第151話 勿論覚えていましたとも



「くっそ!」


吹き飛ばされたレギさんが悪態をつく。


「レギにぃ!」


「大丈夫だ!」


「レギさん!この前と同じくらい強化魔法を強くします!」


「頼む!」


俺はレギさんに強化魔法を掛けながら相手の姿を見る。

俺達と対峙しているのは相変わらずゴーレムではあるのだが、今までのゴーレムとは全く違うタイプだ。

その全長は十メートル近くあるのではないだろうか?

四足歩行と言うか四つん這いと言った感じの姿ではあるが腕がいくつもついていてどの方向から仕掛けても対応されてしまう。

さらにその巨体に似合ったパワーで重装タイプのゴーレムの攻撃を難なく受け止めていたレギさんが先ほど吹き飛ばされてしまった。


「流石に厳重に閉まっていた扉の先におったゴーレムじゃな。今までのゴーレムとは桁違いの強さじゃ!」


そう、シャルが破壊した扉の奥にあった扉を開くとそこには階段があった。

今までに降りてきた階段に比べて随分と長かった階段の先には巨大な空間が広がっており、そこにいたのがこのゴーレムである。

俺達が部屋に入ったことで動き出したゴーレムは巨大な魔力弾を放ってきた。

突然の攻撃だったが、警戒していた俺たちは難なく躱すことが出来たのだが......俺たちの後ろにあった扉や階段は避けてくれるはずもなく、見事に吹き飛んでしまった。

お蔭で退路を断たれた俺たちは絶賛巨大ゴーレムと戦闘中と言う訳である。


「これが警備のゴーレムなのか、ここの研究成果なのか気になる所ですけどね......!」


今いるこの場所は雰囲気的にこのゴーレムを組み立てて実験する場所って感じがしているけど......警備だとしたらこいつがまだ数体いてもおかしくないくらいの広さがある。

学校の体育館が五、六個入りそうなくらいこの場所は広い。


「くっそ!受け流すにしても、武器があまり持ちそうにねぇな!」


レギさんは正面に立って相手の攻撃を引き付けようとしているが......このゴーレム、手数というか......手の数が多すぎて正面とかほとんど関係ないだろう。


「私ゴーレムって嫌いだな!こっちの攻撃全然意味がないよ!」


リィリさんや俺の武器ではゴーレム相手に有効打にならず、上の階でも相手の攻撃を逸らす時くらいしか使っていない。

この巨大ゴーレム相手ではそれすらも出来ないだろう......というか避けた方が早い。

幸い巨体故か相手の攻撃も手の数の割に大雑把なので避ける分には問題ない。

レギさんも受け止めようとせずに避けていいと思うのだけど......。


「上にいたゴーレムみたいな弱点はねぇのか!?」


「今の所それらしいものは見当たりません!」


「こっちも見当たらないよ!」


この巨大ゴーレムの表面はつるっとしていて他のゴーレムにあった装甲が剥がれそうな部分は見当たらないのだ。

弱点はうまく隠しているってことだろうね......。

もういっその事、強化魔法を全力で掛けて全部の手足をもぎ取ってしまおうか?

そんな短絡的な考えが頭を過ぎった時、後方にいたナレアさんの呟きが聞こえてくる。


「このような巨大なゴーレムが普通に運用されていたのなら、この遺跡以外にもいくらか記録や実物が残っていてもおかしくはないのじゃ......だがついぞ聞いたことはない......戦線には投入されなかったという事かの......?」


ナレアさん!

今はその辺の考察をしている場合ではないと思いますが!?


