第348話 もしかしたらあるかも知れないのじゃ



View of ナレア


ケイが足を止めることなく相手の側面に回り込みながら水球を撃ち続けたので、戦闘を行っている辺りが水浸し......地面は泥水で覆われておる感じじゃ。

しかし、あの程度の水ではあまり有効な攻撃にはならない気がするのじゃが......何か狙っておるのじゃろうか?

しつこく水球を撃ち続けているケイを見ていると水球を防いでいた石壁が崩れ落ち、崩れた石壁の破片がケイに向かって飛来する。

水球によって壁が砕かれたのではなく、あの黒竜による風と石片での攻撃じゃな。

元が巨大な壁だけあってかなりの量の破片がケイに殺到しておるのじゃが、ケイは避けるそぶりを見せない。

じゃが、破片が届く直前ケイが拳を振り上げると地面から間欠泉のように吹きあがった水が破片を吹き散らした。


「今日は随分と水を使っておるのう?」


「そうだな。水を使って戦うのは見たことなかったが......丁度いい練習相手ってところか?」


「模擬戦だからねー、最近のケイ君は自分の能力が通じるかってのより、新しいことを試したいって感じでやるようになったよね。仙狐様の所に行った辺りからかな?」


妾の言葉にレギ殿とリィリが答える。


「模擬戦で色々試すのはいいことじゃ。それにしてもケイは相変わらずじゃのう。」


振り上げた腕をゆっくりと下ろすケイの後ろ姿を見ながら妾が言うと、レギ殿が苦笑しながら言う。


「前にも言ったかもしれねぇが......初めて会った時からあんな感じだぜ。戦闘前は頼りないくせにいざ戦闘が始まったら怖いくらいだ。」


「そうだねぇ。殺気とかはないんだけど......それが逆に怖いって言うか。でもケイ君は戦いに意識が没入したら、目つきが変わるから凄い分かりやすいよね。」


リィリの言葉にケイと相対した時の事を思い返す。


「うむ。殺気は感じられない......というか全くと言っていい程無いのじゃが、逆にそれが怖いというか......普段はあんなに顔色をころころと変える癖に戦闘中は全く考えが読めぬのじゃ。」


「確かにな......俺の印象だが、動き始めたら狩りをする獣のようだが構えている姿は蛇やトカゲみたいな無機質な感じを受ける。」


「あーそれ、分かる気がするなー。全体的に動物っぽいよね。」


確かに二人の言うような感じじゃな。

緩急が激しいというか......距離を詰められた時の激しさは、目の前におるにもかかわらず姿を見失いかねない程じゃ。


「最初に戦い方を教えたのがご母堂らしいからのう。正直ケイに距離を詰められるのは絶対に嫌なのじゃ。」


「俺は近づかないとどうしようもないからな......離れれば一方的にやられるだけだ。」


「最近は遠距離攻撃も出来るようになったしねぇ......でもナレアちゃんはケイ君に距離詰められるのは嬉しいんじゃないの?」


「......?何を言っておるのじゃ......?接近戦は寧ろケイの独壇場じゃろ。」


ケイに距離を詰められたら妾の格闘術程度では......いや......このリィリの笑みは何か......。


「嫌なの?」


っ!?


「な、何を言っておるのじゃ!?妾達は戦闘の話をしておるのじゃぞ!」


こっちは真面目に話しているのじゃ!

一体何の話をしておるのじゃ!


「えー私もそうだよー?ナレアちゃんなら格闘とか魔法とか色々手段があるから、呼び込んでおいて......ってのも出来るかなーって思ったんだけどー。前は呼び込んでおいて目つぶしとか、吹き飛ばしたりとか色々やってたじゃない?」


「......むぐぐ。」


厭らしい笑みを浮かべながらこやつは何を言っておるのじゃ!

明らかに違う意味で言っておったじゃろうが!

大体最近のリィリは何なのじゃ!

宿でも何かケイに色々言っておったし......いや、あの時は妾もずっと聞き入っておったのじゃが......いやいや、そもそもアレはケイが気落ちしているようじゃったのを心配しておっただけで......別に他意はないのじゃ!

それを何やら勘違いしたリィリが暴走しておるのじゃ!

ま、まぁ、その......け、ケイに、ず、ずっと一緒に居て欲しいと......い、言われたがの?

