第350話 三戦目



ナレアさんが巨大なドラゴンと向かい合っている姿を俺達は後方から見ている。

相手のドラゴンは黒っぽいけど、俺が戦った黒竜さんのように真っ黒って感じではない。

灰色っぽい黒って感じかな?

今まで出て来たドラゴンたちに勝るとも劣らない威風堂々たる姿だけど......ナレアさんに気圧される様子は全く感じられない。

まぁ、戦闘前にビビるのは俺だけですよね......母さんからも恐怖することは必ずしも悪くないけど、委縮するのは絶対にダメだと言われている。

っと......今はそれはどうでもいい。

レギさん達と同様にナレアさんも俺の強化魔法は掛かっていない。

まぁ、強化魔法の魔道具を持っているからすぐに掛けられる状態ではあるけど......ナレアさんはどんな戦い方をするのだろうか?

俺は今回あえて幻惑魔法を使わずに戦った。

恐らくナレアさんが幻惑魔法をメインに使うと思ったからだけど......まぁ、ナレアさんだったら俺が使おうが使うまいが気にしなかったかもしれない。

でもどうせ応龍様の眷属の方々に見せるなら、俺の中途半端な幻惑魔法より、ナレアさんの幻惑魔法の方が良いと思ったのは確かだ。


「ナレアちゃんはどうすると思う?」


「ケイみたいに天地魔法で遠距離戦じゃねぇか?幻惑魔法は攻撃向きじゃないだろ?」


「うーん、どうするかは予想出来ませんが......僕は幻惑魔法を主軸に戦う気がします。強化魔法は僕がかける物より効果が低いですからね......流石に眷属の方を殴り飛ばすってことは無いでしょうね。幻惑魔法で相手の隙を作ってとどめは天地魔法って感じじゃないですかね?」


リィリさんが予想を聞いて来たので俺達はそれぞれの予想を言う。

とは言え俺もレギさんも天地魔法で攻撃するという所は一緒だ。

俺達の予想が当たるのか、ナレアさんが予想を上回ってくるのか......いや、あの眷族の方が物凄く強くてナレアさんを圧倒するって可能性もあるけど......なんとなくナレアさんが成す術もないって状態が想像もつかない......。

シャルとナレアさんが戦ったらどうなるのだろうか......?

ナレアさんは霧狐さんとよく幻惑魔法で勝負をしていたけど、その霧狐さんはシャルとお互いに手加減をしながらだが、いい勝負を繰り広げていた。

向かい合ってよーいドンで戦ったらシャルが勝ちそうだけど......ある程度距離を開けた状態ならどうだろうか?

ナレアさんには幻惑魔法と天地魔法がある。

だけどシャルは幻惑魔法を見破ることが出来る......でもナレアさんならその対策もしっかりしてきそうだし......うーん、予想が付かない。


「ナレアさんとシャルってどっちが強いのでしょうね?」


「どうした?突然。」


湧いて出た疑問を口から出すと、レギさんがきょとんとしながら聞き返してきた。


「あー、ナレアさんがどういう風に戦うのかなぁと考えていたのですが......そこから相手の眷属の方のことや霧狐さんの事を考えていたのですが、ふとシャルとナレアさんが戦ったらどうなるのかなと思いまして。」


「「......。」」


俺がそう話すとレギさんとリィリさんが俺から視線を逸らす。

ん?

なんかまずいことを聞いただろうか?

疑問に思いながらふと横を見ると、こちらをじっと見つめるシャルと目が合った。

なんかつい最近同じことがあったような......いや、あの時とは表情が違うか。

でもあの時と似た圧力のようなものを感じるような......。


「えっと......シャル?」


『私の方が強いです。』


「え......?」


「私の方が強いです。」


「あ、はい。」


最近シャルの凄味が増しているような......いや、もともと凄味はあったけど俺に対してそれを見せることが無かっただけか。

とりあえずシャルに押されて頷いてしまったけど......うん、この話題はやめておこう。

レギさんどころかリィリさんまで目を逸らすほどだ。

大変なことになりかねない......。

俺が視線をナレアさんの方に戻すと応龍様が丁度開始の合図をするところだった。


『では双方よいな?始め!』


応龍様の掛け声と共にナレアさんが後方へと大きく飛びながら石弾を放つ。

しかし相手は石弾を躱すこともなくその身で受けた。

ナレアさんが撃った石弾は対人サイズではなく明らかにドラゴン向けの大きなものだったけど、身構えることなくそれを受けた灰色のドラゴンは相当防御力に自信があるのだろうね......。

そして次の瞬間無数の氷の槍を生み出した灰色のドラゴンは、ナレアさんに向けて雨のように氷の槍を降らせる。

その勢いは俺の放った氷球とは比べるべくもなく、凄まじい勢いでナレアさんに向かって降り注ぎ、攻撃を完全に防ぐことの出来なかったナレアさんを貫いた!


