第368話 おや?ギルドの様子が
冒険者ギルド。
元々冒険者を管理することを目的とした組織ではなく、冒険者へと仕事を斡旋するための集まりがその起源と聞いている。
現代では奔放な冒険者をなんとか管理しつつ仕事の斡旋、そして何よりダンジョンの管理や攻略を主導しているギルドは国際的にも広く認められ、所属する冒険者の持つ登録証は国を跨いで身分を証明してくれる信頼性の高いものとなっている。
俺が冒険者ギルドに登録して冒険者となったのは手軽に身分証明が出来る冒険者ギルドの登録証が欲しかったからだ。
そんな、俺にとってこの世界における身分を証明してくれる大事な機関......始めて身分証明証を発行してくれたギルドは、あの時の様子とは大きく異なる姿を見せていた。
「なんか......めちゃくちゃ人多くないですか?」
「あぁ、こんなに混雑したここを見るのは初めてだぜ。」
「若い子が多いかな?もしかしてみんな新人?」
「新人というか......登録しに来ている感じじゃないかの?」
ギルドの前で唖然としている俺達の視界には、ギルドの外にまで溢れている人の列があった。
確かにリィリさん達の言う様に、ギルドの外まで並んでいる人達は比較的若い人が多く、装備も一般人と大差ない人たちが多い。
初級冒険者、もしくはこれから冒険者になろうとしている人達である可能性が高いように思うけど......それにしてもこの行列は一体......。
「これ、僕達も並ばないとギルドに入られないのですかね?」
「「......。」」
俺の言葉に皆が黙り込む。
人気ラーメン店もかくやと言わんばかりに並ばれているのを見ると......はっきり言って回れ右して帰りたくなる。
「あ、まって。並んでいる子達の脇から普通の冒険者がギルドの中に入っていったよ?」
「......並んでいる奴に、何のために並んでいるか聞いてみるか。依頼者や仕事の報告に来た連中までこの行列に並んでいるとすれば俺達も並ぶべきだろうしな......。」
そう言ってレギさんが並んでいる人に近づいて行って声を掛ける。
「すまない、少し話を聞きたいんだが......。」
声を掛けられた年若い......まだ少年と言った感じの男性がレギさんを見上げて動きを止める。
まぁ、レギさんは見た目がアレだからな......あのくらいの子だと間違いなくビビる。
若しくは逃げる。
「冒険者ギルドに用事がある場合、この列に並ばないといけないのか?」
言っている事は非常に普通の事だと思うけど......聞かれている本人にしてみれば威圧感が半端ないだろう。
体格もそうだし、顔も強面......頭部には一切の曇りは無い。
全身これ威圧感と言った感じだ。
そんなレギさんが俺の頭を掴みながら掌に力を込めている所を見れば、彼のように腰を抜かしても仕方ない事だろう。
「......あの、すみません。とりあえずその子と僕の頭が大変なことになっているので離して貰えませんか?」
「......まぁ、こんなところで騒ぎを起こすのもな。すまない、驚かせたな。それで、どうだろうか?」
「え......あ、はい!あ、いいえ!」
......完全に少年は混乱しているようだね。
流石にクルストさんみたいに吊られることは無かったけど......目がちかちかする......。
レギさんも少年の様子にバツが悪くなったのか頬を掻きながら困った様子になっている。
「えっと......用事があるだけなら並ばなくていいってことか?」
尻もちをついている少年に手を差し伸べながらレギさんが改めて問いかけると、少年はバネで出来た玩具のごとく跳ね起きながら返事をする。
「あ、はい!そうです!この列は冒険者登録をするための列です!」
「そうか、ありがとよ。助かった。」
そう言ってレギさんが少年から離れようとしたところ、少年が慌てたようにレギさんに声を掛ける。
「あ、あの!すみません!レギ=ロイグラントさんでしょうか?」
少年がレギさんにそう尋ねると列に並んでいた人達から騒めきが上がる。
なんとなく......この列を作った原因が分かった気がする。
これは......レギさんの回答次第では大変なことになるかもしれない......。
レギさんもそれが分かったのか答えに窮しているみたいだ。
「あ、やっと来られたのですね!お待ちしていました。ささっ、こちらへどうぞー。」
そう言ってレギさんに声を掛けて来たのは、いつも対応してくれたギルドの受付のおねーさんだ。
どうやら列の整理をしてみたいだけど、こちらの様子に気付いて助けに来てくれたみたいだ。
「あ、お話し中でしたか?でも......すみません、こちらも急ぎの案件なので......君、ごめんね。」
「あ、いえ!こちらこそ、急いでいるのにすみませんでした!あの......がんばってください!」
「お、おう。ありがとな。」
「では、こちらに。」
受付のおねーさんがレギさんを連れてギルドの入り口に向かって行くので俺達もついていく。
俺達......というか、レギさんが通り過ぎる際、皆目を輝かせながらレギさんの事を見ている。
「これは......間違いなくアレのせいですよね?」
「そうだねーアレのせいだろうねぇ。」
「ほほ、あの物語は一攫千金を狙った冒険譚ではなく英雄譚だったからのう。年若い者達が憧れてしまうのも無理からぬことじゃろう。」
「それにしても効果が凄すぎませんか?演劇が始まったのがいつからか分からないですけど、毎日新人がこんなに列をなしているのですかね......?」
この冒険者ギルドはそんなに大きくないとは言え、ギルドの外に二、三十人くらいは並んでいる。
中で並んでいる人達もいるだろうから全部で四十人程だろうか?
