第109話 調査開始



村に着いてすぐに騎士団の人達は野営の準備を始めた。

スラッジリザードに襲われた村の時もそうだったけど、村の施設は使わないんだな......施設を使ってお金を落とす方が村の人達的には嬉しいんじゃないだろうか?

まぁそれはどうでもいいか。

今俺たちの目の前には騎士団の人に運んでもらった魔物の檻がある。


「そう言えばこれってどうやって捕まえたんですか?」


「どうやって、とは?」


俺の質問にワイアードさんが首を傾げる。


「えっと、罠を使ったとか......薬を使ったとか。」


「あぁ、そういう事ですか。魔物を捕まえる時は、力づくで抑え込むしかありませんよ。」


「え......?」


力づくで抑え込む?

魔物を?


「獣用の罠では簡単に食い破られます。魔物用の罠もないことはないのですが、生憎と私達の部隊には使い手がおりませんので。」


それで素手で捕まえるって発想になるかな......?


「す、素手で捕まえたんですか?」


「あはは、別に素手で掴みかかるわけじゃありませんよ。金属糸を使って編んだ網を使って捕獲したのです。」


「なるほど、そうだったのですね。」


「まぁ冒険者の方々が手を貸してくれたおかげで捕獲できたのですがね。流石に我々だけで捕獲は無理でしたよ。」


動きを止める様な何かがあればと思ったけどそういう都合のいいものは無かったか。

調べるには弱体魔法で動きを止めるしかないけど......ワイアードさんの前では使えないな......。

俺はナレアさんの方を見る。

ナレアさんは了解というように軽く頷くとワイアードさんに話しかけた。


「ハヌエラよ、すまぬがここからは妾達だけに任せてくれぬか?」


「それは危険です!ナレア様には遠く及びませんが、私も騎士として修練を積みました。けして足手まといにはなりません!」


「うむ、お主の実力を疑っているわけではない。寧ろ頼りにしておるのじゃ。じゃが今回は少し事情があってな。応龍にも関係しているあるものを使って魔物の事を調べるのじゃ。」


「応龍様の!?ということは......。」


「うむ、すまぬがおいそれと人目に触れさせるわけにはいかぬのじゃ。妾達は応龍から直接話を聞いておるのでな......申し訳ないのじゃが......。」


「承知いたしました。応龍様の御心であるならば否などございませぬ。私は部隊に戻りますので後の事はお願いします。ですがくれぐれもお気をつけください。」


「すまぬな。」


ワイアードさんは以前見た敬礼をすると野営地に向かって歩いて行った。


「ありがとうございます、ナレアさん。」


「気にしなくていいのじゃ。流石にワイアードに魔法を見せるわけにはいかぬじゃろうからな。」


そう言ってナレアさんは檻に掛けられていた布を外す。

檻に入っていたのは......クモだった......。

俺は目を覆おうと動こうとした左手を右手の力で押さえつける。

ナレアさんはうっすらと笑みを浮かべているようだがアレはきっとドS的な何かではなく、問題解決の糸口を掴んだっていう喜びの微笑みのはずだ。


「ではケイ、頼むのじゃ。」


ニヤニヤが深まったがきっとそういうアレではないはず。

俺は気合を入れて檻の前に立つ。

大丈夫だ、相手は檻の中だし問題ない。

ちょっと焦点をずらしているからあまりはっきりとは見えないしね。

飛びかかってこようと檻の中でもがいているクモに弱体魔法を掛ける。

途端に力を失くしたクモが崩れ落ちてピクリとも動かなくなる。


「相変わらず見事じゃな、これで生きているというのだから驚きじゃ。」


「これってナレアちゃんと模擬戦した時の魔法?へぇ、ここまで動けなくさせられるんだね。」


「うむ、身動きを取れなくさせて色々と調べるのにはうってつけじゃな。」


「ケイ君。悪いことに使っちゃダメだからね。」


「その予定はありませんね......。」


ナレアさんがしまったといったような......チャンスを逃したって顔をしている。

よし、リィリさんに感謝しておこう。


「......ではケイ、檻からクモを出してくれ。」


「......え?」


「いや、調べるのに檻の中じゃ難しいから出して欲しいのじゃが?」


いや......それは流石に......。


「......あー、魔法に集中したいので......レギさんお願いしていいですか?」


「おう、いいぜ。」


二つ返事で引き受けてくれるレギさん。

かっこいい......。

レギさんは檻に近づきひっくり返してクモを外に転がす。

今回は足だけではなく全身の力を奪うようにしている。

ナレアさんが調べている間殺さないように、だが身動き一つさせないようにしないといけない。

集中しないといけないのは嘘ではないな......慎重に、集中してやろう。


「ここから先はふざけるのは無しで行くのじゃ。ケイ、すまんがよろしく頼むのじゃ。」


「はい、動きを止めるのに集中しているので終わったら教えてください。」


「了解じゃ。レギ殿、リィリ。少し手伝ってくれ。まず仰向けして腹の方を調べるのじゃ。ケイ一部分だけ魔法を解除したりはできるかの?」


「大丈夫です。指示をくれれば状態を変化させます。」


「うむ、後で頼むのじゃ。」


そう言ってナレアさんはクモを調べ始めた。




「ふむ、予想していたよりも色々分かったのじゃ。」


調べていたクモを檻の中に戻した後ナレアさんはこう呟いた。


「結構収穫はあった感じですか?」


「うむ、まずは魔力視で調べてみたのじゃが、通常の魔物とは異なり魔力が体内でぐちゃぐちゃに動き回っているのが見えた。さらに腹部に起動中の魔道具があることも確認できたのじゃ。まず魔力の方じゃが、ダンジョンの外の魔物の場合、基本的に魔力は体内を循環するように動いている。力を込めたりするとその部分に集中したりすることはあるがな。」


魔力が乱れることによって行動がおかしくなったりするのか、行動がおかしくなったことによって魔力が乱れたのか......魔物の魔力の乱れを正常に戻すことが出来れば分かりそうだな。


「次に魔道具じゃが、流石に魔術式も見えない状態ではどんな効果の魔道具なのかはわからぬ。じゃが魔道具を中心にして体内の魔力が乱れているように見えるのじゃ。まぁ想像通りこの魔道具が原因と考えて間違いないじゃろうな。しかし、流石に騎士団が捕獲した魔物の腹を裂くわけにはいかぬからな......今調べられるのはこのくらいじゃろう。」


まぁ確かに、ワイアードさん達はこの魔物を捕まえるのに犠牲を払っているはずだ。

それを俺たちが勝手に殺してしまっては問題がありすぎる。

出来れば譲ってほしい所だけど......王都にも報告していることだし難しいよね......多分魔物を研究する所に送るのだろうし。

やっぱりどこかで様子のおかしい魔物を捕獲しないとダメだろうな......。




「承知しました。ナレア様の自由にしてもらって結構です。」


魔物の入った檻を俺とレギさんで引きずりながら戻った後、ワイアードさんに一通りの調査が終わったことを報告しに行った。

これ以上調べるとなると捕獲した魔物を殺すことになりそうだと話したところ、飛び出したワイアードさんの台詞がこれだ。


「本当に良いのか?お主たちが苦労して捕らえた魔物じゃろう?」


「えぇ、構いません。私にとってこの問題を解決してくれるのであれば相手は誰でも構いません。その相手が応龍様も信頼するナレア様であるのなら協力しないほうが不敬というものです。」


「手柄を横取りするようで悪いのう。」


「シンエセラ龍王国に平穏が戻る以上の望みはありません。部下たちは手柄や名誉を求めるかもしれませんが......いい酒の二、三本でも差し入れれば忘れるでしょう。」


そういって爽やかな笑みを浮かべるワイアードさん。

イケメンさんですなぁ......顔も行動も......。


「けして無駄にはせんと約束するのじゃ。」


そうやって断言出来るナレアさんもイケメンだなぁ......俺だったら間違いなく頑張ってみるとか言って誤魔化す感じに言っちゃうよな。

これは自信の有り無しじゃなくって信念とか誇りの差ってことなんだろうな......。


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