第432話 ボス戦の始まり



倒しても倒しても湧いて出てくる魔物を狩り続けて三日。

二日目からは後続の方々もレストポイントの先で魔物と戦い始め、倒した魔物の数も百や二百じゃ済まないくらいになったのではないだろうか?

そんな人海戦術の甲斐もあって、ボスまでの道のりやその周囲の魔物の掃除は出来たと思う。

これからボスと戦うわけだけど......今はボスの居る大木の近くでボス攻略班の方々と最後の打ち合わせ中だ。


「本当にボスと戦わなくていいのか?」


マルコスさんが眉をハの字にしながらレギさんに問いかける。

アレは困っているわけじゃなくって......理解出来ないって表情だろう。

まぁ......マルコスさんは本当に魔物と戦うのが好きみたいだからな。

傍で戦う機会は無かったけど......遠くの方から物凄い笑い声が聞こえてくることが何度かあった。

最初聞こえて来た時は何事かと思ったけど......ナレアさんがマルコスさんの笑い声だと教えてくれたんだよね。

そんなマルコスさんは当然のようにボスの攻略班だ。

それでいいのだろうか?

ギルド長だよね......?

王都の冒険者ギルドのトップだよね?

最前線に立ち過ぎじゃないかな?


「えぇ。取り巻きがいるようですし、私は周りの魔物の処理をします。」


「ボスの方が面白いと思うが。」


「......そういうのは身内だけで突っ込んだ時にやるので大丈夫です。」


断る口実としてだろうけど、レギさんが珍しく好戦的な笑みを浮かべて強気な発言をする。


「はっ!流石、二人でダンジョンを攻略するような奴だ。人数が多いとやりにくいってか?」


獰猛な笑みを浮かべるマルコスさん。

なんというか......ボスそっちのけでレギさんに襲い掛かりそうな雰囲気だな。


「まぁ、連携が取れなければ人が多くても意味はありませんからね。」


そんなマルコスさんの笑みをさらりと受け流すレギさん。

見た目はレギさんの方が粗野な感じだけど......やり取りは完全にマルコスさんの方がチンピラだな......。


「......ちっ!まぁいい......じゃぁ、ボスの正面は俺が受け持つ。側面はお前たちに任せるからな。取り巻き共はレギとナレアで頼む。他の連中が配置に着いたら開始だ。」


そう言って魔晶石......いや、魔道具を地面に置くマルコスさん。

現在この場にいるのは十三人。

残りの人達は、ボスの居る大樹のある広場を取り囲むように移動している。

まぁ、広場というより少し開けた場所って感じの方がしっくりくる広さだけど。

ボスとの戦闘中に他の魔物が加勢に来られないようにするのが彼らの役目だ。

そして俺達五人はボスの近くにいる魔物の処理。

マルコスさん達八人がボス討伐のチームだ。

全員が同時に戦う訳ではなく、途中で交代して休みながら戦うそうだ。

俺達は取り巻きの処理が終わった後、万が一外の囲みを突破して来た魔物がいたとしても、マルコスさん達の戦いに乱入しない様に警戒。

そして、ボスと戦っている人達に何かあった際の交代要員、または戦線が崩壊した際の撤退支援......殿だ。

まぁ、流石に犠牲が出るのをよしとするつもりはないので、危ないと思った時には助太刀させてもらう事にはなっている。

まぁ、そんな事態にならないのが一番いいけどね。

俺がそんなことを考えている間にも打ち合わせは進んでいる。

とは言っても、基本的にマルコスさんのチームがどう動くかって話だけど。

まず俺達が先行してボスの居る場所に突入。

後は露払いをして、後続であるマルコスさん達がボスに突っ込めるように道を切り開けばいいだけだ。

うん、やることは単純だね......単純と簡単は別物だけど......。

暫くそんな風に時間を過ごしていると、先程マルコスさんが地面に置いた魔道具がチカチカと点滅する。


「準備が出来たようだな。それじゃぁ露払いは頼んだぜ?」


「了解です。」


レギさんが斧を手に立ち上がる。

次いで俺も立ち上がり、これから向かう先に視線を向ける。

魔物は......ぱっと見で十匹、ボスは一匹だけど......それはそれは大きな蜘蛛の魔物だ。

道中も蜘蛛が多かったからなぁ......。

蜘蛛の魔物は大小様々で、小さい物は手のひらサイズから大きなものは人間よりも少し大きかった。

そしてボスは......なんか象くらいありそうだね。

アクションゲームとかでデカい蜘蛛のボスってみたことあるけど......現実に見ると気持ち悪いどころの騒ぎじゃない。

結構毛が多いんだなぁとか、身体の大きさのわりに足が細いなぁとか、複眼って何処見ているのか分からないなぁとか......なんか謎の体液が口から垂れているなぁとか......。


「ケイ、虚ろな顔をしてないでしゃきっとするのじゃ。無駄に怪我はしたくなかろう?」


ナレアさんに注意されて我を取り戻す。


「すみません。ボスの姿が恐ろし過ぎて。」


「ケイは虫が怖いだけじゃろ。」


ナレアさんが呆れたように言ってくる。


「それはまぁそうですが。」


虫はなぁ......とにかく見た目と動きが......うぅ......身震いが。


「あそこにいるのが同じ大きさの狼や狐じゃったらどうじゃ?」


「倒すのが忍びないなぁと......。」


狼や狐はなぁ......ネズミとかスライムもちょっと戦いにくい気がする。

どうしてもうちの子達が脳裏にちらつくよね......。


「普通はそっちの方が怖がるものが多いと思うのじゃがのう。」


「ケイの感性が普通と違うのは今に始まったことじゃないが......そろそろ口を慎んでくれ。いくぞ。」


俺とナレアさんは口を噤み、レギさんに続いて歩き始める。

俺達が進みだして少しして、後ろのほうで後続のチームが動き出す気配がする。


「これからボスとやり合うってのに気楽なもんだな。恐ろしい連中だ......。」


マルコスさんが仲間に声を掛けているのが聞こえ、後ろの方で軽く笑いが起こっていた。

随分とリラックスしているみたいだ、頼もしい限りだね。


「手前から削っていくぞ!」


開けた場所に足を踏み入れたレギさんが、吠える様に叫びながら近くにいた魔物に斧で斬りかかる。

俺は一応槍をレギさんから借りているけど、この場所は大木が栄養を持って行っているせいか少しだけ木々が途切れていて相手との距離が詰めやすい。

なのでナイフでも問題なく戦えそうではある。

ナイフの方が使い慣れているので、問題無さそうであれば槍は手放してナイフで戦う予定だ。

レギさんに続いてリィリさんが飛び出し、少し遅れてクルストさん、俺の順で魔物に接敵、ナレアさんは俺達の後方から空を飛んでいる魔物を撃ち落としていく。

俺は接敵した蜘蛛の魔物の胴体に槍を突き刺すとすぐに槍を手放し、蜘蛛の顔に伸ばしたナイフを叩き込む。

だが、まだ絶命していない蜘蛛は体を捻ってお尻を俺に向けてくる。

糸は流石に消えるとしても遠慮したい!

俺は突き刺したままの槍を引き抜き、もう一度突き立てた!

同時に魔力の霧となり霧散する魔物を尻目に、クルストさんが相対している魔物に横合いから槍を突き立てる。

更にその隙をついてクルストさんが魔物の頭を叩き割り、霧へと返す。


「助かったっス!レギさんみたいにバッサバッサ倒すのは無理っスねー。ケイ、組んでもらっていいっスか?バラバラに戦うと時間が掛かりそうっス。」


「そうですね......レギさんとリィリさんはちょっと息が合い過ぎって感じで真似出来そうにはないですけど、うまく連携していきましょう。」


そう話す俺の目の前でレギさんが魔物を吹き飛ばし、リィリさんの戦っている魔物に襲い掛かる。

リィリさんは自分の戦っていた魔物をレギさんに任せ、レギさんの吹き飛ばした魔物にとどめを刺す。

あの二人みたいに何も言わずに連携を決めるのは無理があり過ぎる。

俺はナレアさんが魔力弾で撃ち落とした魔物に向かって槍を投げてとどめを刺した後、クルストさんが牽制しているトカゲの魔物を横からナイフで突き刺す。

だが致命傷とはいかず、トカゲは体を振り回す様に暴れ出した。

って......このトカゲ毒持ちだったはず!

俺とクルストさんが飛び退りトカゲから距離を取った瞬間、後方にいるナレアさんから魔力弾が放たれてトカゲの顎にヒットする。

俺はすぐに顎をのけぞらせたトカゲに接近すると、ナイフを一振りしてトカゲの頭を飛ばした。

相手が密集しているから中々忙しいな!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る