「ナレアさん!何か対策とか思いつきませんか!?」


俺はゴーレムから放たれた魔力弾を捌きながらナレアさんに問いかける。


「うむ!ぱっと見た感じ弱点が見当たらんのじゃ!じゃが、これだけの完成度のゴーレムがここに眠っていたのはおかしいのじゃ!これだけの代物、戦争に引っ張り出さぬ道理はない!恐らく何かしらの欠点や弱点があるはずじゃ!」


あぁ、さっきの考察はそういう意味ですか......。

そんなことしている場合じゃないとか思ってすみません......。


「なら、どっかに弱点があるってことだな!」


「恐らくそのはずじゃ!」


「弱点が剥きだしって感じはないですね......継戦能力が低いとかですかね?燃費が悪いとか!」


「これだけの巨体を動かす魔力は莫大じゃろうし、その可能性はあるのじゃ!」


俺達が推察を話しながら戦闘を続けているとリィリさんがぼそりと呟く。


「......制御が出来ないから放置されていたりして。」


「......なんじゃと?」


何かリィリさんが恐ろしい事を言い出したぞ......?

そのリィリさんはゴーレムの攻撃を避けると後ろに大きく跳び安全地帯に下がる。


「ほら、私たちがこの場所に降りてきた時にさ。いきなり攻撃してきたよね?まぁそういう風な役目かもしれないけどさ。でも施設を吹き飛ばす......出入口を潰しちゃうような攻撃をさせるかな?それにもう一つ、この場所ってナレアちゃんが言ってたけど登録した人しか入れないよね?それなのに問答無用で攻撃してくるかな?」


「「......。」」


幸い、海よりも深い静寂が訪れることはない。

レギさんが相手の腕に打ち付ける攻撃の音や、ゴーレムの繰り出す攻撃による轟音が良い具合に賑やかさを醸し出している。

当然俺達も足を止めることはない。


「ま、まぁ制御が出来なくても僕達には関係ないですよ。そもそも制御する術がありませんから!いつも通り弱点をを狙う事には変わりないですよ!」


「......いや、ケイよ。もしリィリの推察が当たっているとしたら、制御出来なくなった兵器を普通は放置せんじゃろ?作った奴なら当然知っておるはずじゃ、止め方や......弱点をな。」


「......。」


止め方は......まぁ暴走していたら知っていても止められなかった可能性はあるけど......弱点を狙って動きは止めようとする......かな?


「もしかしたら、これを作った人たちは責任感が無い上に大雑把で。放置して施設ごとドア閉めとけばいいよね?みたいな感じかも......?」


「戦時中に......世界規模の戦乱中にそんな余裕のある国があるわけないじゃろ......現にこの辺りにあった国は滅んでおる。じゃからこそクレイドラゴンが難民を助け龍王国が出来るきっかけになったのじゃからな。」


俺の目の前をゴーレムの剛腕が通り過ぎる。


「じゃ......弱点のない兵器なんかありませんよ!」


「兵器じゃからこそ弱点を無くそうとするものじゃろ!」


さっきと言っていることが真逆に!?

いや無くそうとするのは分かりますけどね!?


「人が作る物に完璧は存在しません!」


「古代人は成し遂げたかもしれぬではないか!」


「完璧を成し得ることが出来るのであれば、国が亡ぶようなことはありません!大戦以前から続く国が現存していない以上、古代人であっても僕らと同じで完璧は無理です!」


俺はゴーレムの攻撃を避けながら叫ぶ。


「うん、完璧はあり得ないよ。私の推察が当たっているならこのゴーレムは暴走しているってことだしね。その時点で完璧じゃないよね!」


「むむむ。」


ナレアさんが唸っている。

確かに古代人は高い技術力を持っていたのだろうし、魔術師としてナレアさんは畏敬の念を抱いているのだろうからこういう言い方は良くないのかもしれない。

でも古代人でもどうすることも出来なかった兵器だと思考停止するのは不味い。

ナレアさんはこの場における俺たちのブレーンだ。


「必ず弱点があるって最初に言ったのはナレアさんですよ!?」


「ふぅ......いや、すまぬな。弱気になった訳ではないのじゃ......売り言葉に買い言葉と言うか......冷静さを欠いていたようじゃな。真面目にやるとするのじゃ!」


