第339話 就職面接
「うーん、お互いの利益になると思ったからだけど......そんなに難しい理由はないかな?アースさんの事は信用できると思ったからカザン君に紹介したし......カザン君は友人として力になってあげたかっただけだし......まぁどちらに対しても紹介した手前責任はとらないといけないよね?それだけなんだけど......。」
カザン君の疑問に......理由というか当然のことを改めて告げる。
『......。』
「「......。」」
何故か魔道具の向こうのカザン君だけではなくレギさん達も何も言わない。
アースさんを含め俺の事をじっと見つめてくるので非常に居心地が悪い。
「まぁ、ケイ君って感じだよね。」
「あぁ、ケイって感じだ。」
「カザン、聞いたじゃろ?こういう奴じゃ。難しく考える必要は無いのじゃ。」
『......いや。本当に......利益だ損失だと考えている自分が恥ずかしくなりました。純粋というかお人好しというか......少なくとも僕はケイさんの信頼だけは絶対に裏切れないですね。』
「そんな大げさな......。」
なんか妙にカザン君から重い言葉が出てくる。
後リィリさん達の言う俺っぽいってどういう意味だろうか?
そんな変な事を言っただろうか?
「いえ、大げさではありませんよお父さん。私も同じ思いを抱きましたゆえ。まぁ、私は裏切ったら物理的に消滅しますしな!はっはっは、いや、はっはっは。」
『......お父さん?』
アースさんの余計な一言を聞き取ったカザン君がぽつりと呟く。
「それは気にしない方が良いと思う。」
『......そうですか、ところで今喋られたのがケルトン殿、でしょうか?』
「うん、そうだよ。スケルトンのアース=ケルトンさん。アースさん、今話しているのがグラニダの御領主。カザン=グラニダ......えっと......。」
俺がカザン君の名前を言えないでいると隣に座っているレギさん、その反対側に座っていたナレアさんに拳骨を落とされる。
いや、確かに名前を憶えていないのは失礼だと思いますけど......。
「ただいま紹介に預かりました、アース=ケルトンと申します。御領主様に置かれましては、わざわざお時間を取らせてしまい大変恐縮ではありますが、よろしくお願いいたします。」
『......私はグラニダ領主、カザン=グラニダ=ギダラル。そちらにいるケイ殿達とは友人として付き合わせてもらっているが......まぁ名前も覚えてもらっていない程度の存在だ。公の場でもない限りそこまで畏まる必要は無い。』
「......。」
いや、ほんとごめんなさい......滅多に聞かない家名とはいえ忘れるなんて......いや、待てよ?
この流れというか、後でレギさん達のフルネームを聞かれた際に俺は答えられるか......?
今更名前教えてくださいとか......言えないよね!?
いや......なんとなくは覚えている......なんとなく。
俺がみんなの名前を思い出そうと記憶を色々と混ぜ返していると、ナレアさんが話を始める。
「ケイが顔を青くして固まっておるので妾が代わるのじゃ。とは言え、妾達から紹介出来ることはこのくらいじゃ。魔道具越しという事で危険もない。良ければ二人で話してみてはどうじゃ?妾達は席を外すから必要であれば呼べばよいのじゃ。」
『分かりました。ありがとうございます、ナレアさん。後、ケイさん。先ほどの事は冗談ですので気にしないでくださいね?』
「あぁ、うん。ごめんね?」
『いえ、こちらこそすみません。それではケルトン殿と話をさせてもらおうと思います。よろしくお願いする、ケルトン殿。』
「こちらこそ、よろしくお願いします。御領主殿。」
カザン君とアースさんの面談が始まったので俺達は一度部屋を出る。
と言っても隣の部屋に移動するだけだけど。
まぁ、あの二人であればそうそう拗れることは無いと思う。
俺は皆の後に続いて扉をくぐると後ろ手にドアを閉める。
洞窟を利用した家だけあって防音性はばっちりのようで、二人の話声はこちらの部屋まで聞こえてこない。
通風孔は見当たらないけど......空気は大丈夫なのだろうか?
アースさんは呼吸しなくても良さそうだし、その辺り考えて無くって窒息したらどうしよう?
