第347話 二戦目
『ふむ、あの二人は見事な物だったが......油断が過ぎるようだな。本気でやらないのであれば戦う意味はないぞ?』
一戦目の終了後、応龍様がレギさん達に倒されたドラゴンに苦言を呈していた。
怒られているドラゴンは勿論、戦えを控えている他の二名も周りで見学している眷属の方達も神妙な雰囲気になっている。
そんな空気の中、いつものようにニコニコと笑みを浮かべているリィリさんと斧を肩に担いだレギさんが俺達の元に戻って来た。
「お疲れ様です。レギさん、リィリさん。」
「おう。」
「うん、ただいまー。」
「随分あっさりじゃったのう。」
ナレアさんの言葉に一部の眷属の方がこちらに視線を飛ばす。
ナレアさん......挑発はやめてください......。
「まぁ、相手が完全に油断していたからな。普通に戦っていたらこうはいかねぇよ。」
「そうだねー、魔法を使われちゃうと流石にねー。特に空を飛ばれると困るから一気に倒させてもらったけど、あの子には悪いことしちゃったかな?」
レギさんとリィリさんが先ほどの感想を言っているけど、確かに相手が油断せずに普通に戦っていたらかなりの強敵だったはずだ。
「まぁ、俺としてはケイやナレアに見せる為に色々やってもらいたかったってのもあったが......流石にあからさまに油断していたからな......。」
「倒せるときに倒してしまうのは当然じゃ。次からは相手も油断はせぬじゃろうし......仙狐の所と同じように、恐らく何戦かすることになるじゃろうな。」
やはりナレアさんも何戦かやることになるって考えか。
「次はどちらが行くかの?」
「僕が行ってもいいですか?」
ナレアさんに聞かれたので立候補する。
「ふむ、いいのかの?恐らく先程の事があったからの、次の相手は最初から全力で来ると思うのじゃが。」
う......確かに......いや、でもそれで尻込みしたらナレアさんに押し付ける感じになるしな。
「だ、大丈夫です。」
「......ふむ......ならば次はケイに任せるのじゃ。」
少しどもったけど......まぁ、許してもらいたい。
若干躊躇った時点で既にかっこ悪いしね......。
『ケイ様。お気を付けください。』
横にいたシャルが気遣わし気な様子で声を掛けてくる。
俺は軽くシャルの頭を撫でた後、開けられた空間の中心に向かって足を踏み出した。
「うーん、頼りないねぇ。」
「今はいざって時じゃないからな。」
何やら後ろからリィリさんとレギさんの声が聞こえて来たけど......怖い物は怖いのですよ......。
そんな気持ちを押し殺す様にしながら進み出た俺は応龍様を見上げる。
「次は私が戦います。」
『ケイか......黒竜、出なさい。』
応龍様の言葉に従い一体のドラゴンが俺の前に進み出てくる。
黒竜......その名の通り黒いドラゴンだけど......いや、もうめちゃくちゃ強そうだ。
大きくて硬そうで......威圧感が半端ない。
さっきレギさん達が一瞬でケリをつけたことで応龍様から注意されていたし、ナレアさんの言う様に最初から全力で来るだろう......。
接近戦か遠距離戦か......黒竜さんはどう見ても力は強そうだけど......強化魔法を全力で掛けた俺と比べるとどうだろうか。
仙狐様の眷属、霧狐さんの純粋な身体能力は、全力で強化魔法を掛けた俺の方が上だった。
仮に霧狐さんと同格と考えると......うん、同格だったらまず勝てない。
ってそれじゃ考察にならない......そもそも仙狐様の眷属と応龍様の眷属で身体能力を並べて考えるべきじゃないよね。
俺はシャルみたいに見ただけで相手の強さを計るなんてことは出来ないのだから......よし、いつも通り様子見で行こう。
そう決めた瞬間、強張っていた身体からスッと何かが抜けて体が軽くなった気がする。
『ほう......双方準備はいいな?始め!』
応龍様の掛け声と共に俺は横に跳ぶ。
一瞬遅れて黒竜さんの尻尾が俺のいた位置に叩きつけられ、地面が軽く揺れたような感じがした。
開始直後に攻撃してくるのは予想通り、でもその威力は予想以上。
叩きつけだから避けられたけど、薙ぎ払いだったら攻撃を貰っていたな。
俺は黒竜さんの顔目掛けて数発の石弾を放ちながら後方へと跳ぶ。
黒竜さんのサイズに合わせてそれなりに大きめな石弾を放ったのだが、片手の一振りで全て打ち払われてしまった。
その様子から見てやはり体はかなり堅そうで、身体の大きさに見合った力強さみたいだ。
俺が後ろに跳んだのを見て、黒竜さんが翼を広げ一度だけ大きく羽ばたく。
同時に物凄い突風が俺の全身に叩きつけられた。
咄嗟に身を低くして吹き飛ばされない様に耐えたけど......以前ナレアさんに吹き飛ばされた経験が生きたな。
しかし、安堵する暇もなく今度は俺の周りに石の壁が現れて俺を押しつぶす様に迫ってくる!
