第152話 拘束魔法(物理)



上から観察したことを伝えるために下に降りると、ナレアさんが床に手をついて何やら集中していた。

レギさん達は相変わらず相手の猛攻に晒されているが慣れて来たのか表情に余裕を感じられる。

だがそれはあくまで相手の攻撃を避けられるってだけでこちらから攻撃出来るという意味では無い。

レギさんは最初の頃相手の攻撃を受け止めようとしたり軌道を逸らそうとしていたが、今は普通に避けている。

流石に質量が違いすぎるしな......ちょっと吹き飛ばされたりするだけで済むレギさんがおかしいのだ。

この場合おかしいのは強化魔法のほうだろうか......いくらレギさんでも生身の状態では受けようなんて思わないよね?

そんなどうでもいい事を考えながら死闘を繰り広げているレギさん達を見ているとナレアさんが顔を上げた。


「上の方はどうじゃった?」


「継ぎ目はありましたが、上にいたゴーレムみたいに装甲を貼っているというよりも体の構造上そうなっているって感じでした。剥がすのはちょっと面倒かもしれません。」


「なるほど......。」


「ナレアさんは何をされていたのですか?」


「うむ。この階の下にも何かあるか調べていたのじゃ。」


「そんなことが分かるのですか?」


「うむ。というかケイも出来ると思うのじゃ。応龍の魔法を使って調べたからのう。」


「なるほど......。」


「幸いここが最下層......少なくともこの下には次の階層がないようじゃな。これで作戦は遂行できそうじゃ。」


「落とし穴ですか?」


「流石にこの巨体を落として行動不能にするような落とし穴を作ったら遺跡自体が崩れそうじゃな。」


......確かに。

遺跡の強度がどのくらいか分からないけれど、全長十メートル近いゴーレムを落とすような穴だ。

広さも深さも相当な物を用意しないとダメだろう。

それだけの大穴を何の計算もなく突然開けて遺跡が崩れないとは言い切れない。

というか、そんな賭けをする方がおかしいって話だね。


「この巨大な空間にいるとここが遺跡の中地下深くってことを忘れそうでした。でもだとしたらどうするのですか?」


「うむ。まぁ見てのお楽しみと言った所じゃな......レギ殿!リィリ!合図をしたら一気にこっちに下がってくれ!」


「「了解!」」


レギさん達に声をかけたナレアさんが再び床に手をつく。

この体勢ってことはやっぱり地面操作系だと思うけど......どうするのかな?

暫く目を瞑り集中していたナレアさんだったが徐に声を上げる。


「二人とも下がるのじゃ!」


ナレアさんの合図を聞いたレギさん達が一気にこちらに向かって跳ぶ。

逃げる二人を追撃しようと巨大ゴーレムが追いすがろうとするが、それよりも早くナレアさんの魔法が発動した。

ゴーレムの足元の床がうねったかと思うと、右足側の床が一気に盛り上がりバランスを崩したゴーレムが仰向けにひっくり返る。

轟音を立ててひっくり返ったゴーレムは起き上がろうともがくように足を動かすが、ナレアさんの魔法はそこで終わらない。

盛り上がった床がゴーレムの足を拘束するように覆いかぶさり固定する。

ゴーレムを固定する床は相当な強度がある様でゴーレムの力でも抜け出すことが出来ないようだ。


「......うまくいったのじゃ。ケイ、拘束している床の強度は魔法で上げておるのじゃが交代してもらって良いかのう?妾はゴーレムを調べてくるのじゃ。」


「分かりました。しっかり拘束しておくのでお願いします......気を付けてください。」


「うむ、よろしく頼むのじゃ。レギ殿、リィリ。怪我はないかの?」


「おう、問題ないぜ。」


「私も大丈夫だよ。」


「では、すまぬがもう一働き頼むのじゃ。今からアレを調べに行くので一緒に頼む。」


下がってきた二人に声をかけてゴーレムに近づいて行くナレアさん。

皆の安全の為にも気は抜けないな......。




View of ナレア


リィリ達と共にゴーレムの上に降り立つ。


「......宙に浮くって言うのは変な感覚だな。」


「そうだねぇ。自分で自由にならないって言うのもちょっと......。」


「ほほ、お気に召さなかったようじゃな。」


「いや、すまねぇ。楽させてもらっておいて言う事じゃなかったな。」


「ごめんねナレアちゃん。運んでくれてありがとう!」


義理堅い二人じゃな。

謝罪とお礼を受けながら妾は思う。

特にレギ殿は見た目の割に気配りや所作が繊細じゃ。

街で仕事をする関係上、礼儀作法をしっかり学んだと聞いてはおったが気品さえ感じる所作なのじゃ。

っとそれはよい。


「うむ。まぁ奇妙な感覚じゃとは思うが慣れておいた方がよいのう。きっとこれから飛ぶ機会は多くなると思うのじゃ。」


「......うっかり落としたりしないでくれよ?」


「善処するのじゃ。さて、足はケイが抑えてくれてはいるが手は流石に全て封じようとすると本体を埋めるしかないくらい多かったからのう。ひっくり返してもそれなりにある様じゃな。」


