第456話 想い



View of ???


魔道具が動きを止めた事を確認して、俺は大きくため息をついた。

あいつがとんでも無い事を言いだした。

いや、それは今に始まったことでは無いが......今回に関しては今まで以上にとんでもない事だと言える。

まぁ、あいつからしてみれば大したことでは無いというのが正直な感想だろう......こうして切り札を用意しているのだから簡単だろとでも言いたげだったしな。

あのすっとぼけた顔を見ると一発殴りたくなるのだが......あいつは研究者であって実働じゃないからな。

任務の難易度なんか気にしたことも無いだろう。

作戦立案もいつも適当だしな。

それに、あいつは俺に頼めば何でも叶えてくれると考えている節がある。

そういうのは自信満々なもう一人の馬鹿にやらせて欲しい。

とは言え......馬鹿は馬鹿で南の方で仕事中らしいからな。

こういう時だけは地下組織の秘密主義って言うのがいい方向に働くよな。

任務だと言えば部下は何の疑問も呈さずに働いてくれる。

それがどんな結果を生み出すとも知らずに。

馬鹿ではあるが仕事はきっちりやる奴だ、上手く部下を使って動いてくれるだろう。

まぁ、向こうが上手くやってくれない事にはこちらも動けないがな。

正直言って気が重い。

出来れば部下に任せたかったが......まぁ、確実に無理だろう。

俺が直接やるしかない。

問題は......成功しても失敗しても、元の生活......仮の物ではあるが......戻ることは出来ないってところだ。

成功した場合はなんとか戻ることが出来なくもないが......失敗した場合は......まぁ、死ぬのはいつもの任務と変わらないか。

そう考えると少しは気が楽に......ならないな。

今回の任務は少し普段と毛色が違う。

必要だとは分かっているが......憂鬱だ。

俺は気持ちを切り替えそっと目の前の扉を開けて外に出る。

俺の今の気分を現すかのようにどんよりとした空気が俺を包んできたが、そんな空気を振り払う様に俺は通路を歩き始める。

やらなければならない以上、この感傷は必要ない物だ。

頭の中で作戦を組み立てる......任務の内容はそんなに難しい物ではない、大丈夫、単純な作戦でいけるはずだ。

相手の動き次第ではあるが、王都内の場合と王都外の場合......出来れば誘導に掛かってもらいたいものだが、その辺は相手次第だな。

頭の中でどう動くかを考えながら歩いていると、ふと気配を感じて視線を横にやる。


「......ネズミか。」


何故かばっちりと目が合ったネズミは、逃げることも無く俺の事をじっと見つめていた。




View of ケイ


レギさん達との近況報告と夕飯を終えた俺は部屋で寛いでいた。

近況報告......いや、あれはそう呼んでいい物だっただろうか?

俺とレギさんはお互いが分かれている間に起こったことを報告し合っていたはずなのに、何故か途中からナレアさんとリィリさんの二人に責められた。

更に、何を責められているのかよく理解していなかった俺達の態度が気に入らなかったのか、それはもう苛烈に責められた。

そんな感じで暫く苦痛の時間を過ごしていたのだけど、落ち着いて来たのか二人のテンションが萎んでいったのでそれを機に近況報告会に戻った。

俺達の方は妖猫様と空間魔法について、それと王城に行って聞いた話を伝えた。

レギさんはギルドで魔物の動きについて情報を仕入れてくれていたけど、コレルの街の件しかまだギルドは得ていなかった。

まぁ、南の大河の方は俺達がいる時に伝令が来たわけだしね。

それにコレルの件にしたって今日の午前中に早馬が来て知らせた訳だし、そう考えるとコレルの事を知っているだけでも相当な物だろう。

恐らく王城から連絡があったとかなのだろうけどね。

やはりと言うか......案の定、魔物の大群が現れるような兆候は見受けられなかったらしく、ギルドとしても突然の事態に首を傾げていたそうだ。

因みに、今日の時点ではまだ攻略記念祭が予定通り行われるか延長されるかはまだ決まっていないそうだけど、俺達の予想が正しければ攻略記念祭は予定通りに開催するのは無理だろう。

