第112話 背中に



翌朝俺たちはワイアードさんの所へ行きスラッジリザードの体内に魔道具は存在したのか尋ねた。

予想していた通りスラッジリザードの体中に魔道具は存在していなかったらしい。

これでもしスラッジリザードの体内に魔道具が存在していたら、昨日の推察が全てひっくり返る所だったけどその心配はなさそうだ。

俺達はワイアードさんに昨日の推察を伝え、襲われていた村に魔物を引き寄せる何かがあるのではないかという話を伝えておく。

ワイアードさんは部隊から数名を一番近い魔物に襲撃された村へと送り、本隊は魔物を護送しつつ一月程かけて王都へと向かうそうだ。


「予想が当たっていればいいのだがのう。」


「魔物を誘引している何かですか?」


「うむ、それがもし見つかれば後の対処はそう難しくはなかろう。」


「王都に戻って報告したら僕たちもどこか襲撃された村に行ってみますか?」


「そうじゃな、それがいいじゃろう。」


俺はシャルに併走して走る......走ってないな、飛ぶ?

まぁとりあえず、すぐ隣を移動しているナレアさんと王都に向かう道すがらこれからの事を話し合っていた。


「もし誘引する何かが見つかったとして、それがその土地に根付くものじゃなく誰かが持ち込んだ物の場合。相手の狙いが分かるかもしれませんね。」


「......ふむ。じゃが、それなら魔道具を埋め込まれている魔物の分布からある程度狙いは分かりそうじゃがな。」


「......それもそうですね。」


恐らくあのおかしくなっている魔物は一直線に目標に向かって進んでいるはずだ。

であれば騎士団が遭遇した場所の近くにある集落を目指している可能性は高い。

積極的に人を狙うわけじゃない魔物に集落を狙わせるのは注目を集める為ってところだろうか?

集落に辿り着かず途中で退治されても、そういう魔物の集団がいると噂が広がれば問題なし......。


「やっぱり、王都から騎士団を引き離したいんじゃないですかね?」


「......ふむ、本当の狙いは王都にあるということじゃな。じゃが確かに騎士の数は減るが街を守る衛兵や王城守護の近衛なんかはしっかり残っておるぞ?」


「なるほど......王都が手薄になるってことはないんですね。」


「そうじゃな。まぁ注意はしておいた方がいいじゃろうがな。」


そう言ってナレアさんはフロートボードの上で背伸びをする。


「お疲れですか?」


「ん?あぁすまぬな。少しだけな。」


ナレアさんは魔道具を調べたり情報を纏めたりとしてくれている上、一人だけ魔力を消費して移動するフロートボードを使っているからな......疲労が溜まっていてもおかしくない。


「シャル。ナレアさんの事も背中に乗せてもらえないかな?シャル達も疲れていると思うんだけど......大丈夫かな?」


『......畏まりました。私は大丈夫です。』


「ありがとう、シャル。ナレアさん、お疲れの様なので僕の後ろに。シャルに乗ってください。」


「......良いのか?」


ナレアさんは俺にではなくシャルに向かって問いかけている。

シャルもナレアさんの方を見て、恐らく何かを伝えているのだろう。


「......そうか。すまぬな。世話になる。」


そう言ってシャルとナレアさんはスピードを緩めていく。

後ろを走っていたグルフも同じように止まる。


「どうした?何か問題か?」


グルフから降りたレギさん達がこちらに近づきながら声をかけてくる。


「いえ、ナレアさんが少しお疲れの様なのでシャルに乗ってもらおうと思いまして。」


「いいの?」


何故かリィリさんが先ほどのナレアさんと同じようにシャルに問いかけている。

レギさんも心なしか目を丸くしている気がする。

そんなに驚くようなことかな......?

俺がそんなことを考えていることを瞬時に察したのかリィリさんが声をかけてくる。


「ケイ君はダメだね!物凄くダメだね!レギにぃのダメな部分ばっかり見習って!」


レギさんのダメな部分......?

そう言われたところでうっかり視線が上の方に上がってしまった。


「おい、ダメな部分って言われて今どこ見やがった。」


壮絶な笑みを浮かべたレギさんが迫ってくる。

まぁ、休憩するにはいいタイミングだったかな?

