第239話 作戦終了



マナスを通じてナレアさんからアザル兵士長の部下の捕獲に成功したと連絡がきた。

レギさんとリィリさん、そしてファラからは既に連絡がきていたがナレアさんだけ少し時間が掛かっていたので心配していた所だったのだけど......良かった。


「後はトールキン衛士長の部下の方達だけど......。」


アザル兵士長の部下は結構な実力者なようなので、トールキン衛士長の部下の方はチームを組んで捕獲作戦に当たっている。

更にネズミ君の監視もあるので逃げられることはないと思うけど......一応距離の近いレギさんもそちらのバックアップに向かう手はずになってはいるから問題はないはずだ

とは言え、怪我人が出ていないとは限らないけど。

ちなみにファラの所にはリィリさんが向かっている。

こちらは純粋に捕獲した相手の引き取りにだけど。

レギさん達が捕らえたアザル兵士長の部下はトールキン衛士長の部下の方に預けて今頃留置所に運ばれている所だろう。

アザル兵士長に関してはおびき出す必要がある上、勘が鋭く待ち伏せをしていると警戒されかねないので......という理由をつけてトールキン衛士長の部下の方に控えてもらうのは遠慮させてもらった。

実際は色々と見せられないものが多いからってのが理由だけどね......。

そんなわけでアザル兵士長の引き渡しは俺が所定の場所に連れて行かなくてはいけない。

意識は戻らないとは思うけど、一応手足の拘束はしっかりしてある。

街の外まで出ているとは言え、大した距離ではない。

とりあえず引きずって戻るか......。


『ケイ様、よろしければ私がその者を運びますが。』


マナスへのお説教が終わったらしいシャルが声を掛けてくる。

どんなお説教をしていたのか聞こえてはいなかったけど......まぁ、今回マナスはちょっとやりすぎた感じがあったから仕方ないね。


「いや、俺が引っ張っていくよ。シャルは一応周囲の警戒をお願い。マナスは皆との連絡をお願いね。」


『承知いたしました。』


シャルとマナスが返事をくれたのを確認してから、俺はアザル兵士長の襟首を掴み領都への帰途へ着く。

まだレギさんから最後の一名の確保の連絡はないけど大丈夫かな?


「マナス。レギさんの方はどうかな?」


『まだ移動中だそうです。どうやら予定していた捕獲位置を突破されたようです。』


「レギさんが突破されたってことじゃないよね?」


『はい、配置されていた者達が突破されたようです。現在ファラの配下の誘導に従って移動中とのことです。』


「なるほど......レギさんが追い付けば問題ないと思うけど......。」


レギさんが裏をかかれて取り逃すとは思えない。

身体能力が相手より劣っていたとしてもレギさんならば対応出来るはずだ......強化魔法がかかっているし、身体能力的に劣るって可能性はあまり考えにくいけど......。


『それとケイ様、ナレアが伝えたいことがあるそうです。』


「ナレアさんが?少し時間が掛かっていたみたいだけど、その事かな?」


『担当した相手が想定以上に強かったようです。ですがそれよりも急を要することだそうで......捕らえた相手が口の中に魔道具を仕込んでいたらしいです。』


「口の中に魔道具を......?ってかナレアさん口の中を調べたの?」


『奥歯が魔道具だったそうです。』


しかも奥歯か......いや前歯だと目立つしな......。

うーん、俺も調べた方がいいよね......。

俺は意識を失っているアザル兵士長の口に視線をやる......少なくともこの状態では魔道具は見えない。

口を閉じているのだから当然だね。

俺はため息を一つ吐くとアザル兵士長の顎に手をかけて開かせる。

......上の奥歯に仄かな光が見える。

下の奥歯だったらまだ見やすかったのだろうけど......非常に見にくかった......。


「アザル兵士長も歯に仕込んでいるな......流石に魔道具の効果はまだ分かっていないよね?」


『はい。魔道具の効果はまだ調べていないとのことですが、とりあえず外しておくことをナレアは推奨しています。』


確かに......武装解除はしておくべきだけど......入れ歯......いや差し歯か?

これどうやって抜いたらいいの?

