第113話 だれがつよいか



何故か二日かけて王都に戻ってくる予定だったはずだったのに、一日で戻ってきてしまった。

グルフはひっくり返ってゼヒゼヒ言っていたけれどシャルは流石の余裕っぷりだ。

もしかしたらナレアさんが疲れていたから休めるように急いでくれたのかな?

夜はお礼も兼ねてしっかりシャルをケアしてあげよう。

日が暮れ始めているので今日はこのまま宿に向かって休むことになっているのだが......。


「ご飯どうしよっか?」


ナレアさんと一緒に前を歩くリィリさんがご飯の相談を始める。


「この前の宿とは別の宿を取る予定じゃが、そこも中々いい料理をだすのじゃ。」


「それは楽しみだなー。」


どうやらもう行く場所は決まっているようだ。

まぁ、あの二人が選んだところならば外れはないだろう。

一人で適当に入った時は......二度と適当な店には入らないと心に決めたね。


「今日はもう無理だろうが、近いうちにクルストに会わねぇとな。」


「約束しましたしね。暫くはこの街にいるみたいですけど......。」


「あいつは龍王国内で仕事をしながら王都まで来たって言っていただろ?俺達とは移動手段も違うから道中色々と情報を集めているはずだ。その辺を聞きたいんだよ。」


「あぁ、なるほど。そういう事ですか。」


今回の件に関する情報収集ってことか......。


「俺達と違って各地で仕事を受けながら時間をかけて移動してきているからな。俺たちが見落としていることがあるかもしれない。」


「確かに......僕たちはかなりの駆け足で王都まで来ていますからね......。」


「あぁ、早く着けたおかげで早めに依頼に取り掛かれたのはいい事だが、龍王国内の空気というか雰囲気は正確に掴めていない。長くても一つの街に二、三日しか滞在していないしな。その点あいつは二ヶ月程度の時間をかけてここまで来ている。直接的な答えは無くても何かしらヒントの様なものがあるかもしれない。」


「なるほど、特にクルストさんは情報に敏感ですし有益な情報を持っているかもしれませんね......明日は多分ヘネイさんの所に報告に行くでしょうけど、夜にでもクルストさんに会えるといいですね。」


「確かリィリが宿を勧めていたな。明日依頼人の所に行く前に一度寄ってみるか。」


「それがいいですね。」


俺とレギさんで明日の予定を立てる。

まぁナレアさん達に急ぎの用事がない限り問題はないだろう。

後は宿に着いたらファラがきてくれるだろう。

もし俺たちが王都にいない間に何か問題が起こっていたら、ファラがその情報を集めてくれているはずだ。

街の様子を見る限り大きな問題は起こっては無さそうだけど......ファラなら表に見えない部分まで調べてくれているはずだ。

もし今回の件の黒幕の狙いが王都なら、王都を守護している騎士団以外殆どの騎士団が出払っている今が望んでいる状況だと思うけど......。




『お帰りなさいませ、ケイ様。』


宿の一階で皆と食事をとった後、部屋に戻ったらファラがいた。

凄いなファラ......部屋に入る直前まで俺がこの部屋を使うって決まってなかったのに。

四人で部屋を取りそれぞれが適当に部屋を選んだのだけどな......。


「ただいま、ファラ。」


肩に掴まっていたシャルが飛び降りて俺の横に移動する。

俺はベッドに腰掛けてファラに聞いてみる。


「ファラはどうして俺がこの部屋に来ることがわかったのかな?」


『リィリ様とナレア様は通路の奥の部屋を好まれます。そしてレギ様は階段の近くを比較的よく利用され、リィリ様はその隣の部屋を使われます。従ってケイ様が使用される部屋はここになると考えました。』


「なるほど......。」


うん、その推理は分からないでもない。

とりあえず四部屋分の用意だけしてもらって食事を優先したから、借りる四部屋が決まったのは食事の後......ついさっきなんだけどな。

ってことはファラは下で俺たちが借りる四部屋の場所を聞いてその上で先回りしたってことだよね......?

