第474話 お姫様抱っこ
ファラの配下のネズミ君達を送り込んで、そろそろ一時間くらい経過しただろうか?
時刻は既に真夜中......丑三つ時といった感じだろうか?
こっちの世界に来て、こんな時間まで起きていたのは初めてだと思うけど......眠くなる感じは全くない。
未だリィリさんはおろか、クルストさんやキオルの姿も発見出来ていない。
ファラを含めたネズミ君達から隠れおおせるなんて不可能に近い。
となると......もう既にその施設を後にしたのか......それともネズミ君達が入り込めない様な部屋に籠っているのか......。
マナスから送られてくる情報を聞く限り、その施設はかなり広いらしくまだ全体を把握出来ているわけでは無いみたいだけど......ファラが直接調べているというのに......いや、一時間程度しか経っていないのだから当然なのかもしれないけど......。
そんなことを考えながら俺がやきもきしているとナレアさんに声を掛けられた。
「ケイよ。気持ちは分かるがもう少し落ち着くのじゃ。この状況でファラ以上に頼りになる者はおるまい?」
「はい。そうですね。」
「うむ。では、ケイは主としてファラを信じてやっておればよいのじゃ。」
「......分かりました。確かにファラが頑張ってくれているのに焦れていてはファラに悪いですね。」
俺がそう言ってナレアさんに笑いかけると同時に、俺の傍らに伏せていたシャルが起き上がった。
『......ケイ様。リィリを発見しました。』
「レギさん!ナレアさん!リィリさんが見つかりました!」
俺の声に二人が立ち上がる!
いや、俺も立ち上がっていたけど、今それはどうでもいい!
「リィリは無事かの!?状態はどうじゃ!?」
『リィリは意識を失っている様子です。自力で動くのは恐らく無理かと。またリィリの傍にはキオルとクルスト、それと他にも八人いるそうです。』
「リィリさんは意識を失っているそうです。後、傍にはキオルとクルストさん、それに後八人いるそうです。」
「......その状態では、こっそりとリィリをこちらに引っ張り込むのは無理そうじゃな......。」
『それと、リィリは台の上に寝かされていて、その台に拘束されているようです。』
「リィリさんは拘束もされているようです。」
レギさんの方から歯ぎしりが聞こえて来る。
「......そうなると......幻惑魔法で誤魔化している間に拘束を解いてこちらに戻る......いや、難しいのう。どのような幻を作るか決めるのに、妾が向こうの状況を見る必要があるのじゃ。」
「以前使った視覚共有の魔道具をファラに渡すというのはどうですか?」
グラニダで使った魔道具の事を思い出し提案してみる。
「......すまぬ。今あの魔道具は持って来ていないのじゃ。」
ナレアさんが口元に拳を当てながら悔し気に言う。
「僕が接続をして、突入。一気に全員を制圧するというのはどうですか?」
「......ケイの様子を見るに、空間の接続はまだ負担が相当大きく、回を重ねるごとに疲労が酷くなっておる。ケイを戦力として数えるのは難しい......ファラやマナス、シャルに手伝ってもらったとしても人数が多いからのう......一気に制圧するにしても、先程の様にリィリが人質となるのは避けたい。マナス、部屋の見取り図を描いてもらえるかの?」
ナレアさんに頼まれたマナスが俺の肩から飛び降り、机の上にあった紙に見取り図を描いていく。
......うちの子達は、本当に何でもできるなぁ......。
俺が見取り図を描いて欲しいと言われても、こんな綺麗には絶対描けないよね。
相変わらずのうちの子の万能っぷりに閉口しているとマナスが見取り図を描き終え、その上に石を合計十個置いた。
この石が部屋の中にいる十人か。
それにしても随分と大きな部屋だな......マナスが大げさに描いているわけじゃなかったら、学校の体育館くらいありそうだ。
まぁ、何か色々な物が置かれているみたいでかなりごちゃごちゃしているみたいだけど。
「リィリが寝かされておるのはここかの?」
ナレアさんが部屋の中央に描かれた長方形を指さすとマナスが軽く弾む。
「これで気づかれないようにするには......幻惑魔法を使わないと無理でしょうね。」
リィリさんの傍には数個の石が置かれている。
「うむ。相手も適度にばらけておるようじゃし、一気に制圧と言うのは難しそうじゃな。」
「......リィリさんの救出が目標ですが......一先ずリィリさんの安全の確保を最優先にするのはどうでしょうか?」
「ふむ?どういうことかの?」
「人質に取らせない様に出来ればいいかと。」
「そうは言うが......何もナイフを突きつけるだけが脅しではないのじゃ。例えば......寝かせておる台が魔道具で、アンデッドを殺すような仕組みになっておるかもしれぬ。意識の無い人間を害そうとするなら、それこそ手段は無数にあるのじゃ。遠隔でそれをされた場合防ぐのは難しかろう?」
「いえ、防ぐ必要はありません。何をされても無駄にしてしまえばいいのです。」
「何をされても無駄......あぁ、分かったのじゃ。」
この状況でもったいぶるつもりはなかったのだけど、俺が説明する前にナレアさんが気付いたみたいだ。
「はい。リィリさんの居る空間を固定してしまいましょう。」
「固定っていうと......封印みたいなやつのことだよな?」
見取り図を見ながら黙り込んでいたレギさんが顔を上げて問いかけてくる。
「えぇ。妖猫様がそれぞれの神域で召喚物を封印している魔法です。」
「それでリィリを守ることが出来るのか?」
「はい。空間の固定をすれば外からは一切干渉することが出来なくなります。遠隔で発動する魔道具だろうと、ナイフだろうとリィリさんには傷をつけるどころか、近づくことも出来なくなります。」
「リィリに害はないのか?」
「リィリさんの意識も完全に無くなりますが、固定を解けば元に戻ります。言い方は問題ありますが、そのまま千年放置しても大丈夫です。」
「そ、そうか。」
俺の言葉に若干頬をひきつらせたレギさんだったが、とりあえず納得してくれたようだ。
「固定を使うのはいい案じゃが......誰が固定を使うのじゃ?すまぬが、妾は幻惑魔法を使いながら固定を使うのは無理じゃ。固定をするにはその空間を目で見ておかねば出来ぬが......相手の人数を考えると幻惑魔法を使わずに隠れながらリィリの居る場所を確認するのは不安が残るじゃろ?しかし見つかってしまっては元も子もないからのう。」
「ナレアさんは幻惑魔法を掛けておいてください。固定は僕がやります。」
「しかし......ケイは接続をした直後じゃろ?下手したら次は動けないくらいに疲労しておる可能性があるのじゃ。」
「そうですね......恐らく手を引いて貰って歩くのも無理かもしれません。なので、レギさん。」
「あー、担げばいいか?」
「なるほど、お姫様抱っこじゃな?」
ナレアさんがとんでもないことを言いだした。
迂闊にも少しだけその状況を想像してしまって、思わず身震いしてしまう。
何故か俺はその想像の中でレギさんの首に手を回していたし。
「ちょっととんでもない物を想像してしまったので勘弁してください。背中に負ぶってもらっていいですか?接続したらそのまま運んでもらい、向こうで落ち着いたら僕が固定を使います。ナレアさんは幻惑魔法でその間僕達を隠しておいてください。」
「あぁ、分かった。」
『ケイ様!何故私の背に乗らないのでしょうか!?』
レギさんが承諾すると同時に、珍しく叫ぶような念話がシャルから発せられる。
「ごめんね、シャル。向こうは広いとは言え、物陰に接続しないと気付かれる可能性があるからね。狭い位置になるだろうし、シャルは体を小さくしておいてもらいたいんだ。」
『......分かりました。申し訳ありません。』
シャルが尻尾も耳も下げて、しゅんとなってしまったのでシャルの事を優しく撫でる。
シャルには悪いと思うけど、今回はこの布陣がベストだと思う。
「すまぬのう、ケイ。妾がもう少し空間魔法を使いこなせることが出来れば、話は楽だったのじゃが。」
「いえ、こればっかりは相性の問題ですから。仕方ありませんよ。」
段取りはこんな感じでいい筈だ。
「マナス、ファラに俺達が全員隠れられるような物陰に移動してから魔道具を起動するように伝えてくれるかな?」
俺がマナスに伝えると、すぐに対となる魔道具が起動されたことを示す魔道具が光る。
「それじゃぁ、接続を開始します。リィリさんを助けに行きましょう。」
俺がレギさんの背中に負ぶさりながら二人に向かって宣言すると、何故かナレアさんは俺から視線を逸らした。
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