指突っ込んでって......できるか?

いや......出来るとは思うけど......非常にやりたくない......鉗子的な物でもあれば......。

あ、魔法でやればいいんだ。

木か石を変形させて魔道具を掴んでそのまま抜けばいけるはず。

うっかり割れたとしても......まぁ、ナレアさんに怒られるだけで済むだろう。

ってかナレアさんはなんで相手の口の中を調べようと思ったのか......。

俺は地面に転がっている石を拾い変形させていく。

口の中に伸ばし、魔道具を挟んで......一気に引き抜く。

......うわ......血が出たぞ。

とりあえずこれは治療しておこう......俺やマナスが殴ったところは治療していないのだけど......なんとなく治してしまった。

これはどういった罪悪感なのだろうか?

殴って出来た傷に関しては気にしていないのにな。


「ナレアさん......には伝えられないかな。アザル兵士長の分は回収できたってマナス伝えられる?」


駄目元でマナスに頼んでみる。

マナスは大きく弾んだのでやってみてくれるようだね。

どうやって伝えたのかは後でナレアさんに聞いてみるか。

改めてアザル兵士長を掴んで運び始めたのだが......。


『ケイ様、最後の一人を捕らえることが出来たようです。』


「良かった......レギさんが?それともトールキン衛士長の部下の方が?」


『ケイ様といつも一緒にいる大男が捕まえたようです。』


......シャルはレギさんの名前覚えていないのかな?

シャルは基本的に一対一で念話をするから名前を呼んでいる所を聞いたことがなかったな。

さっきナレアさんの名前は呼んでいたと思うけど......。


「そ、そっか。うん、流石レギさんだね。これでアザル兵士長の部下......檻の構成員を全員捕獲できたね。」


『はい。今回の仕事はこれで完了になるのでしょうか?』


「そう、だね。仕事としてはここまでかな。ここから先はカザン君達の......グラニダに生きる人達の仕事になると思う。」


『なるほど......私としてはこの者から背後にある組織について何としても聞き出したいのですが......ファラに預けるのでしょうか?』


「いや、現時点ではまだファラには任せないかな。カザン君達から協力要請があるか......もしくはカザン君達が調べつくした後にって感じかな。」


『それでよろしいのですか?捕らえたのはケイ様であるのに。』


少し不満げにシャルが言ってくる。


「うん。檻の事は知りたいけど......神域に入り込んだ実行犯はぶん殴ったしね。母さんから気にしなくていいと言われているし、優先度はそこまで高くないかな?まぁ、奪われた魔力がまだ残っている様なら取り返したいんだけどね。」


母さんの魔力がまだ残っているのなら......取り戻したい。

これは神域を出たあの日に密かに掲げた目標の一つだ。


『天狼様の魔力ですか......。』


「うん。母さんから奪ったものを純粋に取り戻したいって気持ちもあるのだけど......今のこの世界において母さんの魔力は非常に危険だと思う。母さんの感覚では大した量じゃないって言っていたけど......恐らく現代においてはとんでもない魔力量じゃないかと思う。」


『そうですね。今の人間は随分と魔力量が少ないようですし、天狼様は......少しおおざっ......いえ!大らかな部分がありますし!魔力の総量が桁違いなので余人からすれば途轍もない量である可能性が高いですね!』


何やらシャルが途中から慌てて言いつくろうような感じになったな。

俺の前ではそんな感じは見せなかったけど......母さんは大雑把なのか......。

そう言えば応龍様も似たような雰囲気の事を言っていたような気がする。


「まぁそんな感じだから檻について話は聞きたいけど、まずはカザン君達の事を優先って感じだね。ところでシャル?」


『はい。なんでしょうか?』


「皆の名前......ちゃんと覚えているよね?」


『......はい。』


微妙に視線を逸らしながらシャルが答える。

これだけ長く一緒にいるのだから覚えていると思うけど......。


「じゃぁ、ちゃんと名前で呼ぼうね?」


『はい、申し訳ありません......。』


若干シャルがしゅんとしながら返事をする。

ちょっと撫でて慰めたくなったけど......それはぐっと堪え、領都に向けて足を速めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る