第431話 簡単なダンジョン攻略法
茂みから飛び出してきた魔物の頭に槍を突き込み、そのまま背後にあった木に縫い留める。
「うわぁ......。」
縫い留めた魔物は......ムカデ。
しかも相当でかいムカデで、全長は俺の体より大きい。
頭を貫かれ気に縫い留められているにも拘らず、その長い体をびちびちと跳ねさせていて......正直泣きたい。
殺虫スプレーが欲しい......。
若しくは天地魔法で思いっきり大岩を叩き込みたい。
いや......精神衛生上これは早く処理するべきだ......。
俺は槍をそのままにしてナイフを抜くとムカデを切り刻む。
非常に気持ち悪かった為、ちょっとやり過ぎた感は否めないけど......あっという間に体をバラバラにされたムカデは魔力の霧へと還っていった。
正直、その魔力に触れるのも避けたい程、気持ち悪かったのだが......死体すら残らないのは非常に助かる。
クルストさんが居なかったら、森を吹き飛ばすくらいの勢いで攻撃していたかもしれないな......ある意味居てくれてよかったかもしれない。
木に刺さったままの槍を引き抜き皆の方を見ると......レギさんとリィリさんは協力して俺が倒したものよりも大きい蜘蛛の魔物と戦っている。
その手前ではナレアさんが一メートルくらいのトカゲの魔物二匹相手に魔力弾を放ち......クルストさんは宙に浮いている三十センチくらいの蜂の魔物に短弓を放っているが、蜂の魔物は素早く、矢が当たっている様子はない。
接敵した順番が悪かったのかクルストさんでは蜂の魔物は戦いにくそうだ。
ナレアさんとクルストさんは獲物を交換した方が良さそうだ。
そう思い、俺はナレアさんと戦っている魔物の所に回り込むように移動して槍で牽制を始める。
「ナレアさん!クルストさんの方に!」
「了解じゃ!それは任せる!」
トカゲを側面から攻撃した俺は、ナレアさんの返事を聞くとトカゲとナレアさんの射線を塞ぐようにトカゲの前に回り込む。
二匹のトカゲの鼻先を掠める様に槍を振るうと、トカゲからヘビの警戒音のような鳴き声が聞こえてきた。
この様子ならこいつらは完全に俺にターゲットを変えたと見ていいだろう。
『ケイ様。この魔物は爪に毒があるのでお気を付けください。』
シャルが教えてくれた情報に頷いて返事をする。
情報としては有難いけど、その内容は有難くない......。
毒か......そう言えば毒を持っているって警告されたのは初めてだな......さっきの蜘蛛とかムカデとかも毒は持っていそうだけど......こいつのは強力ってことかな。
「ケイ!そのトカゲは毒があるっス!傍に寄せない様に牽制して置くっス!」
「了解です!」
クルストさんが背後から毒の事を教えてくれる。
ナレアさんと違って槍とは言え接近戦である俺を心配してくれたようだ。
二人から毒の事を注意されたので、俺は無理に攻め込まずにトカゲを槍で牽制する。
攻撃にそこまで力は入れずに、鼻先や目を狙って槍を軽く突き出す。
嫌がらせの様な攻撃だが、トカゲは鬱陶しそうに突き出される槍を避けながらこちらを威嚇するだけで踏み込んでは来ない。
いや、踏み込んで来ようとしたタイミングで、俺が槍を突き出して押しとどめているのだけど......。
そんなやり取りを一分も続けていただろうか?
蜂を倒したらしいナレアさんから声が掛かる。
「待たせたのじゃ。そのまま牽制しておいてくれるかの?攻撃は妾達がやるのじゃ。」
「よろしくお願いします。」
「ナレアさん、左は俺がやるっス。」
「任せるのじゃ。」
二人の打ち合わせが終わり、俺の背後からトカゲに向かって攻撃が飛んでくる。
右のトカゲには魔力弾の集中砲火、左のトカゲには矢が飛んでくる。
魔力弾の方は何度も見ているけど......矢は凄いな。一瞬で相手に三本の矢が突き刺さっていた。
短弓とは言え、そんな一瞬で何本も矢って射ることが出来るのだね。
魔力弾の集中砲火を受けたトカゲはすぐに魔力の霧へと還ったが、矢が刺さっているトカゲはまだ死んでいないようだ。
矢が何本も刺さったトカゲに、俺が目を狙って槍をねじ込むと体を一度大きく跳ねさせたトカゲが魔力の霧へと還った。
「ケイ、上手いっス!」
「クルストさんこそ、弓矢も凄いのですね。」
「ふふん!もっと褒めるっス!俺は褒められて成長していく方っス。」
クルストさんが落ちた矢を拾いながら鼻を高くする。
「得意げになるのは良いが、まだ大物が残っておるのじゃ。あの二人ならば問題はないじゃろうが、ここで遊んでおっては後でどやされるじゃろうな。」
「すぐに加勢にいくっス!」
『ケイ様。上に一匹います。』
クルストさんが慌ててレギさん達の方に行こうとしたところで、シャルから警告が飛んだ。
「クルストさん!上です!」
俺の警告を受けクルストさんが顔を上げると同時に、白い何かがクルストさん目掛けて飛ばされる!