い、いや、分かってはおるのじゃ......恐らく、ケイのあれはそういう意味ではないと......じゃが、まぁ、も、もしかしたら......もしかしたらじゃが......そ、そういうつもりもあったのかもしれぬかの?

いやいやいや、妾は何を言っておるのじゃ!

そもそもそういうつもりってどういうつもりじゃ!

い、いかん!

リィリのせいで頭の中がおかしなことになっておるのじゃ!

ケイが頑張っておるのじゃから集中して見守らねば!

厭らしい笑みを浮かべるリィリを無視して妾はケイの方に視線を向ける。


「むむ!何やら動きが変わった様じゃな!」


「あー誤魔化したー。」


何やらリィリが言っておるが聞こえぬのじゃ!

後誤魔化しておらぬのじゃ!

現にほれ、ケイは水を使って霧を生み出しておるようじゃ、黒竜の姿が濃い霧に包まれておる。

しかし霧を出すだけなら幻惑魔術で良さそうなものを......何故わざわざ天地魔法で霧を発生させたのじゃ?

水の扱いに関しては風呂づくりに情熱を注いで折るだけあって、妾よりもケイの方が上手じゃ。

今まではそれを戦闘に使っておる様子は無かったのじゃが......この模擬戦で色々と試しておる最中なのか、それともケイの狙い通りの展開なのか......楽しませてもらうのじゃ。

ケイが生み出した霧は相当な密度のようで、黒竜の巨体は殆ど見えないくらいになっておる。

霧の濃さはどんどん勢いを増していき、完全に黒竜の姿が見えなくなるかと思った次の瞬間、黒竜を中心に風が吹き荒れ霧が吹き散らされた。


「あの霧は幻じゃなかったんだな。」


レギ殿が風によって吹き飛ばされた霧を見て呟く。


「そのようじゃな......ケイの狙いが何なのかは分からぬが......ふむ、続きがあるようじゃ。」


妾達の視線の先でケイが片手を黒竜の方へ突き出すと巨大な氷柱が水浸しの地面から黒竜に向けて伸びていく。

しかしその速度はかなりゆっくりとしたもので、正直あれがそのまま突き進んで行って体に当たったとしても何の痛痒も与えられない、というかそもそも当たらないと思うのじゃが......?

妾の予想通りというか、黒竜は迫って来た氷柱を尻尾の一振りで砕いてしまった。

特大の氷柱は砕かれ、地面に落ちると同時に溶けてしまったが、ケイは自分の周りに水球を生み出し、今度はそれを凍らせてから撃ち出す。

あの氷柱が砕かれるのも織り込み済みということかのう?


「ケイの狙いがさっぱり読めないな。」


「うむ。氷で攻撃をしているようにも見えるが......あれならわざわざ氷を使わなくてもいつもの石弾や石柱でいいはずじゃ。というか、威力の面で劣っていると思うのじゃ。」


「そうだねー、ケイ君の動きを見る限り予定通りって感じだし......何か凄いのを狙っているのかなぁ?」


ふむ......水を使った攻撃といい、今までとは違った天地魔法の使い方をしておる。

何が起こるのか実に楽しみじゃな。

飛来する氷球は黒竜の石弾に迎撃され、空中で全部砕かれていく。

黒竜に氷球が届くどころか、氷を砕いた石弾がケイ目掛けて飛んできて避けねばならぬ程じゃ......やはり氷で攻撃する意図は無さそうじゃな......それに先ほどの霧......目隠しとしては全く意味が無かったじゃろうし......それともあの一瞬で何かを仕掛けたのかのう?

外から見ておった限りそんな様子は見られなかったが......。

今度は足を止めずに氷と一緒に石弾を生み出して撃ち出していくケイだったが、回り込むような動きから一変、真っ直ぐ黒竜の方へと近づきながら腰に差していた剣を抜く。


「ここで接近戦か?」


「それにしてはちょっと勢いが弱い気がするなー。」


確かにリィリの言う様にケイが距離を詰めてくる場合、もっと激しい動きをすることが多いのじゃ。


「ふむ、どうやら接近戦では無い様じゃが......。」


妾達の予想通り、ケイが剣を投げて地面に突き刺す。

それでどうするのかとケイを見た次の瞬間、一瞬ケイの姿がまばゆく光った。

一瞬の閃光に妾達の目が眩み少し遅れて巨大な何かが倒れる音......恐らく黒竜の倒れる音が響き渡った。

ケイの奴......何をやりおったのじゃ?


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