第455話 合流
「二人ともおかえりー。」
俺とナレアさんが王城から宿に戻ってくると、リィリさんが食堂で手を振っていた。
しかし、食堂にいるのはリィリさんだけで、どうやらレギさんはいないようだ。
俺達はただいまと声を掛けながらリィリさんの元へと向かう。
リィリさんは珍しく食事中と言う訳ではなく、飲み物だけがテーブルの上に置かれていた。
ナレアさんが俺達の分の飲み物を頼みながら席に座ると、リィリさんがニコニコしながら口を開く。
「どうだった?目的は果たせた?」
「えぇ、お陰様で無事に用事は全て済ませることが出来ましたよ。」
「中々話の早い相手だったのじゃ。次回行く時はリィリ達も是非連れて来て欲しいとのことじゃった。」
「そうなんだー。うん、楽しみにしておくよ!それとケイ君、おめでとう!」
リィリさんが満面の笑みで祝福してくれる。
俺は椅子に座りながら頭を下げた。
「ありがとうございます。お陰様で、母さんのお使いは無事終了です。」
「結構あちこちいったよねー。この短期間で回りきれたのは、シャルちゃん達のお陰だねー。」
「えぇ、本当に。皆が居てくれたからこんなに簡単に旅が出来たと思います。勿論、リィリさんやナレアさん、レギさんのお陰でもありますが。」
「あはは、大した事はしてないよー。」
「いえ、リィリさんのお陰で日々の食事が非常に彩のあるものになりましたし。」
「うむ。まさにその通りじゃな。」
「えー、それだけー?」
俺とナレアさんが頷き合うとリィリさんが不満そうに口を尖らせる。
「いえ、勿論それだけではありませんが。」
「例えばー?」
リィリさんは......精神的な強さで俺達を支えてくれていると思う。
特に空気が沈み込みがちな時に雰囲気を良くしてくれるのはいつもリィリさんだ。
俺もレギさんも、あまりそういうのは得意じゃないしな......。
「......ナレアちゃん、ケイ君が黙り込んじゃったんだけど......。」
「リィリと言う存在のありがたみが分かっておらぬようじゃな。」
「ひどいよねー。」
こうやって隙を見つけては口撃してくるのは勘弁してもらいたい......そういうのはレギさんだけにお願いしたい。
「ところで、レギさんはまだ冒険者ギルドですか?」
「多分そうじゃないかなー?」
「ずっと別行動じゃったのか?」
リィリさんの返事を聞きナレアさんが首を傾げながら問いかける。
「うん、今日は別々に簡単な依頼をこなしてたんだ―。私は手紙の配達、レギにぃも荷物の配達だったかな?私の方が距離があったから時間がかかったんだけど、宿に戻ってきてもレギにぃがいなくってさ、宿の人が言伝でギルドに行くけど宿で待っていてくれって教えてくれてね。」
「ふむ、入れ違いじゃったか。」
「入れ違え?」
「うむ。妾達も一回宿に戻って来ておったのじゃよ。その時は二人ともいなかったのでな。すぐに城に向かったからリィリとすれ違ってしまったのじゃろう。」
「なるほどー。でもなんでお城?」
少し眉を顰めながらリィリさんが尋ねる。
「うむ......少し待ってくれるかの?そろそろ妾達の飲み物が来る頃じゃ。」
幻惑魔法を発動させずに少し待って欲しいと言うナレアさん。
まぁ、幻惑魔法を展開している最中に店員さんが飲み物を持ってきたら、ちょっとややこしいことになるかもしれないしね。
「そっかー。もしかしてレギにぃがギルドに行ってることも関係ある?」
「うむ。その通りじゃ。」
「分かったよ。じゃぁレギにぃが戻ってきてから纏めて話を聞いた方が良さそうだね。急ぐ内容ってわけでもないんでしょ?」
「そうじゃな。緊急ではあるが、一刻を争うというほどでもないのじゃ。」
ナレアさんがそう言うとリィリさんはにっこりと笑ってから飲み物を口にする。
「妾達の話はレギ殿と合流してからするとして、こちらはどうじゃった?」
