第335話 凄いのは誰か



「っと......すまぬのじゃ。二人で盛り上がってしまったのう。」


「いや、申し訳ございません。お茶もすっかり冷めてしまったようですな。お替りなどいかがでしょうか?」


何やら技術的な論争を繰り広げていたナレアさんとアースさんが、唐突に我に返り俺達の方に向き直る。

俺達は顔を見合わせると苦笑しながら返事を返す。


「いやーそれは気にしなくていいけど、やっぱり二人は凄いねぇ。」


「あぁ、技術的なことはよく分からないが、色々な手法を用いて魔術ってのは組み上げられていくんだなと感心していた所だ。」


「僕自身が理解できていない道具を、魔術という別の手段で再現出来るのはお二人以外にはいないのでしょうね。」


俺達の賛辞に二人は頭を掻く。


「いや、以前も言ったが......アースはともかく妾はそこまでではないのじゃ。あくまでそこそこくらいじゃな。アースのその独創性に妾は驚かされるばかりじゃ。」


「いえいえ!ナレア様は素晴らしいです!特に応用、発展に関しては私なぞ足元にも及ばぬと思います。解析についても長年独学で研究を続けて来た私に勝るとも劣らず、といった感じですな!私なぞ、ただ単に古い技術を知っているだけの古物に過ぎませぬ!」


お互いがお互いを褒めたたえているけど......俺達からしたら二人とも凄いことには変わりない。

そんな二人が謙遜し合っていたが、やがて二人揃って俺に顔を向ける。


「まぁ、最近は専らケイの世界にある道具を再現することに注力しておるからのう。ケイに話をしてもらわねば何も出来ぬのじゃ。」


「えぇ、えぇ。お父さんの世界の道具は本当に面白い!発想がぶっ飛んでいます!人はこんなにも突拍子もないことを考えられるのだと感心するばかりです!はっはっは、いや、はっはっは!」


まぁ、地球の皆さんも、朗らかに笑うスケルトンにはぶっ飛んでいるとか、突拍子もないとか言われたくないと思いますが......。


「まぁ単純に僕のいた世界は人が多いですし、多くの人に知識が解放されていますからね。色々な人が色々なことを考え、実現しようと行動に移しています。そのおかげで僕のように何も考えずに色々と便利な道具を使っていられるのだと思います。」


「ケイは適当な知識と言うが、その発想が聞けるだけでも値千金といったところじゃよ。」


「これからも是非お父さんには発想の雫を恵んでいただきたいものですな!はっはっは、いや、はっはっは!」


俺は何一つ凄くはないのだけど......まぁ、色々と伝えるのは面白くはあるかな?

ここで何か面白そうなものを二人に伝えられるといいのだろうけど......パッとは思いつかないな。

俺がまた何かアイディアを話すことを期待していたのか、ナレアさんが俺の事をじっと見ているのに気付いた。


「えっと......すみません。特に今思いつく物はないです......。」


「む......?いや、そうか。それは残念じゃ。」


ん?

違ったのだろうか?

ちょっとナレアさんの反応が鈍かった気がするけど......。

若干気まずげというか、なんというか。


「......あーそうじゃ。アースよ、これを見てくれ。遠距離通信用の魔道具なのじゃが......。」


俺が疑問を口に出すよりも早く、ナレアさんが傍らに置いていた背嚢から腕輪型の魔道具をとりだした。


「ほおーこれは......よく見せてもらっても?」


「うむ。今回の旅の間改良を加えていたものがやっと形になってのう。」


この改良型の魔道具は俺も知っている。

カザン君達の所で骨休めをしていた時に完成したもので、カザン君のところにも置いて来ている通信用の魔道具だ。

以前まで使っていた魔道具では双方の音が垂れ流しだった為、常に傍に持っておくには色々と覚悟が必要な物だったがこれはその点を克服した代物だ。

普段は通信用の魔道具は起動しておらず、通信相手と連絡を取るときだけ起動出来るようになっている。

また、魔道具を起動した際に通信相手の魔道具の方で呼び鈴というか、音を出すことで起動を相手に知らせる機能があって、通信相手はそれを聞いてから魔道具を起動することで通信を開始することが出来る。

電話の機能を大分取り入れることが出来たということだが、対になっている魔道具としか通信できないので、まだおもちゃのトランシーバーくらいの機能だろうか?


「ふーむ、これは見事ですな。一つの魔晶石の中に三種類も魔術式を組みこんでいるのですか。それでいながら普通の魔道具と同じように、特に意識せず魔力を流し込むだけで使える様にしてある。見事な心遣いですな。いや、これは素晴らしい!まさに先程おっしゃられていたどう使うか、どう使われるかをよく考えておられるからこその親切設計!はっはっは、いや、はっはっは!」


調べて行くうちにテンションが上がって来たのか、立ち上がりながら絶賛を始めるアースさん。


「ほほ、しかし魔晶石が一般的なものではないからのう。以前も話したと思うが、この技術はまだ公開するつもりはないのじゃ。まぁ、その内、遠距離通信の理論くらいは発表してもいいともうが......そうじゃなアースが発表するかの?」


ナレアさんがそう言うとアースさんがキョトンとした雰囲気になる。

表情は一切変わらないけど......そんな感じはがするし、恐らく間違っていないだろう。


「私がですかな?ふむ......それは少々難易度が高くありませんか?いえ、研究発表をしたくないと言う訳ではありませんが......私ちょっと強面ですし......。」


まぁ、強面って言うか髑髏だよね......。

恐らく大半の人がアースさんの顔を見たら怯えて逃げ出すだろうし、怯えなかった残りの人は襲い掛かってくるだろう。


「ほほ、実は今回ここに来た最大の理由はそれなのじゃ。」


そう言ってナレアさんが今度は指輪型の魔道具をテーブルの上に置く。


「ふむ......手にとっても?」


ナレアさんが頷くとアースさんが手を伸ばして魔道具を摘まむ。

そして嵌め込まれている魔晶石を見た瞬間アースさんが声を上げた。


「おや?これは魔道具ではないのですか?魔術式がないようですが......。」


「うむ。それは魔術による魔道具ではなく、魔法による魔道具じゃ。」


「ほぉ!これが魔法を使ったの魔道具ですか!私のいた遺跡にはありませんでしたからなぁ!初めて見ますが......ふむ、どのような効果があるのか、外から見ただけでは分からないのが難点ですな。」


「ほほ、そうじゃな。じゃからこそ、遺跡に転がっている魔法式の魔道具がただの装飾品扱いされておるわけじゃな。起動するのに必要な魔力も桁違いじゃし、魔族であっても発動させられるものはほとんどおらぬじゃろ。」


「ふむ......人の持つ魔力量の減衰......それも面白そうな研究対象ですな。その内調べてみましょう。まぁ、今はそれよりもこの魔道具ですな!一体どのような効果で?」


「それは指輪を嵌めて発動させると、その身に幻を纏うことが出来るのじゃ。」


ナレアさんの言葉を聞き、アースさんがピンときましたといった表情に......。


「ピンときました!」


うん、言ったね。


「つまりこういう事ですね?」


そう言ってアースさんが左手の薬指に指輪を嵌める。

関節に引っかかることなくすぽっと嵌ったけど......つまりすぽっと抜けるってことでもあるよね?

っていうか、アースさんの関節ってどうやって繋がっているのだろう?

そんな俺の疑問を他所に、アースさんが指にはめた魔道具を起動する。

どうやらアースさんも魔力量は多いようだね。

俺は霞掛かって若干輪郭のぼやけたアースさんを見ながらどんな姿になるのかワクワクしていた。


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