第338話 スケルトンです
俺はカザン君に連絡を入れるために遠距離通信用の魔道を起動した。
アースさんを受け入れるかどうかはカザン君次第だけど、メリットとデメリット......どちらの方が大きいかはちょっと分からない。
ハイリスクハイリターンだとは思うけど......悪い話では無い筈だ。
そんなことを考えながらカザン君の反応を待つ。
こちら側の魔道具を起動した時点で向こうの魔道具は呼び鈴を鳴らしているはずだけど、仕事中って可能性もあるから必ずしも出てくれるとは限らない。
そう言えばバイブ機能もナレアさんに話して着けてもらおうかな?
腕輪タイプだし、音が鳴らない方が良い状況の時も着けておけるようになるよね。
ナレアさんにそれを伝えようとしたところ、魔道具から反応が返ってきた。
『はい。カザンです。今日は少し早いですね?』
「あ、カザン君?ケイだけど、今いいかな?」
『あれ?ケイさんですか?てっきりナレアさんかリィリさんだと思っていました。ノーラに用事ですか?』
「あ、いや、待って。ノーラちゃんじゃなくってカザン君に用があるんだ。少し時間が掛かると思うんだけど、今大丈夫かな?」
『なるほど、だからいつもと時間が違ったのですね。今日はもう予定はないので大丈夫ですよ。どうされました?』
「実はカザン君に紹介したい人......的なのがいてさ。」
『人的なもの......?』
まぁ、こんないい方したらそりゃ引っかかるよね。
とりあえずカザン君の疑問には答えずに紹介してしまおう。
「魔道具の研究開発をしている人物で、今までどこの国にも研究機関にも所属したことがないんだ。」
『へぇ、在野の研究者ですか。興味深いです。』
とりあえず今はカザン君の興味を引くだけ引いてしまおうと思う。
「しかもナレアさんが認めるほどの......いや、ナレアさんをして自分以上の魔道具開発能力の持ち主と評されています。」
『っ!?それは凄いですね!』
一瞬絶句した様子のカザン君が勢い込んでくる。
今のカザン君にとっては喉から手が出るほど欲しい人材のはずだ。
「かなりの高齢だけど、偉ぶった所は全くなく、気難しさも皆無。今まで人との関わり無かったこともあって、人と会話するのが大好きで朗らかな人物だよ。」
『へぇ、人当たりの良い方なのですね。それでいて研究にひたすら打ち込んでいたって感じですか?』
「人当たりの良いというか......若干......鬱陶しいくらいかな?」
そう口にした瞬間アースさんが凄い勢いで俺の顔を見てくる。
無表情なので結構怖い。
俺の横でナレアさんが、驚いた表情もあった方が良さそうじゃな......と呟いている。
確かにアースさんの感情の豊かさを考えるに、人の世で生きていくにはもっと表情のバリエーションがあった方が良さそうだ。
『えっと......ケイさん。年上の方にその言い方は色々マズいのでは......。』
......確かに。
いや、でもなんかアースさんは年上と言うのとはなんか違う感じが......いや、高齢って紹介したのは俺だけど......アースさんはなんか違うよね?
いや、でもカザン君の言うことが間違いなく正しいと思うけど......。
「......ソウダネ。」
どことなく納得はいかないけど、全面的にカザン君が正しい......なんとか絞り出した同意の言葉がカタコトになったけど......勘弁して頂きたい。
「えー高齢とは言ったけど、非常に若々しく、健康的な問題はないかな?まぁほぼ間違いなくカザン君より長生き......。」
『ケイさん?』
生きてはないな......なんて言えば......先の世まで見ることが出来る?