俺は押しつぶされる前に側面の石壁に掌底を叩きつけて砕くとその場からすぐに離脱、そして黒竜さんとの距離を詰めるべく前に出る!
まだかなり距離があるにも関わらず黒竜さんが尻尾で薙ぎ払う動きを見せ、同時に俺の足元の地面から石槍が山のように生み出された。
俺は槍が身体に届くよりも先に蹴り砕く......これもナレアさんにやられたことがあるね。
俺は接近する足を止めて黒竜さんを見る。
向こうから距離を詰めてくる様子が無く、距離を詰めようとしたら迎撃するように攻撃を仕掛けて来た......ブラフでなければ黒竜さんの得意なのは遠距離戦だろうね......。
普通の戦闘ならこのまま距離を詰めるところだけど......今回はこのまま遠距離戦でやらせてもらおう。
決して相手を舐めているわけではない......基本的に近接戦闘の方が得意な俺は、機会がある時に遠距離戦の練習をしておいた方がいいからだ。
因みに遠距離戦はナレアさん相手だと歯が立たない感じだけど......黒竜さん相手だとどうかな?
ナレアさんを相手するのとはちょっと勝手が違う、何せ体の大きさが違うから有効な攻撃の規模も変わってくる。
石弾も落とし穴も石壁もかなり意識しないと、いつもとサイズがかなり違うからな。
先程撃った石弾よりもサイズを大きめにして石弾を三発撃ち出す。
先程放った物とは違い一発一発が黒竜さんの顔が完全に隠れてしまうくらいの大きさで、流石に手で打ち払うようなことはせずに自分で生み出した石弾で迎撃してきた。
更に黒竜さんは、先程と同じように尻尾を薙ぎ払うようにして石槍を無数に生み出してくる
後ろに跳び退り、次々と生えてくる石槍から逃げると黒竜さんが今度は地面に尻尾を叩きつけ、地割れを発生させる。
「うおっ!」
足元の地面が二つに避け、悲鳴を上げながら宙に浮いて落下を防ぐ。
落とし穴に比べて随分と豪快な攻撃だけど......まぁ似たような感じか?
俺は地割れを避けて地面に降り、そのまま黒竜さんに対して側面に回り込むように走り出す。
黒竜さんの天地魔法は体の動きで効果が決まっているみたいだね。
まぁ、動作を入れることで効果のイメージをしやすいし、俺も腕を振ったりしているから変だとは思わないけど......体が大きいからか予備動作で相手の攻撃が読みやすいな。
......まぁブラフの可能性もあるから油断は出来ないけど。
しかし、黒竜さんは最初の立ち位置から全く動こうとしないな......遠距離主体にしてももう少し動いた方が良いような気はするけど......あまり戦い慣れていないのだろうか?
俺は思考を回しつつ側面に向かって走る足を止めずに、無数の水球を生み出して打ち出す。
特になんの仕掛けもしていない唯の水を球状にして飛ばしているだけで、高水圧がかかっているわけでも実は硫酸の塊でも何でもない。
当たっても多少濡れる......いや、相当な量を生み出しているのでずぶ濡れになるくらいだ。
しかしそうとは知らない黒竜さんは、当然小細工を警戒して石壁を生み出し水球を防ぐ。
まぁ、勿論小細工しているのだけどね?
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