薄れていく意識の中、がっちりと頭を掴まれて宙づりにされた俺はそんなことを考えていた。




「素晴らしい速さじゃな。この速度をフロートボードで出していたら長時間は移動出来ずに魔力が無くなるであろうな。」


シャルの背中に乗ったナレアさんが楽しそうに話しかけてくる。

今ナレアさんは俺の後ろでシャルに跨っている。

俺の腰に手を回しているがあまり安定感が良くないのでしがみ付くような感じになっている。

ナレアさんは小柄だが......背中に何かが当たって......ないな。

しがみ付くような体制なので、背中に当たっているのはナレアさんの頬だな。

顎的な硬さが感じられる。

別に残念とは思っていない。


「ほほ、もう少し密着したほうが良かったかの?」


「......楽な体勢が一番ですよ。」


何故だろう?

顔すら見えていないのになんか考えていることを読まれたような......。


「ふむ......ではもう少し体を寄せさせてもらうか。」


ナレアさんが俺の背中に張り付くように体を動かした。


「......えーっと、ナレアさん?」


「いや、すまぬ。思っていたより疲労しておって、このままだと眠ってしまいそうでな。少し背中を貸してもらいたいのじゃ。」


そう言ったナレアさんは確かにいつもよりも声に力がなく、俺が思っていたよりも疲れていたことが分かる。


「分かりました。腕を支えておきますので眠ってもらっても大丈夫ですよ。」


「ほほ、眠っている間に悪戯する気じゃな......?」


非常に眠そうな声だがやはりナレアさんはナレアさんのようだ。


「その予定はないので不安定な体勢ですけど休んで下さい。」


「なんじゃ......つまらんのう。」


いつも通りのナレアさんのようだが今にも寝てしまいそうだな。

思えばナレアさんと合流してから王都につくまであまり休んでいないし、王都についてからも連日動き回ってそのまま今に至る。

特にナレアさんは移動にフロートボードを使って魔力を常に消費している。

前にレギさんから聞いたことがあったが、魔力が切れると物凄い倦怠感を覚えるらしい。

幸いナレアさんは魔力が多いらしく魔力が切れたことはないようだが、消費量は俺達の誰よりも多いはずだ。

もう少し休みを取るべきだったのだろうか?


「......気にする必要はない。あまり悠長にしてはいられぬ状況だしのう......こうやって休ませてもらえるだけで十分なのじゃ。」


ナレアさんが力を抜いてもたれかかってくる。

俺は左手でナレアさんが回してきた手を掴みつつ右手でシャルに掴まる。


「早い所片づけてゆっくりしたいですね。全力でお手伝いします。」


「......そこで自分がすぐに解決してみせると言わない辺りがケイらしいのじゃ。」


「あはは、格好つきませんね。」


「......もう少し主張をしても......いや......悪くない感じじゃな......安心できる......背中を任せるのじゃ。」


「分かりました......まぁ、今は前にいるので背中を守れませんけどね。」


「......一言多いのじゃ。」


ナレアさんが回した手に力を入れて締め付けてくる。

とは言え眠いからかあまり力は強くない。

なんとなく後ろから抱きしめられている様な......そんな気がしてくるな。

いや、余計な事を考えるのはやめておこう。

何故か心を読まれるし。

少しするとナレアさんの寝息が聞こえてくる。




View of リィリ


「いやー、ナレアちゃん役得だね。」


「ん?どういうことだ?」


「レギにぃには分からない話だったね......。」


この禿にそういう機微は絶対に分からない。

何せ小さい頃からずっと一緒にいたヘイルにぃ達の事すら気付けなかったのだ。

鈍感とか朴念仁とかそういうレベルではない。

多分何かそういう呪いにかかっているに違いない、髪がないのもそのせいだと思う。


「なんか速度が上がっていっていないか?」


「ん?」


レギにぃが前を見ながらそんなことを言う。

私がレギにぃの後頭部から前を走る三人......マナスちゃんもいるから四人か......に目を向ける。

確かにじわじわ距離が開いて行っているようだ。

あー、シャルちゃんこれは随分ご機嫌斜めだね......仕方ないかもしれないけど......。


「グルフちゃん。ごめんね、多分シャルちゃんこれから速さをどんどん上げていくと思うんだ。きついかも知れないけど頑張ってついて行ってくれるかな?」


グルフちゃんの柔らかい毛並みを撫でながらある意味死刑宣告のようなセリフを告げる。

撫でる掌から力が伝わってきて速度があがる。

本当は明日王都に着く予定だったけど......これは今日中に着いちゃう可能性があるなぁ。

ごめんね、グルフちゃん。

シャルちゃんに付き合ってあげて。


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