第219話 日々勉強
アザル兵士長の顔をそれぞれが確認した後、同じ組織の者達の顔も一通りファラの目を通して確認させてもらった。
もしかしたらそいつらもあの時神域にいたのかもしれないけど、顔を見たのは金髪にーちゃん......アザル兵士長だけだったからな。
あの時は生まれて初めて矢を射かけられたり、崖を転がり落ちたり、ゴム無しバンジーさせられたりと散々な目に合わせられている。
シャル、マナス、ファラも物凄く殺る気満々だ。
あの様子だとファラは寸暇を惜しんで相手の事を調べ上げてくれる気がする。
何かしら繋がりを見つけることが出来れば、おそらくファラなら相手の組織までたどり着いてくれるに違いない。
俺達は領都での情報収集をファラに任せ、一度センザの街に戻ってきている。
今回判明した情報をカザン君達に伝えなければならないし、今後の事を話し合わなければならないからだ。
残念ながらカザン君達は丁度会議中だったようで、応接室にて会議が終わるのを待たせてもらっている。
早めに情報を伝えた方がいいとは思うけど、誰も会議に近づかないように厳命されているらしく俺達が戻ったことを伝えられていないらしい。
まぁ、事前に連絡もなく戻ってきた俺達が悪いのだけどね。
アザル兵士長が今回の件の黒幕と分かったことでカザン君のお父さんの汚名を雪ぐことのできる可能性も見えてきた。
カザン君達にとっても、俺達にとってもかなりの進展だと思う。
俺達が領都に向かってすぐに色々な情報を手に入れてしまっているから、ずっと密偵として黒幕の事を調べていたトールキン衛士長には申し訳ないとは思うけど......元々こちらの密偵を送り込んでいたってことで納得してもらおう。
カザン君の依頼を受けた時点でファラを領都に送り込んでいたけど......普通
そんな簡単に情報を得ることは出来ないよね。
まぁ、ファラ達は全力で調べてくれたわけで、全く簡単ではないと思うけれど......。
少なくとも常識の範疇に無いのは間違いないだろう。
カザン君はともかく......他の人達は信じてくれるかなぁ......?
「どうしたのじゃ?」
不安が顔に出ていたのか、隣に座っていたナレアさんが気遣わし気に顔を覗き込んでくる。
アザル兵士長の顔を確認して以降、皆に少し心配をかけている気がするな。
「いえ、大したことじゃありません。ファラ達の情報収集速度が速すぎてセラン卿達に信じてもらえるか心配になりまして。」
「ほほ、なるほどのう。確かに俄かには信じられぬ速度と情報量じゃな。本来であればまだ領都に向かっている最中と言ったほどしか時間が経っておらぬからのう。」
「あらかじめ領都で調べて貰っているとは伝えていますけど......まず領都まで往復してきたと言っても信じてもらえないですよねぇ。」
「一応領都に行った証拠として領都で売っている土産物を買ってあるがのう。領都まで行った証拠としては弱いのう。」
「フロートボードで誤魔化せませんか?」
「ふむ、悪くないかもしれぬな。信じてもらえぬようであれば......まぁほぼ信じてもらえぬとは思うが......その場合はフロートボードを出すとしよう。」
「ありがとうございます。」
実際は一個しかもっていないフロートボードだけど......そういう物を持っていると見せれば少しは説得力が出てくるだろう。
それにナレアさんが魔術師としていくつか魔道具を作ってセラン卿達に売っているからね。
とっておきの魔道具があるってことで納得してもらえそうな気がする。
「しかし......フロートボードは妾のとっておきだったのじゃがのう。今となってはただの隠れ蓑じゃな。」
「す、すみません。」
「ほほ、問題ないのじゃ。妾も秘密が多くなったものじゃな。」
「秘密は女を美しくするって言うよねぇ。」
ナレアさんを挟んで反対側に座っているリィリさんが会話に参加してくる。
......そういうミステリアスな感じの話だったっけ?