まぁ、南の方もまだどうなるか分からないし、もう少し様子を見るしかないだろう。

とりあえず、明日から数日はそれぞれ情報収集に動く。

俺はシャルと一緒にネズミ君達の集めた情報の確認。

ナレアさんは魔道具研究所、レギさんは冒険者ギルド。

そしてリィリさんは店を中心に商人関係の情報を調べてくれることになっている。

檻の魔の手が魔道国に伸ばされている事を俺達は疑っていない。

その狙いが何なのかは分からないけど......恐らく王都で何か動きがあるだろうと踏んでいるのだけど、確証があるわけでは無い。

檻と言う組織が一体何を目的としている組織なのか分かれば、もう少し予想も出来るのだけど......。

そんなことを考えていると部屋の扉がノックされた。

俺は窓の外を見るが......外は真っ暗。

夕飯を食べてから結構経っているし、皆寝ていてもおかしくないと思うけど......誰だろうか?


「はい?誰ですか?」


「......妾じゃ。ナレアじゃ。」


「ナレアさん?どうしたのですか?」


俺は問いかけながら扉を開く。

そこには真剣な表情をしたナレアさんが立っていた。


「うむ......少し話がしたくての。ちょっと良いじゃろうか?」


「え、えぇ。勿論良いですよ。」


俺はそう言ってナレアさんも部屋に招き入れようとしたのだが......。


「う、うむ。あ、いや......部屋ではなくての?行きたい所があるのじゃが、良いかのう?」


「外ですか?構いませんが......。」


「さほど遠くはない......というか、すぐに行ける場所なのじゃ。」


「了解です。」


幸いまだ寝間着には着替えていないのですぐに出ることが出来る。

俺がいつものようにベッドの上にいるシャルとマナスの方に視線を向けると、何故か二人とも動こうとしない。


「......?」


『ケイ様。少々やらねばならないことがありまして。ケイ様の警護はファラの配下を総動員させて貰いたいのですがよろしいでしょうか?』


俺は王都中にいる恐らく万単位いるであろうネズミ君達が、俺とナレアさんの周りを移動する光景を思い浮かべる。


「いや......それはちょっと、駄目かな。監視している場所や人達は優先してもらいたいしね。」


『承知いたしました。では少々数を減らして配備させていただきます。』


「あ、うん。」


いつの間にやらネズミ君達による警護を許可してしまった。

まぁ、別に困る物でもないからいいけどね。

でも二人が一緒に来られないって相当珍しい......というかマナスは分裂出来るのにそれもしないって事?


「お待たせしました、ナレアさん。シャル達は来られないみたいなので二人で出ましょう。」


「うむ......すまんの。」


ナレアさんはシャル達に一声かけてから歩き出した。

しばらく俺達は無言で歩いたのだが、宿を出たところでナレアさんは立ち止まると振り返る。


「幻惑魔法を使うので、ここから飛ぶのじゃ。」


「分かりました。」


俺が返事をするとすぐにナレアさんは幻惑魔法を発動させた後に宙に浮く。

俺も置いて行かれない様にすぐに魔法を発動させる......そんなに遠くには行かないって言っていたけど、飛ばないといけない距離なのかな?

っていうか、飛んじゃったらネズミ君達ついてこられるのだろうか?

そんなことを考えながらナレアさんを追うようにどんどんと高度を上げていく。

かなり高いな......こんなに高く飛んだのは初めてかもしれない。

雲にまで届きそうだ......雲一つない空だけど。

魔道国はあまり山がないから遥か遠くの方まで景色が見える。

暗視があるからだけどね。

上空の方は寒いけど、気温や風も天地魔法によって操作しているので不快感は全くない。

そんなことを考えているとナレアさんがゆっくり減速して、やがて空中に停止した。

俺がナレアさんと並ぶように移動すると、ナレアさんが片手を俺に差し出してくる。

俺はその手をそっと握り、空中に止まった。


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