下で合流して一緒に来れば......いや、そうか食堂にネズミは不味いよね。

ファラに関しては病気もないし清潔にしているから大丈夫だろうけど、そういう問題じゃないしね。

ファラはその辺気を使ってくれたのだろう。


「じゃぁファラこっちにおいで。」


『はい!失礼します!』


偉く気合の入った返事をしてファラがベッドに登ってきた。

俺はカバンに入れていたチーズを取り出してファラにあげる。


『ありがとうございます!それではこの四日間の情報をお話しさせていただきます!』


「うん、宜しくお願いね。」


『はい!王都では特筆すべきことは起こっておりませんが、龍王国外の商人達が龍王国に来ることを倦厭しているようです。移動中の馬車が襲われたという話はありませんが、魔物の群れによる襲撃が増えているという話が龍王国外にも広がっているようです。また商人ギルドでは輸入に頼っている作物の買占めを警戒しています。』


「流通で問題が出始めているんだね......。」


『はい。まだ一般には影響が出ていませんが、時間の問題です。実際、小麦辺りは既に値段が上がり始めています。それと冒険者ギルドの方ですが、王都を拠点にしていた有力な冒険者のチームが依頼を受けて地方に出向きました。』


俺達が調査に出る時点で依頼の話が出ていたし、早速依頼を受けた冒険者が魔物退治に向かっているみたいだね。

クルストさんは暫く王都にいるって言っていたけど、もしかしたら依頼を受けて出て行ってないかな?

あ、でもクルストさんは一人で活動しているから魔物退治とかは避けるかな?


『後は、聖域にいたクレイドラゴンですが、どうやらまだ聖域に戻っていないようです。』


「聖域の事まで分かるんだ?」


『いえ、これは巫女の動きからの予測です。ケイ様達が聖域に行かれてからまだ立ち入りが許されていないようです。少しそわそわしている様子が見受けられました。』


そうか......ヘネイさんは聖域でクレイドラゴンさん、というか応龍様に仕えるのが仕事だ。

聖域への立ち入りを制限されることが良くあることなのか分からないけれど、ヘネイさんとしては気が気じゃないって所だろう。


「なるほど......多分クレイドラゴンさんは俺の事を応龍様に伝えに行ったのだろうし、ヘネイさんには悪いことをしたなぁ。」


『ケイ様の事を騙そうとしたのですから、あの巫女とか言う者はともかく下級竜は死ぬ気で働くべきでしょう。』


シャルが超辛辣......やっぱりクレイドラゴンさんと初めて会った時、俺の事を話しただけじゃなくて脅しつけていたんじゃ......ん?


「下級竜?それってクレイドラゴンさんの事だよね?下級なの?」


『はい、あの者は眷属としてはかなり下級です。だからこそ応龍様も人の世で生きることを許したのではないかと。』


「なるほど......そうだったんだね。」


かなり迫力満点だったけど......応龍様はともかくとして、神域にはクレイドラゴンさんよりも強そうな竜がいるのか......。


『あの者の強さはグルフ以上マナス以下、恐らくファラと互角といったところでしょうか?』


んん?

今おかしな戦力評価聞いたよう......?


「......ファラは同じくらい強いの?」


『能力的には互角くらいだと思います。ただあの者は長い年月を生きていますから、経験的にまだファラでは勝てないかもしれません。』


あぁ、よかった。

クレイドラゴンさんの方がファラより強いのか......ってそうじゃない。

うちの子達って一体どうなっているの?


「ファラってそんなに強かったの?」


『私は斥候ですので。強さは大したことありません。』


ファラは静かに頭を下げながら言うけど......それクレイドラゴンさんも大したことないって言っているよね?

と言うかレギさんが言うにはグルフで国が脅威を感じるレベルだったよね?

そのグルフがうちの子達の中で一番弱いの?

あ、でもそれはグルフのおじいさんの話だっけ?


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