第198話 カルナ
ファラが領都から戻ってきてくれていればファラにお願いしたところだけど......グルフに乗って旅立ったマナスを見送ったのは昨日の夜の事。
シャルがいなくても意思の疎通は問題が無いようで、二人は手紙の配達の為に夜を徹してネランさんの乗る馬車を探しに行ったのだ。
ネランさんの乗る馬車にはファラの指示でネズミ君がこっそりと同乗しているらしく、ある程度距離が近づけばマナスが把握できるのだそうだ。
俺は肩に乗っているマナスを撫でながら二人の旅がスムーズに行きますようにと......母さんに祈った。
......当然だけど、マナスは分体を送り出しているので俺の肩とノーラちゃんの肩にも乗っているのだが。
手紙が届いたらすぐに教えてもらえるのは非常に助かるね。
向こうもセンザの街を目指しているのだからそう遠くない位置まで来ているとは思うのだけど......流石にどの辺にいるかまでは分からない。
この場にファラがいたら、もしかしたら分かるかもしれないけど......。
まぁまだ領都で頑張ってくれているのだろうファラに頼りすぎって気もするけど......ファラは本当に頼りになるからなぁ。
「ケイ。そろそろ行くぞ。」
送り出したマナスとグルフ、そしてファラの事に思いを馳せていたらレギさんに声を掛けられる。
「わかりました。」
今日はカザン君を連れてセンザの街に再び潜入する。
勿論カザン君はしっかりと変装をしている......勿論、カザン君美少女バージョンだ。
演技指導も昨日の夜からリィリさん達にみっちりと叩き込まれている。
若干......カザン君達のご両親も、息子さんがそんな目に合うなんて考えてもいなかっただろうなとか思ったりもしたが......流石に口には出さなかった。
リィリさん達には俺が何を考えているかバレていた気もするけど、必死に足運びや立ち居振る舞いを覚えようとしていたカザン君にはバレていないはずだ。
と言うかバレたらカザン君が膝から崩れ落ちそうだよね。
「カザン大丈夫か?」
「えぇ、問題ありません。」
レギさんの問いに微笑みながら答えるカザン君の姿は......どこからどう見ても楚々とした雰囲気の黒髪ロングの美少女だ。
演技指導もばっちりのようだね。
これならカザン君とバレることはほぼないだろう。
「またケイが見惚れておるのじゃ。これは本当に目覚めたかもしれぬのう。カザン押し倒されぬように気を付けるのじゃぞ。」
「......。」
カザン君が微妙に俺から距離を取る。
「いや!無いからね!?」
「そ、そうですよね!?」
カザン君が慌てて返事をしてくる。
何故かノーラちゃんがキラキラした目で俺達を見てくるが......何やらノーラちゃんが危険な道に足を踏み入れていそうな......取り返しのつかないことをしてしまったような......。
いや、問題ない。
......だって個人の趣味だからね!
ノーラちゃんのなんとも言い難い視線を背に受けながら俺はレギさん、カザン君と共にセンザの街に再び向かった。
「話に聞いていたようにセンザの街は普段通りと言った感じですね。私と妹の......手配書は出ているようですが、警備を厳重にしていると言った感じはありません。」
センザの街を知るカザン君から見ても街の様子はいつもと同じみたいだね。
「とりあえず確保してある宿に向かおうと思うが、その前に行きたい場所はあるか?カルナ。」
レギさんに問いかけられたカザン君は少しだけ考えるそぶりを見せたが横に首を振った。
ちなみにカルナというのがカザン君の偽名だ。
「宿に着いたら、ネズミ君から手紙を届けた後の様子を教えてもらえる手はずになっているからそれを聞いてからどう動くか決めよう。」
「わかりました。」
「宿に着いたら俺は一度一人で外に出ようと思う。使用人の家の様子を確認出来たら二人で待ち合わせの場所に移動してくれ、現地で合流する。」
「分かりました。マナス、レギさんの方にもお願い。」
俺がマナスに声を掛けると分裂したマナスがレギさんの肩に登る。
「もし、ネズミ君から話を聞いて使用人さんと会うのが不味そうだったら、マナスに連絡してもらうようにするのでお願いします。」
「おう、了解だ。その場合は宿に戻る。」
「問題が無いといいのですが......。」
「そうだな。」
そこまで話したところで丁度宿にたどり着く。
レギさんはそのまま宿には入らずどこかに出かけていく。
俺とカザン君が取っていた部屋に上がろうとした時、カウンターにいた宿のおじさんにあまり大きな声は出すなよとニヤニヤしながら言われたのは......何故だろうか?
部屋に到着後あの酔っ払いおじさんの家を見張っていたネズミ君から聞いたところによると、手紙を受け取った当初は慌てていたもののその後怪しい動きはなく、今日の会合に向けて前向きな感じのようだ。
どうやら一番穏便な方法で事を進められそうだね。
俺達はカザン君とあの家の人達を直接会って話が出来るように考えた段取りで事を進めることを決める。
誰が来るかは分からないが、まず少し遠回りをしてもらう形で待ち合わせの場所には向かってもらい、その途中でナレアさんの作った魔道具を受け取ってもらうことになっている。
ナレアさんが言うには魔道具を使って遠距離で監視している者がいる場合、その魔道具によって感知出来るのだそうだ。
尾行なんかはネズミ君達によって監視されているから、少し長めに歩いてもらえばすぐにでも発見出来る。
家を監視している限りでは他に監視されているような様子はないようだけど......念には念を入れてといった所だ。
「そろそろ来るみたいだよ。」
「そうですか......。」
俺の横にいるカザン君は少し緊張した様子だ。
カザン君からすればこの街を離れてから初めてセラン家の話を聞くことになる。
どんな話が出てくるのか......出来ればカザン君達にとっていい話だといいのだけど......。
今俺達がいるのは拠点としている宿とは別の宿、今いる部屋の隣の部屋に呼び出しているのだが......どうやら来たようだね。
誰かが部屋に近づいて来て......ドアを開けて入っていく音がする。
同時に窓からネズミ君が一匹はいって来た。
監視をしてくれていたネズミ君だろう、すぐにシャルが話を聞いて報告をしてくれる。
『ケイ様、隣の部屋に件の使用人が来たようです。男と女が一人ずつ。不審な行動はなく、指示通りここに来る途中で魔道具を受け取っているそうです。ファラの配下が見る限りでは尾行もないようです。街中なので絶対とは言い切ることが出来ませんが、私もこちらを監視している者はいないと思います。』
「ありがとう、シャル。カザン君隣の部屋に男性と女性が一人ずつ来たみたい。尾行は無し、こちらの指示にもちゃんと従っていたみたいだよ。」
「そうですか。」
カザン君が緊張しているような、安心したようなそんな笑みを零す。
いや、見た目はカルナさんスタイルだけど。
「じゃぁカザン君、打ち合わせ通り最初は俺が一人で行くね。呼んだら入ってきてくれるかな?」
「わかりました。よろしくお願いします。」
まずは安全の為に俺が先に使用人さんの話を聞くことになっている。
それに辺り猛反対したのが一人......。
今現在、全身から不満のオーラを出しているシャルだ。
もはや殺気レベルまで言っているかもしれないその雰囲気は、今にも隣の部屋に殴り込みに行きそうだ。
「シャル、ごめんね。流石にいつも通りシャルを肩に乗せていたら俺が顔を隠す意味が無いからね。」
今俺は黒いマフラーのようなものを巻いて顔を隠しているのだが、黒い子犬を肩に乗せていたら......結構目立つというか一瞬でバレると思うんだよね。
少なくともこの世界に来てから俺以外に肩に子犬やらスライムやらを乗せている人を見たことないしな。
そう言うわけでマナスは懐に入れて付いてくるけどシャルはお留守番だ。
『その件なのですが......体を大きくして横について行ってはダメでしょうか?』
「ん?あーそれなら......いいかな?」
『では!そのようにいたします!』
言うが早いか、シャルは姿を変化させて大型犬の成犬サイズに変化する。
「じゃぁ、行ってくるね。マナス、カザン君への連絡と護衛はよろしくね。」
カザン君の肩に乗ったマナスが跳ねる。
今回のマナスはいつも以上に分裂しているな......五体かな?
......皆本当に頼りになるよなぁ。
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