第367話 ふと疑問が
「人気が出るのも分かるねー、役者さん達も凄い迫力だったし......話も凄く面白かったよ。」
「うむ。しかも完全な創作では無く、実際にあった話を元にしておるからのう。妾達の後ろにおった者達なぞ三回目の観劇と話しておるのが聞こえて来たくらいじゃ。」
観劇が終わった後、俺達は以前この街にいた時に利用していた宿へと場所を移動していた。
ナレアさんとリィリさんの言う様に、演劇は見事なもので事実として知っている身ながらもドキドキしながら見ることが出来た。
まぁ、若干事実と違う部分もあり、そう言った違いを楽しめたりもしたのだけど......特に最後のダンジョン内での出来事は事実とは全く異なる感じだったしね。
まぁ、あのダンジョンで起こったことは誰にも漏らしていないからね......攻略報告だけはしているけど、その中に物語であったような報告は一切していない。
そもそもリィリさんの話なんかできる筈がないからね。
この街でリィリさんの事情を知っているのはデリータさんだけのはずだ。
「......。」
因みにレギさんは劇が終わってから一度も喋っておらず、今もテーブルに突っ伏す様に頭を抱えている。
まぁ、あの主人公っぷりは......普通に見る分は格好いいし熱いと思うのだけど......本人にとっては堪らないだろうな......。
レギさんの心が折れてこんな風になってしまうのも仕方ない事だろう。
......不屈の英雄なのにね。
俺が余計な事を考えた次の瞬間、未だかつて見た事のない表情を浮かべながらレギさんがこちらを見る。
「言いたいことがあるなら言っていいんだぞ?あるだろ?言いたいことがよぉ。ほら、言ってみろよ?」
悪鬼羅刹もかくやと言わんばかりの表情に、圧倒的な威圧感を込めてレギさんが絡んでくる。
いや、完全に絡み方がチンピラですが......。
「いや、今のはケイが悪いじゃろ。」
「うんうん、どう聞いても間違いなくケイ君の失言だよ。」
「......一言も口に出していないのですが?」
「おい、俺が話してるだろ?何処見てんだよ、こっち見ろよこら。」
......レギさんが完全にグレた。
こんなガラの悪いレギさんは初めてだ......今日は色々なレギさんの姿を見てしまう日だな。
「......あーひとつ気になったのですが。」
「何だよ、あぁん?」
すっごい睨みを利かせながらレギさんが聞いてくる。
とりあえず、やさぐれているレギさんを元に戻すためにも話を進めよう。
「さっき見て来た演劇、誰が作ったのでしょうか?」
「......あ?」
レギさんらしくない返事を受けつつ俺は言葉を続ける。
「確かにレギさんはこの街では結構有名ですけど、それは知人の多さ、冒険者としての顔の広さという意味でのことだと思います。確かにダンジョン攻略という偉業を成した時点でさらに知名度は上がったと思いますけど、だからと言ってレギさんの今までの人生を知っている人がどれだけいるのでしょうか?」
「......。」
先程までのチンピラ的な態度が消え、いつものようにレギさんが考える様に眉を顰める。
「冒険者としてのレギさんの活動は......ギルドなら知っているかもしれませんが、普通そんな個人情報をギルドが渡したりしませんよね?でもレギさんの経歴といい、依頼中の描写といい、かなり深い部分まで掘り下げられていました。あの舞台におけるレギさんの情報量は、ちょっと知り合い程度の物じゃなかったと思います。」
この世界は俺が元居た世界に比べて、個人情報の扱いはかなりゆるゆるだとは思うけど......いくら何でも、本人のあずかり知らぬところであんな風に細かい経歴まで出されるのはおかしいだろう。
「確かに......あまりの衝撃にすっかり失念していたが......俺の事だけじゃなくヘイルやエリア達の事まで......名前は違ったが出ていたからな。」
「そうだねぇ、私も名前違ったし村を一緒に出たことになってたけど、皆の妹分って役どころは一緒だったね。」
レギさん以外の登場人物は皆名前が違っていた......勿論俺もだ。
これは情報が無かったと言うよりも、レギさん以外の情報は伏せたと考える方が自然だろう。
特に俺なんかは一緒にダンジョンを攻略した人物として名前が出されているからね。
調べれば確実に分かるはずだ。
「正直、あそこまで色々と知っているのはケイくらいなものだが......。」
