第205話 紹介するのです
「母様、こちらがレギ兄様です。とてもお強くてかっこいいのです!皆様のお兄様なのでとても頼りになるのです。後、頭は剃っているだけなのです!。」
頭の事を何故か紹介されたレギさんは一瞬固まったが笑顔でレーアさんに自己紹介をする。
レーアさんも微妙に気まずそうにしたものの笑顔で応える。
流石淑女ですね。
「こちらはリィリ姉様なのです。とても優しいのに戦うお姿はとても綺麗でかっこいいのです!色々な遊びを教えてくれたのです!後レギにもごっ!」
後ろからノーラちゃんを抱きしめながら口を押えたリィリさんが、あははと笑いながらレーアさんに挨拶をする。
貴族のご令嬢相手にちょっと危険な行為のような気もするけど......後ろから抱きしめられたノーラちゃんも嬉しそうだし、レーアさんも特に非難するようん素振りはない。
しかし......ノーラちゃんが紹介の最後に付け加える一言には要注意のようだね......。
「こちははナレア姉様です。とても博識でいらして色々なことを教えて頂きました!しかもそれだけじゃなくて戦われてもとってもお強いのです!さらに魔術師でいらっしゃって色々な魔道具を作ることが出来るのです。後け......。」
「ただいま紹介に預かった、ナレアと申す者じゃ」
言葉を遮るように自己紹介を始めるナレアさん。
更にノーラちゃんの頭を強めに撫でている。
ノーラちゃんは頭をぐりぐりと撫でられて楽しそうに笑っている。
しかしこの調子で行くと......俺はどんなことを言われるのだろうか......?
俺もナレアさん達みたいに上手いこと遮れるといいのだけど......。
「こちらはケイ兄様なのです。ケイ兄様はナレア姉様と一緒に私と兄様を助けて下さったのです!とってもお強くてお優しい上に色々なことが出来て凄いのです!でもそれは秘密なのです。」
......あれ?
終わり?
ちょっと肩透かしというか少し切なさを覚えないでもなかったが変なことを言われるよりはマシだね。
「初めまして、レーア様。ケイと申します。」
「ケイ兄様は皆に厭らしいって言われているのです。」
ずっと笑顔だったレーアさんの動きが凍ったような気がした。
一度紹介が終わった後にぶっこむパターン!?
「後兄様が綺麗になった時、見つめ合ってドキドキしたのです!」
更に追加だと!?
レーアさんが氷を通り過ぎて石になった気がする......。
俺は崩れ落ちそうになる膝に全力で力を籠める。
ナレアさんとリィリさんは肩を震わせている。
レギさんはぼけーっとしているしカザン君は......物凄く複雑な表情をしている。
楽しんでいるのが三人、苦しんでいるのが二人、固まっているのが一人、何も考えていないのが一人と言った塩梅だね。
......苦しい。
ってそうじゃない、レーアさんの誤解を解かねば......。
「えっと......レーア様、厭らしいと言うのは戦い方の話でして......。」
「あ、はい!そうですよね!?」
俺の言葉に再起動したレーアさんがぽんっと手を合わせながら慌てて返事をしてくる。
「ところで、その......綺麗になったカザンと言うのは......?」
......帰りたい。
何処へと言われると困るけど......とにかく今すぐ帰りたい。
当然、ナレアさんリィリさんは助けてくれないし、レギさんも同様だ。
ノーラちゃんには悪気がないのでさらに爆弾をぶっこむ可能性を否定できない。
ならばこれは当事者が解決するべき問題だろう。
そう思い俺は顔を上げて......カザン君に何とかして欲しいと目線で助けを求める。
するとカザン君が今はケイさんの自己紹介中なのでそちらで何とかしてくださいと目線で返してくる。
いやいや、ノーラちゃんもレーアさんもカザン君の家族なんだから上手くやってよと目力で返す。
いやいやいや、こういう微妙な話は家族から言うよりも第三者から話したほうが余計なこじれ方はしないものですよと返ってきたので......何故か目だけで会話が出来ているような気がするのだけど......もしかして俺の顔を見れば何を考えているかは分かると言うのはこういったことなのだろうか?
何やらひそひそと、目だけで通じ合っているのじゃとか聞こえてくる気がするけど......今はそれどころじゃない。
っていうか余計な事を今は言わないでください!