ナレアさんがいつもの調子に戻ったようだ。

まぁもともと絶望したり諦めたりしていたわけじゃないけど、やる気が出たのは良かった。


「......弱点があるとすればここから見えない場所、ゴーレムの上部か下部辺りが怪しいのう。妾なら......狙いにくい下部か?」


攻撃の届かない位置からゴーレムの観察をしているナレアさんが言う。


「潜り込めば体の下は確認出来るかもしれませんが......。」


「もし押しつぶして来たりしたら確実に死ねるな!」


「上の方もよじ登ったりする隙は無いと思うよ?」


大小様々な腕がゴーレムにはついているのでよじ登ろうとすれば多方向から集中攻撃を受けてしまうだろう。

方針に目途は立ったものの、いい手段が思いつかない......。

強化で一気にジャンプして相手の背中に飛び乗るか?

......いや、相手は射撃も出来る。

空中で身動きが取れないこちらとしてはいい的になるだけだろう。

それを肯定するかのように俺に向かって魔力弾が降り注ぐ。

弾速がそこまで早くないので躱すことは問題ないけど......はて?

何か引っかかる様な気が......。


「大丈夫か!?ケイ!」


続け様に複数の腕が俺に襲い掛かってくる。

なんか急に俺へのヘイトが上がったような......!?

相手の左右や上方から攻撃や魔力弾が続けざまに放たれる!

ちょっと激しすぎやしませんかね?

俺は後ろには下がらずその場で攻撃を避け続ける。


「大丈夫です!」


とは答えた物の......現状打破する為に何かいい手は......。


「ケイ!上を任せるのじゃ!妾は下を何とかしてみるのじゃ!」


相手の攻撃を避けながら考え事をしていると遠くからナレアさんの声が飛んで来る。


「任せると言われても......どうしましょう!?」


「相手の魔力弾はそこまで早くない!避けられるじゃろ!?」


「避けられますけど!それでどうやって相手の上を確認すれば!」


いくら避けられると言ってもそれは自由に動けるからだ、流石によじ登っている最中に四方八方からの攻撃を避けられるとは思えない。


「何を寝ぼけておるのじゃ!飛べるじゃろうが!応龍の魔法はどうした!?」


......確かに!

さっき引っかかったのはこれか!

完全に応龍様の加護の事を忘れていた!


「も、勿論覚えていましたよ!?いや、攻撃が激しくて魔法の発動に集中できないって意味です!」


と言うことにしておこう。

実際今俺は猛攻に晒されているしね?

いや......余裕はそれなりにあるけど流石に慣れていない応龍様の魔法は発動させるのは難しい気がします。

えぇ、間違いありません。


「......後ろに下がるのじゃ、ケイ。レギ殿!リィリ!暫く二人でゴーレムを引き付けてくれるかの!?」


「任せろ!」


「了解だよ!」


俺の横にリィリさんが走りこんで来たので俺は入れ替わるように後ろに飛ぶ。

俺の代わりにリィリさんが猛攻に晒されるが、攻撃を舞うように躱していく。

正直俺よりも安心して見ていられる動きだと思う。


「一気に上に上がって確認します!」


俺は魔法を掛けて一気に飛び上がる。

何発か魔力弾が飛んくるも何とか躱すことが出来たのだが......かなり危なかった、ふわふわと浮くような感じで飛んだことは何度かあったが今回は急上昇と言った感じで飛び上がったのだ。

魔力弾を避けようとしてバランスは崩すし更にスピードを緩めそこなって天井には激突するしと散々なフライトだった。

もっと練習が必要だな......今度ナレアさんと空中戦でもやってみるかな?

っとそれはいい、相手の頭上......頭は無いが......を取ったのだ。

しっかり調べるとしよう......視覚強化を掛けて十メートル程下で暴れているゴーレムの背中をじっくりと観察する。

ぱっと見た感じ、相手の背中はつるっとしていて継ぎ目の様なものは見えない。

しかしいくら何でもこんな巨大なゴーレムの装甲を継ぎ目なしで作れるとは思えない......。

そう思い目を凝らしてみてみると案の定いくつか継ぎ目の様なものが見えたけど......指を突っ込んで剥がすというのは難しいかな......?

ってかこのゴーレムは一体何で出来ているのだろうね?


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