......間違ってはいないけど......なんか違う感じがする。
いや、どうでもいいか。
「身長はレギさんと同じくらいで、体つきは細身。」
細身と言うか骨。
『結構大きな方ですね。』
「さっきも言ったけど、朗らかで常に笑い声を上げている雰囲気がある。」
雰囲気と言うか語尾なのかっていうくらい笑う。
『接しやすそうな方ですね。』
「戦闘能力もそれなりにあると思う。」
直接戦闘している所は見たことないけど、弱くは無い筈だ。
『それは......非常に頼もしいですね。』
「まぁ、役割としては魔道具の研究開発、後は後進の育成、指導辺りも出来なくはないかな?」
『今のグラニダには一番必要な......何よりも招聘したい人材だと思います。』
大分カザン君は乗り気になってくれている......でもそろそろ爆弾を投下しないといけない。
「名前はアース=ケルトン。」
『アース=ケルトン殿ですか。』
「とても朗らかで、生気に溢れたスケルトンさんです。」
『なるほど、スケルトン。』
テンポよくカザン君が相槌を打つ。
「......。」
『......?』
恐らく最後の言葉を反芻しているのだろう。
魔道具越しに何かが腑に落ちないといった雰囲気が漂って来ている。
『ケイさん。』
「何?」
いや、聞き返さなくても分かってるいけどさ......。
『何か......人材紹介の際に聞きなれない単語が聞こえてきたような......もう一度お伺いしても?』
「うん。非常に若々しくて......。」
『あーいえ、最後のやつだけお願いします。』
「スケルトン。」
『それです!なぜそこでスケルトンが出てくるのですか?ケルトン殿の話では?』
「はい。アース=ケルトンさんの話です。」
『アース=ケルトン......ん?アース=ケルトン?何か違和感というか馬鹿にしているような......悪ふざけの様な何かを感じる気が......。』
「悪ふざけとは人聞きの悪い、立派な名前ですよ?」
俺がそう言うと何か取り付かれた様にアース=ケルトンと呟き続けるカザン君。
そして何かに気付いたのか俄かに騒がしくなった。
『っ!ケイさん!この名付けはケイさんですね!って事はケルトン殿がスケルトン!?』
「最初からスケルトンって言っているじゃないか......ってか何故俺が名付けたと?」
『グルフ達と名前の付け方が同系統だからですよ!いや、それよりもさっきまでの人物紹介はなんだったのですか?本当にそんなスケルトンが?』
「以前遺跡の奥で知り合いになりまして......人物評としては間違ってないよ?」
『......あの、レギさんいらっしゃいますか?』
少しテンションを落ち着けたカザン君がレギさんに声を掛ける。
「あぁ、いるぜ。」
『先程までのケイさんの話は......。』
「あぁ、事実だな。魔道具に関しては俺はわからねぇが、性格なんかはケイが言った通りだ。技術に関してはナレアに俺も聞いているが、そういったことに関して嘘をつく様な奴じゃないだろ?」
『......あのナレアさんもいらっしゃいますよね?』
「うむ。魔術に関しての腕前もケイの言った通りじゃ。全てにおいて妾以上とは言わぬが、妾が見てきた中では最上位の技術者じゃ。」
レギさんの言葉を聞いたカザン君が、今度はナレアさんに確認をしていく。
まぁ、冗談みたいな存在だからね、確認したくなる気持ちもよく分かる。
俺も人伝に聞けば、そんな陽気なスケルトンが居てたまるかって感じだし。
『......。』
「もし、アースさんがグラニダやカザン君達に害を及ぼすようなら紹介した以上、必ず俺が責任を持つ。アースさんだけを処分すればいいって話じゃなかったとしても、全力をもって責任をとるよ。」
『何故そこまで?いえ、僕達の為に紹介してくれたのは十分分かっているのですが、ケルトン殿とはお付き合いが長いのですか?』
「いや、そんなことはないよ。カザン君達と出会う少し前くらいに知り合った程度だね。」
『では何故......?正直、グラニダにとっては利益がかなりあると思います。勿論、危険も少なくありませんが......そして恐らくそれはケルトン殿についても同じなのだと思います。そうでなければわざわざ紹介を受けようとは思わないでしょうし。ですがケイさんにとっては何一つ良いことは......寧ろ危険だけを背負っているように思えるのですが......。』
アースさんの人柄を信じたというのもあるけど......恐らく、最初に出会った時......俺達と初めて会話した時のアースさんのあの歓喜を見たからだと思う。
本当に嬉しそうに、心の底から喜びを叫んだあの姿を見たからこそ、アースさんを信じたのだ。
そしてカザン君達の為にというのについては......特に理由はない。
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