妾の言葉に答えるように魔力弾が妾達に向かって放たれる。

飛んできた魔力弾はレギ殿によって防がれたが続けざまに魔力弾が飛んで来る。

これは......予想しておったよりも数が多いのう。


「どうするナレア?調査をするには少し相手の攻撃が激しいぞ。」


妾を守るようにリィリと二人で魔力弾を防ぎながらレギ殿が問うてくる。

二人とも難なく......というか軽々とやっておるが、その魔力弾かなりの威力じゃからな?


「うむ......予想以上にゴーレムの手が残っていたようじゃ。レギ殿魔力弾を撃ってくる腕を破壊出来ぬか?」


「相手がそれ一つだけなら何とかなるが、数が多過ぎて壊している間に他の腕に集中攻撃されるとまずいな。」


流石にいくらレギ殿とは言え攻撃と防御を同時には出来ぬからのう......。


「妾とリィリでレギ殿を守っている間に、一つずつ腕を潰してもらっていくしかないかのう。」


「了解。まぁ、さっきまでと違ってでけぇ腕は無いし、時間はかかるがなんとかなるだろう。」


妾達が方針を決めて動き出そうとした時、ゴーレムの腕を抑えていた岩が動き出す。


「む?抑えきれなくなったのかの?」


今もケイが腕を押さえつけてくれているはずじゃが、ゴーレムの力の方が上じゃったか?

しかし、そうなるとこの場にいるのは不味いか......。


「レギ殿、リィリ。ゴーレムが動き出すかもしれぬ。一度この場を離れるのじゃ。」


妾がそう言うと、肩に乗っていたマナスが飛び降りプルプルと震えている。

これは......否定......拒否かの?


「む?何じゃマナス?ゴーレムが動き出すとこの場は危険じゃぞ?」


妾がそう言ってもマナスはプルプル震えている。

むう......何が言いたいのじゃ?

ケイ達がおらぬと言いたいことがはっきりとは分からぬのじゃ。

妾が困惑しておるとマナスの体の一部が伸びて押さえつけられているゴーレムの足の方を指す。

其方に目を向けるとケイによって固められている土からいくつもの針のようなものが伸びていくのが見える。

いや、距離が遠いから細く見えるがこの距離でも見えるということはそれなりの大きさだろう。

それらが伸びて、こちらに向かって魔力弾を撃ってきているゴーレムの腕へと絡みついていく。

これはケイがやってくれておるのか!

マナスがまた別の方向を指すように体を変化させる。

その先には柱にしがみ付いた大きな狼の姿と、その背に掴まりながらこちらを見ているケイの姿があった。


「これってケイ君がやっているんだよね?」


「そのようじゃ。」


流石に空を飛びながらと言うわけにはいかなかったようじゃが......頼りになるやつじゃ。

何故あれだけ色々出来る癖に臆病ともいえる程に慎重に、しかも多少自信なさげに行動するのか疑問じゃが、まぁ悪い事ではない。

寧ろ無茶をしないという意味でこちらも安心して色々任せられる。

礼を込めてケイに手を振っておくが、流石に余裕がない様でケイから返しはなかった。


「やっぱりケイ君は頼りになるねぇ。」


「そうじゃな。恐らく見えない位置に妾達が行くのが心配だったのじゃろうな。」


「愛されてるねぇ。」


「うむ。と言いたい所じゃが、妾だけと言うわけではあるまい。」


「......まぁ、ケイ君だしねぇ。」


ケイのいい所だとは思うが、多少残念に思わないでもない。


「今はとりあえずいいのじゃ。それより、ケイのお蔭で楽が出来そうじゃ。漏らしがないとも言えぬからレギ殿とリィリは警戒を頼む、妾は調査を開始するのじゃ。もし何か気付いたことがあったら教えてくれ。」


やっとこの巨大ゴーレムの調査を開始出来そうじゃな!


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