「どうしたのじゃ?ケイ。」
「あぁ、いえ。通風孔が無いけど大丈夫かなと......あ、それよりもナレアさん先程はありがとうございました。」
「うむ。気にしなくても良いのじゃ。妾は二人で話すように言っただけじゃからな。」
そう言ってナレアさんが肩をすくめる。
ナレアさんにしては珍しい仕草な気がした。
「まぁあの二人だったら包み隠さずお互いの話をするだろうし、さっきケイが話した懸念点なんかも話し合うだろうよ。」
「その辺を二人に任せてしまって良かったのでしょうか?」
俺が問いかけるとレギさん達が苦笑する。
「あぁ。というか、俺達が首を突っ込むことじゃない。」
「えっと......それでいいのですか?」
「二人がお互いの事を信用できないというのであればこの話は流れるが......その辺について妾達が間を取り持っても仕方ないからのう。それにお互いの事を知るための話し合いじゃ。妾達がいない方が話はしやすいじゃろうしな。」
「......なるほど。」
確かに、雇用するかどうかの面接に部外者がいるのはおかしいよね。
それにナレアさんは部屋を出てくる時に必要だったら呼ぶように言っていた。
もしアースさんをグラニダに招くにあたって、俺達の力が必要ななのであれば声を掛けてくれるはずだ。
「それに、お互いの安全というか......どういう風にするのが一番お互いの希望に沿うのかを話しているからな。お互いが納得する為にも俺達が口は挟まない方が良いだろ?まぁ、ケイは何かあれば責任を取ると言った以上、二人がどうするのかを後で確認しておいた方がいいとは思うがな?」
「そうですね......わかりました。」
ナレアさんとレギさんの話を自分なりに纏めて頭の中で整理する。
うん、アースさんがグラニダで働くにあたって色々考えないといけないと思っていたけど、そこは俺が出る幕じゃなかったってことか。
レギさん達が最初に問題点の確認をしたのは、俺がそういった部分をちゃんと理解しているかを確認する為ってところかな。
「それはそうと、アースさんはご飯を食べないだろうから台所がないよね。今夜の食事は外で作る?」
俺がそんなことを考えているとリィリさんが晩御飯の話を始める。
「ふむ、そうじゃな。ケイは風呂も作らねばならんじゃろ?」
「そうですね。カザン君達の話が終わったら作りましょうか。」
その後しばらくしてカザン君との話を終えたアースさんが部屋に入ってくるまでのんびりと過ごした。
「本当に送っていかなくていいのですか?五日もあればグラニダの領都までいけますけど。」
先日の面談でアースさんの就職が決まった......いや、就職というか食客とかになるのだろうか?
あまり雇用条件については聞いていないけど、とりあえず領都の魔道具研究機関を立ち上げてそこの顧問のような形で働くそうだ。
その話が決まった時、アースさんをグラニダまで送ろうかと提案したけど断られたのだ。
「いえ、大丈夫です。旅をしながら人の世について勉強したいと思っていますので。いざ御領主の所に行ったときに失敗しないためにも。」
「なるほど......そういう事でしたらゆっくり行った方が良いかもしれませんね。」
「まぁ、あまりのんびりされてもカザンは困ると思うがな。」
「はっはっは、いや、はっはっは。程々にしますとも、向こうの生活が楽しみですからな!」
そう言って朗らかに笑うけど......心配だ。
アースさんは時間感覚が......壊れているからな......。
それにグラニダまでの道のりってちょっと殺伐としているというか......あまり一般的ではない様な気もする。
「アースよ。お主の程々は危険じゃ。旅程は細かに連絡を入れるのを約束せい。」
「むぅ......確かに少々時間感覚に難はありますが......いえ、わかりました。今回は約束もあることですし、皆様にも迷惑が掛かりますからな。大人しく従うとしましょう。」
ナレアさんも俺と同じことを思ったのかアースさんに釘を刺している。
アースさんであればそうそう危険なことにはならないだろうけど、人との関わりの部分に不安が残るからな......連絡は小まめにしてもらう方が良いだろう。
「では、この洞窟は閉じておきますね。」
俺は天地魔法でアースさんの住んでいた洞窟を塞ぐ。
「ありがとうございます、お父さん。それに皆様も。お会いする度に色々とお世話になってしまっていますが、その内しっかりと返させていただきます。」
「うん。俺としてはカザン君の所で頑張ってくれたら嬉しいな。でもあまり危険な魔道具は作らないようにね?」
「はっはっは、いや、はっはっは。その辺はナレア様にも言い含められておりますからな。自重いたしますとも!それでは皆様!またお会いできる日を楽しみにしております!」
アースさんが手を大きく振りながら離れていく。
荷物は殆どなく非常に身軽だ。
開発した魔道具は殆ど洞窟の中に置いて来たらしく、寝具や食料も必要としていないアースさんは、そもそも荷物が必要ないのだろう。
まぁ流石に手ぶらは不審過ぎるから多少俺達の荷物を渡してあるけど、それでも小さめの背嚢一つという身軽さだ。
何事もなくグラニダに着くといいけど......遠ざかっていくアースさんの後ろ姿を、若干不安を覚えつつ俺達は見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます