第110話 調査報告
「では、戻って来たばかりで悪いが三人とももう一度付き合ってもらっていいかの?」
「あぁ、構わないぜ。」
「今から調べられるのですか?そろそろ日が暮れますし、明日になさった方が良いのでは?」
再び魔物を調べようとしたナレアさんをワイアードさんが止める。
確かに外は暗くなり始めているかな?
「気になる事があると眠れぬからのう、先に片づけてしまいたいのじゃ。」
「そうですか......承知いたしました。では檻を先ほどの場所まで運ばせますので少々お待ちください。」
「あぁ、ワイアード様。私達で運びますので大丈夫です。荷台だけお借りしても?」
「えぇ、それは勿論構いません。どうぞお使いください。」
レギさんがワイアードさんに断わりを入れて荷台を借りてくれる。
さっきここに戻ってくるときうっかり荷台を置いて行ってもらうのを忘れて檻を引きずって戻ってきたからな......。
「とりあえず、蛇でいいですか?」
先程の場所に戻り荷台から檻を下ろしたところでナレアさんに何かを言われる前にこちらから提案する。
「まぁどちらでも構わぬが。比較する必要もあるし、結局両方とも見ることにはなると思うがのう。」
ナレアさんは何という事でもないというような表情をしているが、目の奥に実に愉快といった光が見える。
「ソウデスネ......動きを止めればいいですか?」
「あぁ、すまぬ、ケイ。その前に説明するのじゃ。これから魔道具を調べるのじゃが。今まで魔物の死骸から回収した魔道具は全て魔力を失った状態で見つかっておる。じゃが妾が魔力視で見たところ現在魔物の体内にある魔道具は起動しておる。そこで魔物の体内にある状態のまま調べたいのじゃが、魔物を死なせたくないのじゃ。じゃから腹を裂いたときに死なないように魔物を回復してもらえぬか?」
「分かりました、傷が治らないように体力を回復させるってことですよね......?あまり長い事は維持できないと思いますが......。」
「もし魔物が死んでしまいそうだったら回復を優先して欲しいのじゃ。妾の予想では魔物が死んでしまうと恐らく魔道具の効果が切れてしまうはずじゃ。あ、勿論体の動きを止めるのが最優先じゃが......同時にやれるかの?」
「大丈夫です。ただ、回復の調整は指示貰っていいですか?」
「うむ、了解じゃ。レギ殿、切った部分を押さえておいてもらえるかの?リィリ、魔道具が見えないので血を拭ってもらっていいかの?」
「おう。」
「了解だよ。」
こんな感じで四人がかりの作業は進められていった。
それにしても強化を俺とレギさんに掛けたまま、弱体で魔物の動きを止めつつ回復魔法で生命維持......随分と色々なことが同時に出来るようになったものだね......。
毎日欠かさずやっている魔力操作の練習のお蔭かな?
っと余計なこと考えないで集中しないとな......。
ナレアさんは俺達にテキパキと指示を出しながら魔道具を調べていく。
「よし、ケイ。魔物の傷を治してやってくれ。」
「分かりました。」
どうやらナレアさんの調査が終わったようだ。
俺はクモの魔物の傷を治す。
クモには悪いと思うけど、この後はまた檻に戻してワイアードさんに引き渡さなければならないしね。
「すっかり遅くなってしまったな。皆、長い事付き合わせてしまって悪かったのじゃ。」
日はすっかり暮れてしまったが集中した様子で作業を進めるナレアさんは普段よりも格好良く見えた。
「構わねぇよ。受けた依頼だ、寧ろ雑用しか出来なくて悪いと思っているのはこっちだぜ。」
「そうだね、ケイ君はともかく、私とレギにぃは本当に雑用しか出来なかったしね。」
「そんなことはないのじゃ。手伝ってもらって助かっておる。とりあえず宿に移動するのじゃ。食事の後、部屋で調べて判明した内容を話そうと思う。」
「先にワイアード殿の所に報告にいかなくていいのか?」
「ワイアードには調査が終わった事だけ伝えておくのじゃ。」
「じゃぁ、その報告は俺とケイで檻を返すついでにしておく。二人は先に宿に戻って食事を頼んでおいてくれ。」
「了解、あんまり遅いと食べちゃうからね。」
「先に食べ始める分には構いはしねぇが、残しといてくれよ?」
「じゃぁ、ナレアちゃん。宿に戻ろうか!」
「うむ。」
レギさんの言葉に返事することはなく二人は帰路へとついた。
「これは早く用事を済ませないと食事がとれなくなりそうですね。」
「食い尽くされる前に宿に行かないとな。よし、急いで運ぶぞ。」
「了解です。」
俺とレギさんは食事の為に急いで荷台の荷車を引っ張って騎士団の野営地に急いだ。
ワイアードさんにお礼と報告をした後急いで宿に戻ったところ、何品か空っぽになった皿を見るだけで済んだ。
「それでは、妾が調べた魔道具について報告するのじゃ。」
食事の後、何故か俺の部屋に移動してナレアさんが調べた魔道具の報告をしてくれる。
「まぁ、そんな顔をするなケイよ。魔道具については人目につく所で話すのは避けるべきじゃ。確実にアレは人の手によるものじゃからな。何処で誰が聞き耳を立てておるか分からぬ。」
俺はどんな顔をしていたんだろう?
「そりゃぁお前......。」
「なんで俺の部屋に?って顔だよね。」
一人称まで読まれている!?
驚く俺をよそに何かを思いついたようなナレアさんがリィリさんに耳打ちをする。
今回の内緒話は聴力強化切らないよ?
っていうかアレは絶対悪だくみだから寧ろ強化をもっと上げる。
「......じゃから......ケイ......に......。」
「わかっ......ど......誘って......。」
くっ......強化が足りなかった......全然聞こえなかった......。
レギさんはしれっとした顔で持ち込んだお酒を呑んでいる。
多分自分に実害はないと放っているのだろうけど......いつもの事だがこういう時は薄情ですね......。
やがて打ち合わせが終わったのか、二人はニヤニヤしたまま椅子に座りなおす。
「話がそれたのじゃ。では魔道具の話を始めるのじゃ。今回、皆のお蔭で魔物の体内にある魔道具を調べることが出来た。正直細かい効果までは把握できておらぬ、じゃがある程度の情報を得ることが出来たのじゃ。やはりアレは魔物を操るというか行動をおかしくさせる効果がある魔道具で間違いないのじゃ。まぁ予想しておった通りじゃのう。」
やっぱり魔道具のせいで間違いなしか......。
「魔道具の効果は一度限り、とは言え明かりの魔道具等と同じで持続時間が長いから問題はないな。魔物が死ねば効果が切れるので死んでしまえば魔道具の効果は分かりようがない。ケイの回復魔法が無ければ調べるのは難しかったじゃろうな。」
証拠隠滅もある程度こなしているって感じかな?
まぁ魔晶石そのものが残っているから今回みたいに色々と推察されるだろうけど。
「これで今回の件が人為的に引き起こされたのは確実になった訳じゃな。問題は誰が引き起こしたかという事じゃが......流石にそこまでの事は分からなかったのじゃが、以前魔物を操るという魔道具の研究を見たことがある。内容は別物ではあるが似通った部分もあったのでその方面から探ることが出来るかもしれぬが......少し時間がかかるじゃろうな。」
「当然動機も分からないってことですよね......。」
「うむ、相手が分からぬことにはな。じゃが何となく思いついたことはある。恐らくじゃが相手の狙いは今の状況なのじゃと思う。」
「今の状況......実験という事ですか?」
完璧に魔物を操るために実験を繰り返しているということだろうか?
「いや、そうではない。まだ二つしか魔道具を調べたわけではないが、全く同じ魔術式であった。一つの群れには同じ魔道具を使っているという可能性もないわけではないが......これは完成した魔道具のように思うのじゃ。まぁこれは魔術師としての勘の様なものじゃがの。」
「なるほど......別の群れを調べた方が良さそうですかね......。」
「それが出来れば苦労はしないがのう......とりあえずハヌエラに他にも魔物を生け捕りにして欲しいと伝えてはおくか......。」
俺達が群れに遭遇できれば話は簡単なのだが、偶然出会うのは中々難しい。
それならば人海戦術が出来る騎士団に話を通しておいた方がいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます