第349話 説明しよう



お、おぉ......思いの外凄い威力だったみたいで、一撃で黒竜さんが声もなく地面に倒れた。

俺が放ったのは電撃。

以前から攻撃に電気を使ってみたかったのだが、雷は狙った場所に落とせるものじゃないし、自分を中心に放電させても無差別に一瞬だけ電気をまき散らすだけ......相手に接触してスタンガンみたいな感じで使えなくはないけど、それで無力化させるくらいなら弱体魔法の方が数段便利だろう。

まぁ、戦闘において弱体魔法以上に相手の無力化に向いている魔法って今の所ないけど......ゴーレムみたいに弱体魔法が利かない相手もいるかもしれないしね。

ゴーレムは電気も効かないかもしれないけど......。

とりあえず、初の試みだったので準備は念入りに......地面は不純物交じりの水浸し、黒竜さん自身も霧を使って結構びしょ濡れにした。

作った氷柱を溶かして水の道が俺の位置から黒竜さんの位置まで続くように、そして仕上げに放った電撃がちゃんと水に流れる様に剣を使って電気を誘導......思った以上に上手くいったけど......下準備が大変だな。

もう少しうまく使う方法を考えないと......いや、それよりも黒竜さんは大丈夫だろうか?


『それまで!』


応龍様が模擬戦の終了を宣言したので、俺は急いで黒竜さんに駆け寄って容体を確かめる。

よくある漫画的表現みたいにぷすぷすと焦げて煙が上がっているようなことは無かったけど......完全に白目を剥いて倒れている。

心音は......しまった......ドラゴンの心臓ってどこだ?


「すみません!応龍様、少し威力が高すぎたかもしれません!回復魔法を掛けたいのですがよろしいでしょうか?」


俺が声を掛けると離れた位置で見ていた応龍様が飛び上がり、俺達の傍に降り立つ。


『ふむ......見た所怪我はないようだが......先ほどの攻撃は雷を使ったのだろうか?』


「はい。扱いが難しいので水を使って伝導させました。それで、見た目には問題なさそうですが体の中を怪我しているかもしれません。」


『確かに、空を飛んでいる時に雷に打たれるとかなり痛いからな。気絶もしているし、回復してもらったほうがよさそうだな。』


応龍様は雷に打たれてもかなり痛いで済むのか......いや、今はそんなことはどうでもいい。

早い所黒竜さんを回復しないと......。

ドラゴンの体の構造は分からないから、怪我を癒すっていう漠然とした回復魔法と治癒力の向上で何とか......。

無事に治ってね......。

若干祈りを込めつつ回復魔法を発動する。

外傷は殆ど無いからちゃんと治っているかどうか不安だけど......応龍様の様子を見る限り問題はなさそう......かな?

黒竜さんの様子を見ながら回復魔法を掛け続ける事しばし、白目を剥いていた黒竜さんが一度目を閉じた後ゆっくりと目を開いた。

どうやらちゃんと回復魔法が効いたみたいだ。

応龍様と俺が見ていることに気付いた黒竜さんが、ゆっくりと身を起こし頭を下げる。


『体に問題はないか?』


『はい、ご迷惑をおかけしました。』


応龍様の問いかけに黒竜さんが答える。


『よい、お前を治したのは神子であるケイだ。礼ならそちらに言うがよい、まぁ傷をつけたのもケイだがな。』


応龍様が笑いながら告げると、黒竜さんが顔をこちらに向けて再び頭を下げる。


『ありがとうございます、神子様。不遜ながら全力で戦わせていただきましたが、一矢報いる事すら出来ませんでした。』


「いえ、地割れに落とされそうになった時は思わず悲鳴を上げてしまいましたし、いつもと勝手が違ったので少し戦いにくかったです。良い経験をさせてもらいました。」


『何か一つだけでも、神子様に残すことが出来たのなら幸いです。ありがとうございました。』


「こちらこそ、ありがとうございました。」


俺は一度頭を下げてからナレアさん達の所へと戻る。

ちょっと距離があるので飛んで行こうとしたのだが......地面を見下ろすと泥水でぐちゃぐちゃになっている......これは綺麗にしてから戻らないとナレアさんに怒られそうだな......。

......うん、水分を蒸発させればいい気がするけど......その場合は霧が発生しそうだし......一先ず全部の水分を集めて水球に纏めて氷に変化させて......とりあえず脇に置いておく。

次いで地面を操作して綺麗に均して......うん、これなら大丈夫かな。

氷を持ち上げて......あ、やっばい、滅茶苦茶冷たい!

俺は急いで辺りを見回して......誰もいないところを目掛けて氷を投げる。

遠くの方で地面に氷が落ちた音がしたので、水へと状態を戻して......手を温めながら飛び上がりナレアさん達の所へと戻る。


「お疲れ様、ケイ君。ね、ね、最後のあれって何したの?ケイ君が突然光ったと思ったら相手が倒れちゃったんだけど。」


俺が皆の所に戻ると、待ってましたと言った感じでリィリさんが声を掛けてくる。

レギさんはお疲れと声を掛けてきたくれたけど、ナレアさんは何やら考え込んでいるようだ。

多分先程の俺の魔法の事を考えているのだろうけど。


「アレはですね、電気......雷みたいなものを発生させて感電させたのですよ。」


「へー、でも槍とか剣とかに雷が落ちるのを見たことがあるけど、もっと物凄い音がして衝撃とかも物凄かったけど、ケイ君の魔法は一瞬凄い光っただけで音とかも全然しなかったよね?」


「いや、一瞬だったが、なんか布が破れるような音がしてたぞ?まぁ、リィリの言う様に雷みたいな物凄い音はしなかったが。」


槍とかに雷が落ちるのは見たことあるのか......俺は間近で雷が落ちるのは見たことないけど......遠雷でも物凄い音が鳴るよね......。


「落雷程、規模が大きい物では無かったので、レギさんの言ったような音しか聞こえなかったのだと思いますが、威力としては先程見て頂いた通りですね。」


リィリさん達にそんな感じで説明していた所、俺が戦っていた方に目を向けながら何やら考え込んでいたナレアさんがこちらに向き直り言葉を発した。


「あの氷を使った攻撃や途中で発生させた霧なんかも攻撃の布石かの?どんな意味があったのじゃ?」


ナレアさんが難しい表情ながら目を輝かせながら質問をしてくる。

本当に、こういった時のナレアさんは何と言うか......悪くない。

まぁ、キラキラというよりもギラギラに近い気がするけど。

じゃなくって返事をせねば。


「えっと、ナレアさんも恐らく同じだと思うのですが......天地魔法で雷って落とせますよね?でも狙った場所に落とすことは出来ない。」


俺がそう言うとナレアさんが頷く。


「試したことはあるが......確かにケイの言う様に狙いを外れ、何故か傍に生えておった木の上に落ちよった。平原に向かって撃ったつもりだったのじゃが......まぁ雷は高い所に向かって落ちると言うしの。そういう物じゃと思って諦めたのじゃ。」


「はい。僕も同じです。空から落とす雷は木などの背の高い物や、先程リィリさんの言った槍なんかの金属目掛けて落ちていきます。まぁ空から落とす雷じゃなくても金属に向かって進むことには変わりないのですが、僕が先ほどの戦いの最後に投げた剣はその為です。」


「なるほど、ではあの地面に撒かれた水は......同じように雷を誘導したという事かの?」


「えぇ、そうです。僕もあまり詳しくないのですが......水の道を作ることで電気を伝わらせました。霧を使ったのは黒竜さんの全身を濡らす為、こちらも同じく電気を伝わりやすくするためですね。こちらは必要なかったかもしれませんが......念の為です。」


「ふむ......天地魔法の中でも雷は扱いが難しかったが......こういう風に使えばいいのだな......。」


ナレアさんが顎に手を当てながら呟く。


「いえ......まだ使うのは危険だと思います。威力が高すぎますし......もし雷の威力で同じことをしたら下手したら死にます......つくづくもう少し勉強しておくべきだったと思いますよ。」


この世界に来てから何度同じことを思ったか......知識は力ってどこかで聞いたことがあったけど......物凄く実感するよ。

もし俺が元の世界でそのまま過ごして社会人になっていたら、同じこと考えていたのかねぇ?

就職先によるか?


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