まぁナレアさんとリィリさんが結託している間は余計な突っ込みは無しだ。
絶対に碌なことにならない。
レギさんも中空を見つめているしね。
俺もレギさんくらい危機回避能力が欲しいなぁ......いや、たまにレギさんも逃げ切れない時があるけど。
とりあえず今はレギさんを倣って中空を見つめることにしよう。
ナレアさんとリィリさんの話声を聞き流しながら俺は出されているお茶を啜った。
暫く放心したようにぼーっとしていたら扉がノックされていることに気付いた。
「リィリ姉様、ナレア姉様、レギ兄様、ケイ兄様。ノーラです。今よろしいでしょうか?」
「む?ノーラか。入ってもいいのじゃ。」
「失礼します。おかえりなさいませ!姉様方!兄様方!」
ゆっくりと扉を開けて部屋に入って来たノーラちゃんだったが、ナレアさん達の顔を見たとたん破顔して駆け寄ってくる。
「ただいま、ノーラちゃん。いい子にしてたかな?」
「はい!兄様達のお手伝いは出来ないですが、ご飯を作る手伝いを母様と一緒にしたりしていたのです。」
「そっかー、上手に出来た?」
「はい!今度リィリ姉様にも作ってあげるのです!」
「わー、楽しみだなー!じゃぁお礼に今度簡単に作れる美味しいご飯の作り方を教えてあげるよ!」
「ありがとうございます!リィリ姉様!」
ノーラちゃんが嬉しそうにリィリさんに抱き着く。
ナレアさんはその横で優しい顔で二人を見つめている。
皆楽しそうだね。
ノーラちゃんは作ったご飯の話をしながらリィリさんが買ってきた領都のお土産を頬張っている。
おまんじゅう......みたいなものだろうか。
口の中の水分を奪いそうだな......そう思っていたらナレアさんが立ち上がり、部屋の隅に置いてあったお茶を入れてノーラちゃんの前にお茶を置き、俺達の分のお替りも用意してくれた。
お茶請けはノーラちゃんが食べていたおまんじゅうのおすそ分けだけど......これ皆へのおみやげだったのではないのかな?
俺達だけでおまんじゅうを全部開けてしまったけど......まぁ他にもお土産は買ってあるからいいのかな?
「カザン君達はいつも会議をしているのかな?」
「はい!兄様達は毎日会議をして......お昼くらいにいつも終わるのですがその後も忙しそうにしていらっしゃいます。」
俺がノーラちゃんにカザン君達の事を聞いてみると、少しだけ心配そうな様子でノーラちゃんが教えてくれる。
それにしてもカザン君は頑張っているようだけど......ノーラちゃんの様子を見るにかなり大変みたいだな......。
後で少し......強化魔法をかけてあげようかな?
恒常的な治癒力向上と体力向上、後は軽く思考速度の向上辺りをかけてみるか。
体力向上をかけたことによって余計無理するとかじゃないといいけど......。
って考えるととりあえず体力を回復させるだけに留めておいた方が......いやそれはそれで回復したからと無理をするような......。
寧ろ弱体魔法で強制的に寝かせるか......?
「よいか?あれが余計な事に気を回しすぎて本末転倒なことを考えている顔じゃ。」
「勉強になるのです!」
「良く観察するのじゃ。ノーラもいい女になりたくば男の考えていることをその者以上に把握するのじゃ。把握したのならば後は......。」
ノーラちゃんの耳元に口を寄せてなにやらごにょごにょと話すナレアさん。
なんだか碌でもないことを教え込んでいるきがするな。
というか......なんか教材にされている気がする。
「なるほどなのです。勉強になるのです!」
「ケイは分かりやすいのでいい練習台......初心者向けじゃ。良く観察するのじゃ。」
「はい!ナレア姉様!」
されているようなじゃない、これは徹頭徹尾教材扱いだ!
ノーラちゃんが物凄く真剣な表情で俺の事を凝視し始めた。
......そうかこうやってこの世界の人達は読心術を鍛えていくのか。
ノーラちゃんの熱い視線を受けつつ、俺はカザン君達が早く来ないかなぁと黄昏るのだった。
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