「うぉっ!?」
間一髪のところで身を前に投げ出して飛来物を躱したクルストさんが、弓を上に向かって引き絞る!
次いで放たれた矢は上に飛んで行き、代わりに黒い何かが樹上から落ちてきた。
俺は落ちてきた何かをすぐに槍で突く。
落ちてきたのは先程俺が倒した者よりも二回りほど小さな蜘蛛だったが......俺がそれを認識した次の瞬間魔力の霧へと還っていった。
「危なかったっス。ケイ、助かったっス。」
「いえ......無事でよかったです。油断せずに行きましょう。」
「......俺はレギさん達の周囲を警戒しておくっス。他にも潜んでいる奴がいないとも限らないっスから。」
「分かりました。じゃぁ僕が......。」
そう言ってレギさん達の方に顔を向けた瞬間、レギさんの斧が大型の蜘蛛の頭を叩き割り絶命させた。
「お疲れ様です、レギさん。随分と魔物が多いですね。」
俺は先程の警告の礼も兼ねて、肩に掴まっているシャルの事を撫でながらレギさん達に近づく。
軽く息を吐いたレギさんが斧を戻しながら顔をあげた。
「この辺はあまり間引きが進んでいなかったようだな。手前の方はかなり魔物が少なかったんだが、一つ目のレストポイントを越えてすぐこの状況だと攻略には時間が掛かるかもしれないな。」
「森は隠れる場所も多いし、魔物が増えてくるとかなり大変だよねー。」
「そうっスねー。さっきも頭上の蜘蛛に気付かなくて危ない目に遭ったっス。ケイのお陰で命拾いしたっスよ。」
「いえ、この子が気付いてくれたのですよ。」
「お?そうだったっスか。ありがとうっス!今度美味しい御飯をご馳走するっス!」
俺の肩にいるシャルに向かって笑いかけるクルストんさん。
「まぁ、しかし......やはり森のダンジョンは燃やすのが楽じゃな。」
ナレアさんが物騒なことを言いだした。
「いや、それは流石に......。」
俺が否定しようとするとナレアさんがキョトンとした様子で見返してくる。
「あぁ、ケイは知らないのじゃな。森がダンジョンになった場合、燃やすことは少なくないのじゃ。」
「そ、そうなのですか?」
焼いちゃうの?
驚いて思わずレギさんの方を見ると頷かれた。
「なんじゃ、ケイ。妾の言うことが信じられなかったのかの?」
俺の反応を見たナレアさんが半眼になりながら言ってくる。
「いや、そういう訳じゃないですけど......中々物騒ですね。」
「魔物はダンジョンの外に出てこないからのう。周辺の木々を予め伐採してから火をかけるのじゃ。ダンジョンになった時点で普通の動物は殆ど残っておらぬし、魔晶石は焼いたところで問題ないからのう。」
「な、なるほど......。」
魔晶石を掘るのにどうせ木々は邪魔だからってことだろうか......?
中々豪快なダンジョン攻略法だな......。
「まぁ、中規模以上のダンジョンを燃やすことは殆どないがのう。流石に範囲が広すぎるのじゃ。今回の様な小規模ダンジョンの場合は燃やすことの方が多いじゃろうな。」
「そうなのですね......今回は何故燃やさなかったのですか?」
「指揮を執っておるのがマルコスじゃからな......。」
「えっと......それって、ダンジョンで暴れたかったから燃やさなかったってことですか?」
「間違いなくそうじゃろうな。」
......安全な方法があるならその方がよかったのではないだろうか?
いや、マルコスさんも魔族だからな......自分の欲望に忠実......いや、趣味に妥協を許さない......もとい自分の想いに真っ直ぐな感じだ。
......魔族ってめんどくさ......くはないですね、えぇ、素敵だと思います。
俺はちょっと冷や汗をかきながらナレアさんに笑顔を向けた。
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