「んーレギにぃと街を歩いたり、簡単な仕事をしたりって感じだったけど......特に気になるようなことはなかったかな?強いて言うなら......攻略記念祭の開催が決定したからちょっと街の人達も盛り上がって来てるって感じくらい?」
「攻略記念祭は久しぶりじゃからのう。魔晶石は魔道国の根幹を担う物じゃし、直接魔晶石の利権とは関係ない物たちにも十分恩恵があるからのう。以前都市国家でケイ達の参加した祭りよりも派手じゃぞ?」
「楽しみだねー。料理大会とかあるのかな?」
「どうじゃろうな?色々催し物はあると思うが......気になるならマルコスに......。」
そこまで言ったナレアさんが言葉を止めると、お盆に飲み物を乗せた店員さんが俺達の飲み物を運んできてくれた。
ナレアさんは店員さんに軽くお礼を言った後、飲み物に手を付け口を開く。
「よく考えたら、攻略記念祭が予定通り行われるかどうかは微妙じゃな......。」
少し声を落としたナレアさんがそう言うとリィリさんの目が驚愕に開かれる。
「そんな大変な事が起こってるの?」
「うむ......む?レギ殿が戻ってきたようじゃな。」
ナレアさんが宿の入り口の方に視線を向けると、丁度レギさんが宿の中に入ってきたところだったようだ。
レギさんもこちらに気付いたようで、手を上げた後親指で天井を指す。
恐らく部屋で話そうってことだろう。
「そうじゃな、部屋で話したほうがいいじゃろう。」
「わかりました。お盆借りてきますね。」
俺はナレアさん達の提案を聞いて立ち上がりお盆を借りる。
流石に頼んで来た直後のドリンクを一気飲みするのはつらいしね。
俺は全員分の飲み物を乗せた後、皆の後を着いて部屋に戻った。
一人先に部屋に戻ったレギさんは......何故か俺の部屋の前で待っていた。
何故か知らないけど、集まるのは俺の部屋って暗黙のルールがあるよね?
俺は両手にお盆を持っているので鍵を出せないのだけど......と思っていると横にいたリィリさんが持っていたお盆を持ってくれた。
「......ありがとうございます。」
何となく釈然としない物を感じながらも鍵を開けて中に入ると、続けて皆も当然の様に入ってくる。
「......別に不満があるわけじゃないのですが......なんで毎回集まるのは僕の使っている部屋なのですかね?」
「特に理由はねぇが......最初からそうだったよな?」
確かに集まるときは俺の部屋って最初の頃からだった気はするけど......あの時は俺の秘密を皆に話そうとしたんだよね......?
「まぁまぁ、この部屋はケイ君とナレアちゃんの部屋なんだし、集まるなら人が多い場所だよね?」
「いや、この部屋は僕一人が使っているのでナレアさんの部屋ではありませんが......。」
「えー、一緒に使っているんじゃないのー?夜とか。」
「使う訳ないじゃろ!?馬鹿なのかの!?」
「えーナレアちゃん酷い!」
「あれじゃろ!?レギ殿と二人きりで数日過ごして色ボケておるんじゃろ!?」
ぎゃいぎゃい言い出した二人を尻目に、俺とレギさんはテーブルとイスを用意して腰を下ろす。
「無事に戻ってこられたようだな。」
椅子に座ったレギさんが笑顔を浮かべながら俺に言う。
少し安心した様子にも見えるし、心配してくれていたみたいだ。
「えぇ、妖猫様もとても良い方でしたよ。今度来る時はレギさん達も是非来て欲しいとおっしゃられていました。」
「そうか。緊張はするが、いい経験になるからな。喜んで伺わせてもらおう。それで、加護の方はどうだった?」
「えぇ、僕もナレアさんも頂けました。ただ、今までの魔法に比べて凄く難しくて......使いこなすには結構時間がかかりそうです。」
「ほう......まぁ、お前らなら何とでも出来るだろうよ。」
俺とレギさんが和やかに近況報告をしていると、ぎゃいぎゃいと騒いでいた二人が物凄い目でこちらを静かに睨んでいた。
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