは言え怪しい人物の一人も見つからないとは。しかも魔物に魔道具を飲み込ませたり体に埋め込んだりと簡単に出来ることではありません。」


「一人二人で出来ることではないじゃろうな......しかしそれが見つからないとなると、相当訓練された集団ということになるのじゃが......。」


「非常に厄介な事態です。王都の守備を増やしたい所ですが......。」


「流石に地方を見捨てるわけにはいかぬからな。魔物が絶対に人を襲わないわけではない。魔物を誘引する何かが見つかれば、それを使い一気に殲滅出来るじゃろうが......それも一日二日出来ることではないしのう。」


「魔物の方は時間をかけて殲滅していくしかないと思います。そしてやはり......。」


「うむ、王都を手薄にするのが狙いとみて間違いなさそうじゃな......色々と考えてみたがヘネイと話していて確信できた。」


ナレアさんとヘネイさんが目を合わせて頷く。

二人の中で納得がいったのだろう。


「はい、近衛がいるとは言え王都全域をカバーできる人数ではありません。私たちが一番頭を悩ませている状況こそ相手の狙いと考えるべきでしょう......勿論、他の選択肢を完全に捨てるわけではありませんが。」


「当然じゃな。しかしその先はどう考える?」


「王都の守備力を削った上で狙うもの......王城、そして聖域ですね。」


「王城は近衛が守りじゃからこの状況でも戦力は減っておらぬな。聖域はどうじゃ?」


「......聖域を守る騎士団は不遜ではありますが、数を減らしています。」


「応龍自身が言ったのじゃろ?」


「......その通りです。」


「それに本当の聖域はあの山にはなかろう。ダミーの守護なぞ必要あるまい。」


「......そういう訳にはいきません。山を守っているのではありません。信仰を守っているのです!」


ちょっとムッとした雰囲気になったヘネイさんがナレアさんに言い返す。


「む、すまぬな。信仰を貶すつもりはなかったのじゃ。」


「いえ、私の方こそすみません......狙いは聖域でしょうか?」


「どうじゃろうな......案外王都のあちこちで騒ぎを起こして近衛を王城より引きはがしにかかるかもしれぬからのう。」


「民に被害が出なければいいのですが......警備を増やそうにも......ふぅ、いけませんね。堂々巡りになっています。」


ヘネイさんが頭を押さえながらため息をつく。

姿の見えない相手に対してかなりストレスが溜まっているみたいだ。


「......神殿が狙われる可能性もありそうじゃな。」


「神殿に関しては巫女が祈りを捧げる場所としか認識されていない筈ですが。」


「一般向けにはそうじゃが、近づくだけで反逆罪並みの処罰が下されるじゃろ。」


「......。」


「秘密があると公言しておるようなものじゃ。」


「それは......。」


確かに、隠す気ゼロな感じが否めないですね。

って言うか反逆罪並みって......もしかして一族郎党......?

......本当にこの前ポロっと漏らした件は配慮が足りなかったな。

絶対に迂闊なことは言わないように気を付けよう。


「狙いとして考えられるのは王城、聖域、神殿。この三カ所じゃな。」


「聖域は騎士団、王城は近衛が守っています。残るは神殿......。」


「神殿は信仰的に守りにくいのう。どうするのじゃ?」


「ナレア様、お力をお借りしてもいいでしょうか?」


「妾は構わぬが、全員で神殿に行ってもいいのかの?」


ナレアさんが首を傾げる。

それを聞いたヘネイさんが少し考えこむ。


「応龍様の許可がないと神殿への立ち入りは......。」


「融通が利かんのう。」


「申し訳ありません。確実に神殿が狙われていると判明しているのならともかく、現時点では......。」


確かに何かあるかもってレベルで入れるような場所ではないよね......。


「ふむ......まだ応龍から連絡はないのじゃろ?」


「はい。呼ぶまでは聖域に来るなと言われていますので。こちらから連絡を取るのは無理です。」


「ケイはどうじゃ?」


「ケイ様は応龍様から自由に聖域への出入りを許可されているので大丈夫です。」


「ならば妾とケイで神殿を見張るとしよう。レギ殿達は街で情報を集めてもらい、何かあればヘネイを通して連絡をとるのじゃ。」


ナレアさんの提案に俺たちは頷く。


「とりあえず、騎士団が魔物の件を終息させるまでを目安でいいかの?」


「はい、魔物の件さえどうにかなれば後は我々で対処が出来ます。ですが元々魔物の件で協力を要請していたわけですから、申し訳ありません......。」


「いや、これはどう考えても一連の流れじゃろ。魔物の件については解決の糸口となりそうな予想をしただけで、まだ正解に辿り着いたわけではないじゃ。そっちの件は騎士団に調べてもらう。ならば妾達は黒幕の思惑を阻止することこそが依頼の完遂となるじゃろう。」


今回クレイドラゴンさんに依頼されたのは魔物の行動がおかしくなった原因の調査だ。

クレイドラゴンさんとしては黒幕の目的が何であれそこまで干渉するつもりはないのだろう。

そして懸念である魔物の異常行動についてはナレアさんが魔道具のせいで間違いないと確定させた。

依頼としては既に完了していると言ってもいい。

依頼主が普通の相手じゃないから、本人に報告すればそこで終わりって言うだろうけど......その先まで関わらせてもらった方が俺達としては心安らかになる。


「皆もそれでいいじゃろうか?」


「あぁ、勿論だ。」


「そうだねぇ、いくらなんでも中途半端だし。」


「はい、応龍様としては人の世界に深く干渉するつもりはないのだと思いますが、間違いなく良からぬことを企んでいるだろう相手がいるのに放っておける程、達観出来ておりませんので。」


ナレアさんにそれぞれが頷く。

今回の依頼はギルドを通して受ける、何をどうしたらいいって言うはっきりしたものがなかった。

これが物語だったら調査をしていくうちに黒幕見つけて、ぶっ飛ばして終わりってなる所だけど......核心に迫るようなイベントも鋭い推理も出来ない以上、予測出来る事態の中で起こって欲しくないことを対処出来るように準備するだけだね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る