「ナレアさん!」


「待て、ケイ!」


ナレアさんが一瞬で血まみれになり、慌てて飛び出そうとした俺をレギさんが掴んで止める。


「っ!?レギさん!離してください!」


「落ち着け!多少怪我をした程度だ!ナレアはまだやる気だぞ。」


「そんなっ!?」


俺はレギさんを振りほどこうとするのを止めてナレアさんを見る。

レギさんの言う様にナレアさんはまだ戦闘を止めるつもりは無さそうだ。

多少の怪我っていう所はとてもじゃないけど同意できないが......言われてみれば怪我をしているのは手足だけで頭や胴体部分からの出血はなさそうだ。


「得意ではないとは言えナレア自身回復魔法も使えるんだ。あのくらいなら問題はないだろう?」


......問題が無いとは言い難いけど......ナレアさんの回復魔法で治せるのは事実だ。


「......それはそうですが。」


「まぁまぁ、ケイ君。ナレアちゃんが心配なのは分かるけど、少し落ち着こうよ。」


「ですが......。」


「ほら、ケイ君落ち着いて、少し考えてみてよ。ナレアちゃんが無策にあんな攻撃を受けると思う?」


「それは......。」


確かに、言われてみればおかしい......。

あの眷族の方の攻撃は槍の速度自体は結構速かったが、それでも目で追えないレベルではなかった。

当然ナレアさんであれば、石壁を作り出すなりなんなりして防ぐのは容易だったはず。


「そう、ですね......致命傷ではないとは言え、あの攻撃をナレアさんが受けるのは違和感があります。」


「うん、そうでしょ?まぁ、ナレアちゃんがあんな風になったから慌てるのは分かるけどね。」


「いや、まぁ、はい......ありがとうございます、リィリさん、レギさん。落ち着きました。」


「いきなり飛び出しそうになるとは思わなかったがな。その辺りケイは少し気を付けた方が良いかもしれないぞ?弱点になりそうだ。」


「......はい、気を付けます。」


「まぁ、ケイ君のいい所だとは思うけど......あ、ナレアちゃんの方動き出したよ。」


怪我を庇っている様子のナレアさんは動きがかなりぎこちないけど......その姿を見て俺の中にあった違和感が確信に近づく。


「......あの怪我をしているナレアさんって、本人ですかね......?」


怪我も治さず、再び灰色のドラゴンが氷を生み出すのを邪魔することもなく身構えているナレアさんを見て、アレは幻惑魔法によるナレアさんの幻なんじゃないかと二人に聞いてみる。


「それは......ケイの方が分かるんじゃないか?」


「そうなのですが......。」


俺が弱体魔法を使い視界を切り替えると......案の定というか、当然というか......ナレアさんだけではなく灰色のドラゴンのいる辺りまでが青い魔力に包まれている。

恐らく全域に何か適当な......薄い霧か何かを幻で作っているのではないだろうか?

確実に俺やシャル対策って感じだけど......弱体魔法が使えなくても幻惑魔法を見破ってくる相手が居ないとも限らないからね。


「広範囲に幻を作っているようで、あの怪我が幻なのかどうかは分からないですね。」


「なるほどな......まぁ、大規模な幻を展開する余裕があったのなら、ほぼ間違いなくあのナレアの姿は幻だろうな。怪我だけが幻なのか、あそこにいるナレア自身が幻なのかは分からないが。」


「良かったね、ケイ君。ナレアちゃんの怪我はなさそうで。」


「......そうですね。」


まだ、確実とは言えないけど......レギさんの言う様に幻を全域に発動させる余裕があったのなら相手の攻撃をあぁも無防備に受けたりはしないだろう。

......少し安心は出来たけど......試合終了後に文句くらいは言いたい気がする。


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