手続きはそこそこ時間が掛かると考えても......毎日こんな人数が新規登録していたら......。
受付のおねーさんについて冒険者ギルドの中に入ったが......うわ......ごった返すとまではいかない物の、明らかに俺がここで仕事を受けていた頃よりも人が多い。
特にカウンター前と依頼の貼ってある提示版の辺りは人口密集率が相当高いな。
俺達がギルドの様子に驚いていると、受付のおねーさんに案内されてレギさんがギルドの奥の方に連れて行かれていた。
どうしたものかと顔を見合わせていると、俺達を振り返ったレギさんが手招きをして俺達を呼んだので慌てて後を追う。
「あぁ、リィリさんお久しぶりです。それにケイさんも。一緒にいらしていたのですね。」
「御無沙汰しています。」
俺は受付のおねーさんに頭を下げる。
どうやら少し慌てていたのかレギさんの事しか目に入っていなかったようだ。
この人は俺が初めて冒険者ギルドに来た時から色々とお世話になっている方で、初級冒険者の間はずっとこの人に依頼を受ける時の相談をしていた。
まだこの街に来て右も左も分からなかった俺が一番お世話になったのは、レギさんを除けばこのおねーさんかデリータさんのどちらかだと思う。
レギさんを除いた時点で一番なのだろうかって気もするけど......まぁそれはそれだ。
俺が心の中でまたしょうもないことを考えていると、受付のおねーさんがナレアさんの方を見る。
「えっと、そちらの方は......?」
「あぁ、彼女も俺の仲間だ。上級冒険者だぜ?」
そう言ってレギさんが受付のおねーさんに笑いかける。
「え!?申し訳ありません!」
レギさんの言葉を聞いた受付のおねーさんが表情を一気に変えて立ち止まり、腰を直角に曲げて謝る。
「ほほ、気にする必要はないのじゃ。妾はこの辺りで活動しておらぬのでな。知らなくても当然というものじゃ。」
ナレアさんは普段通りの様子で顔を上げる様に受付のおねーさんに言う。
おねーさんの恐縮ぶりからみて......俺が思っていた以上に上級冒険者って偉いのかな......?
レギさんに前話を聞いた感じではかなり特殊な人達って感じだったけど......気難しい人が多いのだろうか?
もう一度ナレアさんに謝った受付のおねーさんが案内を再開する。
「ところで何処に向かっておるのじゃ?」
「今はギルドがこの状況ですので......表側で迂闊に名前を出すと大変なことになります。その事もあるので、レギさんがギルドに来られたらギルド長の所に案内するように言われております。」
え......?
ギルド長の所に向かっているの?
てっきり個室かなんかで話すものだとばかり思っていたのだけど......。
この街のギルド長には会ったことなかったな......隣の......ダンジョン攻略記念祭があった街のギルド長とは面会したけど。
まさかレギさん一人でギルド長と会うのが嫌だから俺達を呼んだ......いや、レギさんに限ってそれは無いか。
まぁ、色々と話を聞くならギルド長はいい相手かもしれないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます