第141話 大切な物は人それぞれ
朝起きるとファラとマナスが無事に戻ってきていた。
二人を送り出した後ナレアさんに遺跡の話を色々と聞いてかなり心配になったけど、二人とも無事なようで安心した。
今は二人が持ち帰ってきた情報を確認しているのだが......。
『とりあえず、地下三階まではこんな感じです。隠し扉の様なものは発見出来ませんでしたが、魔術によって動く人形が多く徘徊していました。それとここまでは魔物の存在は確認できませんでした......内部はかなりしっかりと原型が残っていて整備もされているように感じました。』
「......。」
「......すごいな。」
黙り込んだナレアさんの横でレギさんがぼそりと呟く。
『そうですね。私も遺跡と言うのはもう少し内部が荒れている物と思っていましたが、地下三階までは崩落している部分も見受けられませんでしたし、少なくとも作られてから二千年以上たっているとは思えない状態です。』
ファラはそう言って感心しているけど......多分レギさんが凄いって言ったのはそっちじゃないと思うよ?
『先遣隊は何カ所かに分かれて殺されていましたようです。遺品が多かった場所はこことここ。後は少数が地下一階の各部屋に......。』
そう言ってファラが尻尾で地図のいくつかの部屋を示す。
そう、地図である。
日の出前に戻ってきたファラとマナスが羊皮紙を欲しがったので渡したら出来上がったのがこれだ。
凄い地図だ......部屋の位置にゴーレムの配置と巡回ルート、遺品の位置も書き込まれている。
「ファラ、さっき地下三階までって言っていたけど四階から先もあるのかな?」
『申し訳ありません。地下四階に降りる階段は確認していますがその先まではまだ調べられていません。』
「いや、こちらこそごめん。夜の間にこれだけ調べて来てくれたんだから十分過ぎる程だよ。」
「あぁ、これはとんでもない代物だぜ。この地図があるだけでかなり危険が減るってもんだ。流石だな。」
『マナスの協力があったからこそです。私だけでは行ける範囲にも限りがありましたから。』
ファラの横でマナスも胸を張っている......気がする。
「ゴーレムはどんな種類がいたの?」
『二階までのゴーレムは三体が一組で動いているようでした。重装一体、軽装が二体です。軽装もそれぞれ形が違っているので役割や攻撃手段は別だと思われます。それと三階にゴーレムは確認出来ませんでした。』
「ゴーレムって連携してくるの?」
『恐らく......。』
流石に手は出していないからその辺は分からないか。
「ナレアさん......その辺はどうなんでしょう?」
ずっと黙り込んで地図を睨んでいるナレアさんに聞いてみるが......反応がない。
しかし薄っすらと笑みを浮かべているような......。
「ナレアさん?」
ナレアさんの顔を覗き込みながら問いかけると弾かれたようにナレアさんが顔を上げた。
「な、なんじゃ?......いやすまぬ、打合せ中じゃったな。」
どうやら相当地図に集中していたらしい。
ただちょっと怖い笑みでした......。
「ゴーレムの件、聞こえていましたか?」
「......う、うむ。えぇと......うむ。三体のゴーレムが一塊で動いているんじゃな?」
どうやら聞こえてはいたようだ......思い出すのに時間はかかったようだけど。
「ゴーレムの連携か......妾は今までそういったゴーレムは見たことはなかったが......恐らく可能じゃ。あれは相当複雑な魔術式で作られておる。正直解析したい魔術の最上位と言ってもいいくらいじゃな。」
ナレアさんは魔術が好きだから遺跡が好きなのか......遺跡が好きだから魔術も好きなのか......。
「っとすまぬ、話が逸れたな。とは言え妾にとっても未知のゴーレムと言える。正直容易い相手ではないじゃろうな......普通のゴーレムでも騎士団が隊を組んで戦っても被害が出るほどじゃ、それがこの数......はっきり言ってその辺の遺跡とは桁違いじゃな。それだけ重要な施設ということじゃろうが......龍王国に何の情報も残っていないということは古い遺跡なのかの?じゃがゴーレムがいるのは比較的新しい遺跡じゃ......これは一体どういうことじゃ......?」