「流石に僕にあんな舞台を作る暇はありませんでしたね。それに今最近の話なら兎も角、僕に打ち明けてくれたレギさんの過去を軽々しく他の人に話したりはしないですよ。」
「あぁ、分かってる。すまねぇ、そういうつもりじゃなかったんだ。」
「いえ、大丈夫です。僕も分かっていますから。」
レギさんが俺の事を疑ってそう言ったわけじゃないのは分かっていたけど、何か反論したみたいになっちゃったな。
「それにしても、よくケイはそんなことに思い至ったのう?」
「え?そうですか?」
「うむ。妾達の感覚からすれば、偉業を成した者が謳われるのはそう珍しくないからのう。ほれ、吟遊詩人がおるじゃろ?あやつらがそういった偉業や功績を歌にするからのう。じゃからあまり違和感は無かったのじゃが......確かに言われてみれば、少しレギ殿の事に詳し過ぎるきらいがあるのう。」
ナレアさんが疑問に思った理由を説明してくれる。
「あぁ、なるほど。そう言えばよく物語を歌っているのを酒場とかで聞いたりしましたね。僕がそういう風に思い至ったのは......僕の故郷では個人情報の取り扱いってかなり厳しかったですからね......。」
ついでに言えば、著作権とか肖像権とかそう言った物が気になったというのもあるだろう。
勝手にレギさんの名前を使って商売してもいいのだろうかと思ったのだ。
「なるほどのう......妾達にはあまりピンとこんが......自分で宣伝せずとも名が売れるのは悪くないのではないかの?」
「名が売れるとやっかみを受ける事も増えますし、必ずしもいい事とは言えないかと。」
「まぁ、確かにそうじゃのう。」
それに今回の件では、レギさんにとってあまり踏み込まれたくない部分にまで踏み込まれていると思うし......きっちり話を付けた方が良いかもしれない。
「はは、ケイ。そこまで心配してくれなくて大丈夫だぜ?一応、ケリがついたことだしな。それに......。」
そこで言葉を切ったレギさんがリィリさんの方を見る。
「......悲しくて辛いだけじゃなかっただろ?今この時に繋がっていると思えば、悪い話じゃない。」
「レギにぃ......。」
リィリさんが嬉しそうに微笑みながらレギさんの名を呼ぶ。
そんなリィリさんに笑い返したあとレギさんは言葉を続ける。
「とは言え、俺の名前を使って儲けている奴らがいるのは確かだ。思いっきり恥ずかしい目にも合わされているし......文句の一つも言ってやる必要はある。」
「それは正当な権利だと思います。」
気が落ち着いて来たのか、少し冗談めかしながらレギさんが言ったので俺も同意する。
「明日ギルドに行って話を聞くか。何かしら情報はあるだろ。」
「あー、情報と言えば......この街にはファラの部下による監視網が張り巡らされているので......多分聞けば一発で分かると思いますが......どうします?」
「そうだな......まぁ、切羽詰まっているわけでもないし、明日ギルドに行って、その後で知り合いの所に顔を出して......その上でめぼしい情報が得られなかったら頼らせてもらうとするか。」
「了解です。デリータさんの所にも行きますよね?」
「そうだな。あいつの所には顔を出さないと、文句を言われそうだ。」
「あはは。僕も挨拶したいのでギルドとデリータさんのお店はお供させてください。」
俺とレギさんが明日の予定を話しているとナレアさんがリィリさんに耳打ちをしていた。
「あぁ......うん、分かったよ。そんなに気にしなくてもいいと思うけど......二人で行こうか。」
どうやらナレアさん達も行きたい所があるみたいだね。
明日は別行動かな?
「レギにぃ、最初にギルドに行くよね?」
「あぁ、そのつもりだ。」
「じゃぁ、ギルドまで私達も一緒に行くよ。その後はナレアちゃんと二人で行きたい所があるから......夕方くらいに合流してヘイルにぃ達の所にお参りに行こう。」
「おう、了解だ。」
そんな感じで明日の予定を決めていく。
この街には少しのんびりと滞在するつもりだけど、先に挨拶をしておいたり済ませておきたい用事はあるよね。
そう言えばクルストさんはこの街に戻ってきているのだろうか?
明日ギルドで確認してみよう。
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