俺がほかの事に気を取られた瞬間を隙と捉えたのかカザン君が先手を取って......。
「母様、お爺様を待たせているので私はそろそろ失礼します。お爺様より客間を用意して皆様をお通ししておいて欲しいと伝言を預かっております。どうかよろしくお願いします。それでは皆様、少しばかり失礼いたします。」
そうまくしたてるように言ったカザン君がこの場を離れていく。
ニゲラレタ。
唯一の味方が俺を置いて逃げていきましたよ。
レーアさんは去っていく後ろ姿に何か言いたげにしていたのだが......やがてターゲットを完全に俺にロックオンした。
レーアさんは近くにいた兵士に一言二言伝えると俺に向き直る。
「今部屋の用意をしていますのでもう少しお待ちください。それでケイ様......先ほどのお話なのですが......。」
なんか友達と一緒にちょっと悪戯をしていたらその友達の親に見つかって詰問されている、みたいな感じになっている。
因みにその友達は俺を置いて先に逃げ出したのだが......。
「えっと......それは、なんといいますか......。」
え?
俺はこれなんて言ったらいいの?
助けてくれない仲間たちの事は頭の隅に追いやって、空いた脳の容量をフル回転させる。
そこで、俺にはいつも助けてくれる仲間がいることを思い出した。
「ノーラちゃん。」
俺はノーラちゃんを呼びかけながら俺の肩を指す。
肩には当然のように、シャルとマナスが乗っている。
こうすればノーラちゃんは笑顔でシャル達の事を紹介してくれるはずだ。
レーアさんの質問に対して無視をする形になってしまうが、ここは許していただきたい......。
この問題は俺の手には余るのです。
何やらナレアさんとリィリさんが面白くなさそうな顔をしているが、これ以上ない解答だと思う。
俺の肩を見たノーラちゃんが、思い出したというように紹介を再開してくれた。
「母様!ケイ兄様の右肩にいるのがシャルさんです。小さいけど本当は大きくてとっても早いのです!」
「よろしくお願いしますね。シャルさん。」
レーアさんに声を掛けられたシャルが少しだけ顔を上げて反応する。
レーアさんはさらっと流してくれたけどノーラちゃんはぽろっと色々言ってしまいそうだな......まぁ仕方ないとは思うけど。
「それと左の肩にいるのはマナスさんです。私達の言葉を全部理解されていて、増えたりして皆を守ってくれるのです!」
「マナスさんもよろしくお願いしますね。」
挨拶をされたマナスは体を少し伸ばして俺の肩の上でお辞儀をするように体を曲げる。
レーアさんは少し驚いたようだったが、すぐに微笑むとマナスに向かって頭を下げる。
このグラニダでも相当偉い......というか一番偉い人の奥さんなわけだけど......うん、普通の優しいお母さんって感じだね。
とりあえず例の件から話題を逸らすことが出来たようで、俺はほっと胸を撫で下ろす。
「他にもここには来られていませんが、グルフさんとファラさんという方がいらっしゃいます。グルフさんは狼さんでファラさんはネズミさんです!」
「そうなの。色々なお知り合いが増えたのですね、ノーラ。」
「はい!皆様とっても凄くて本当にかっこいいのです!」
俺達の事をとても嬉しそうに紹介するノーラちゃんの頭を撫でながら俺達に向き直るレーアさん。
「レギ様、ナレア様、リィリ様、ケイ様。それと、シャルさん、マナスさん。ノーラとカザンをここまで無事に連れて来てくれて本当にありがとうございます。まだ詳しい話は聞けていませんが、この短い間でノーラ、そしてカザンが皆様に全幅の信頼を置いていることがよく分かります。二人は本当に頼もしい方々とお知り合いに慣れたのですね。」
「お二人との出会いは本当に偶然ではありましたが......私達としても楽しい日々を過ごすことが出来たと思います。私達にとっても本当に良き出会いでした。」
柔らかくお礼を告げてくるレーアさんに応じるレギさん。
ノーラちゃんはその横で嬉しそうに笑っており、ナレアさん達はその様子をみて嬉しそうにしている。
当初考えていたよりもずっといい状況な気がする。
後はカザン君がお爺さん達との話を聞いて......どういう動きにこれからなっていくのか......まぁ、もしかしたら俺達はお払い箱って可能性も零ではないかな?
そんなことを考えていたらレーアさんに一人りの兵士が近づいて来て耳打ちをする。
「皆様、お待たせして申し訳ありませんでした。部屋の用意が出来たようなのでこちらへ。」
そう言えば、ずっと入り口のホールみたいな場所で話をしていたけど、結構長いこと話をしていた気もするな。
「それと、ケイ様。後ほど先の話の続きを聞かせて頂けますか?」
にっこりと笑いながらレーアさんが告げてくる。
......母親からは逃げられない!?
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