あ、ナレアさんが思考に埋没していく。
「......どうやら思っていた以上に危険な遺跡のようだな。」
「そうみたいですね......ナレアさんが元に戻るまでは少しそっとしておきますか?」
「その方が良さそうだな。ファラ、何か気を付けておいた方が良さそうな事は他にあったか?」
『......罠の類が幾つか発見出来たのですが、他にも魔道具による罠が設置されていた場合私ではその効果が調査出来ません。』
「なるほど......それはナレアに確認してもらうしかないな。」
レギさんが地図を見ながらファラが確認出来た罠の位置を確認している。
「でもこれが研究施設だとして......各階層の役割ってなんでしょうか?」
「役割っていうと、研究施設じゃないのか?」
「上から下まで全てが研究施設じゃないと思うんですよね。休憩所や資料置場。外部とのやりとりをするための応対用の施設。後こんな山奥ですから通いは厳しいですよね?居住施設も必要でしょう。食堂やトイレも必要だと思います。」
「それはそうだよねー、昔の人だって普通に生きていたんだから。」
「なるほど......そう考えると一階にあるのは対外用の施設って感じか?」
「最下層が居住区ですかね?」
「最下層に置くのは最重要の施設じゃないか?」
「私なら最下層は居住区だなー。」
「俺は......研究成果の保管庫とかか?」
「守りたいものや大切な物が最下層ってのは共通ですね。」
「それだとリィリが最下層に置くのは食堂じゃねぇか?」
「それはどういう意味かなぁ。レギにぃ?」
「リィリが重要なのは、食う寝る食うだろ?ってことは居住区に食堂を併設ってとこか。」
なるほど......。
「......だったらレギにぃは最下層にあるのは下水道じゃないの?」
......想像したら少し噴出してしまった。
いや、研究施設の下に排水施設があるのはおかしくないと思うけれど、下水道を施設の最下層に数えるのは......中々シュールだ。
まぁレギさんは嬉々として掃除しそうだけど......。
それを想像して......まずい......笑いが抑えられない。
俺が苦心しているのが伝わったのレギさんに一睨みされるがすぐにリィリさんに視線を戻した。
「おいおい、研究施設の下に下水道があるのはおかしくないんじゃないか?」
「レギにぃにとっては下水道が一番大事でしょ?」
満面の笑みで言うリィリさんを見てレギさんの頭に青筋が浮かぶ、表情は笑っているが血管が笑っていない。
笑っているのに笑っていないのは二人ともか......。
「リィリ......俺は別に下水道が好きなわけじゃないぞ?ただ重要な施設であることは間違いないと思うが。」
「うんうん、知ってるよー大事だよねーとても大事だよねー。じゃぁレギにぃの研究所の最下層には下水道だね!」
リィリさんそろそろやめてください、表情筋と腹筋が崩壊しそうです。
もうなんか下水道を研究しているみたいな感じになっています......。
「......少し向こうで話をしようじゃねぇか、リィリ。」
「向こうに下水道はないと思うけど......そこでいいのかな?」
そう言って武器を手にした二人が立ち上がる......。
......ナレアさんを目を向けるがまだ思考の海を漂っているようだ。
まぁまだ遺跡に出発する様子はないから二人の事は放っておいていいか......。
「ファラ......施設内に人の気配はなかった?」
『......少なくとも地下三階までには全く。生活をしていた残滓もありませんでした。』
先遣隊の生き残りも古代の研究員もいないか......まぁ研究員は生きていたら少なくとも二千歳以上だ。
生きていたら怖い......。
いや......映画とかゲームだとマッドな科学者とかが生き残っていてとんでもない研究とかしていたりするんだよね......。
先遣隊の全滅......人里離れた舞台......バイオでハザードな感じにならないといいな......。
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